2013年3月25日月曜日

LCSAW 2013


 2013年3月23-24日に神戸大学百年記念館においてLearner Corpus Studies in Asia and the World (LCSAW)と題して国際シンポジウムが開催されました。これは神戸大学の石川慎一郎先生が中心になって作成したThe International Corpus Network of Asian Learners of English (ICNALE)の完成を記念して(?)開催されたもので、学習者コーパスの研究において著名な研究者を世界各地から招いて行われていました。参加者は配布された名簿によれば90名以上(そんなにいるようには見えなかったのだけど)とのことで、多くの参加者は日本人でしたが日本在住で英語を母語とする人も多く参加しており、各発表において英語で活発な議論が行われました。ICNALEの詳細についてはサイトを参照してもらった方が早いと思いますが、コーパスの特徴としては、

(1)アジアの学習者に焦点
(2)ライティングにおける変数をできるだけ統制
(3)学習者を熟達度によって分類
(4)英語母語話者のサンプルも収集

という4点に集約されます。

今回は自分の勉強のために参加したので、勘違いや的外れなまとめが多いかもしれませんが(いつもだけど)、以下いくつかの発表の備忘録。

Granger, S. 
Contrastive Interlanguage Analysis: A Reappraisal

最初の講演。対照中間言語分析の全体像について、そして中間言語に影響を与える変数として母語の話をされた後、その他の変数(習熟度や地域など)も考慮に入れることが重要であると主張されました。International Corpus of Learner Language (ICLE)ではこれらの変数ごとにソートができるそうです(ICLEについては以下の論文も参考になりますね)。

Granger, S. (2003). The international corpus of learner English: A new resource for foreign language learning and teaching and second language acquisition research. TESOL Quarterly, 37(3), 538-546.

また対照中間言語分析、コーパス分析において「英語母語話者を規範としている」という批判に対しては、SLAをはじめとした他の研究でも同様の状況だと批判を一蹴されました。またコーパスのデータに基づくだけではなく実験的手法に基づいたelicitationデータを利用してコーパスデータを補完することの重要性も指摘されました。

Ishikawa, S. 
The ICNALE and Sophisticated Contrastive Interlanguage Analysis of Asian Learners of English. 

石川先生と言えばお馴染みのスライドの上にタイマーを表示させながら、壇上を所狭しと動き回るスタイルでの講演。ICLEやJEFLLコーパスを紹介した後、ICNALEの特長について解説されました。

対照中間言語分析は主に(1)過剰・過少使用、(2)L1の転移、(3)学習者のコミュニケーションにおける回避、(3)(非)英語母語話者の言語使用、(4)非英語母語話者が苦手な側面を扱うものであるとまとめられました。またそれに対する批判のまとめとしてはGranger (2009)があり、それらは主に英語母語話者を規範とすることに対してのものであるそうです。今後より洗練されたものにしていくためにはExternal Conditions、External Validity、Internal Validityの3つが必要になると話を締めくくられました。

また『ウィズダム和英辞典(第2版)』を紹介されましたが、この辞書にはICNALEのデータが活用されているようです(訂正:指摘をいただきました。英和ではなく和英でした(2013.3.25))。

Kirkpatrick, A
The Asian Corpus of English: Motivation and Aims

ASEANの国および中国、日本、韓国のデータを収集したAsian Corpus of English (ACE)の紹介。詳細はThe ACE manual(PDF)および彼の著作を参照のこと(今回の講演と似たような内容としてこんなスライドもオンラインにありました)。

現在はEnglish as a Lingua Franca (ELF)の時代であるとして、このようなコーパスの意義を強調されました。またACEはヨーロッパにおける同等のコーパスVienna Oxford International Corpus of English (VOICE)との比較を主眼に置いているそうです。

両者の比較を行った結果の予備的な考察として以下のようなものを提示されました。

VOIEとACEの比較
・3人称単数の付け忘れ
・動詞の拡張的使用
・同じ付加疑問詞の使用
・指示詞のthisと名詞の複数形の組み合わせ
・通常とは異なる前置詞の使用

VOICEにあってACEにないもの
・who/whichの相互使用
・(不)定冠詞の柔軟な使用
・不可算名詞を複数形として使用

ACEにみられるもの
・過去時制における原形の使用
・冠詞の省略
・複数のsの欠如
・連結詞beの省略

Granger, S. 
The Passive in Learner English: Corpus Insights and Implications for Pedagogical Grammar

1日目の概説的な内容とは打って変わって、受動態に特化した講演でした。

コーパスを利用した受動態についての研究にはStartvik (1996)やGranger (1983)、Biber et al. (1999)などがある。それらの研究の結果明らかになったのは80-90%の文においては行為主が省略されているということ、またgetを利用した受動態は少ないということである。

これら先行研究の結果を踏まえた上で、ICLEとICNALEとの比較を行った。受動態は自動的にPOSタグ付けしたデータから、<Vbe>、<VVN>のタグで検索して取り出した。この方法の限界はHe was recently arrested.のようにbe動詞と過去分詞の間に何かが入っている場合は取り出せないことである(これは解決は難しいにしても何とかしたい問題ですね)。

熟達度が上がると受動態の頻度が高くなるという仮説を立てたが、これは立証されなかった。1つの理由として考えられるのはトピックによる影響とのこと。実際ICNALEの2つのトピックで比較をしてみると”It is important for college students to have a part-time job.”よりも”Smoking should be completely banned at all the restaurants in the country.”のトピックの方が受動態が多用されているという結果であった。また後者のトピックにおいては、

A2   : 20%
B1.1: 28%
B1.2: 37%
B2   : 47%

という割合でbe bannedが利用されており、エッセイの刺激文にも影響されていることがわかる。

次にThe disadvantage can be see in the poor economy status. 

のように過去分詞にできていない間違いについては<Vbe><VV0>で検索をした結果、400件の誤用が見つかった。

またELTの文法テキストを分析した結果、これらコーパスデータの分析結果から明らかになったことはほとんどテキストに反映されておらず、語彙とのかかわりについては絶望的な状況であると指摘した。例外としてはCerce-Murica & Larsen-Freeman (1999)の本(?おそらくリンク先の本だと思うのですが)、Cowan (1998)のThe Teacher’s Grammar of Englishを挙げられました。

最後にコーパスに基づいた研究の結果をテキストの受動態のセクションに活かすためには、

・頻度情報
・lexico-grammarパターンのリスト
・使用域
・学習者が困難と感じる受動態のパターン
・言語グループ特有の困難点

などの情報を追加するべきだと主張されました。

その他、印象に残った言葉としては、

Learner corpus data can contribute to a better understanding of the acquisition of [文法項目など] and better descriptions in ELT tools. 

...”marketability rather than pedagogical effectiveness” is the publishers’ main concern and that many editors are “far more comfortable with rehashes of what has gone before than with something different (and refreshing)” (Harwood, 2005)

などがあります。

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ということでコーパスに興味を持ち書籍を読んだりはしていたものの、このようなシンポジウムに参加する機会がなかなか無かったので、とても参考になりました。面白かったのは日本の研究者たちはコレスポンデンス分析等の統計的手法を駆使して分析した結果を発表をしていたのに対し、海外の人たちはコーパスに見られる実例を提示することが中心で、数値と言えば頻度や%、またグラフの提示に留めているということでした。どちらが良いとは言えませんが、英語母語話者は「直感とは異なるデータ(実例)の面白さ」、非英語母語話者は「(直感が無いためか)統計的手続きに則ったデータの確からしさ」に興味があるのかもしれません。

現在世界各地で様々な学習者コーパスが構築されています。今まではコーパスを構築して言語を記述するだけで良かったのかもしれませんが、「学習者」ということばが付いている以上、教育の視点を排除することはできない訳で、現在はコーパスデータを教育に活用するというステージに入っているのでしょう。その視点から言えば、語レベルの分析に留まってしまうとやはり物足りない側面もあるので、今回のシンポジウムでもword clusterやdiscourse markerなど語よりも少し大きな単位で分析をしている発表がいくつかありました。けれども語レベルを超えてしまうとタグ付けの作業等が膨大なものになってしまうので、そこを石川先生が最後にCollaborationということばで締めくくられたように、学習者コーパスの研究だけではなく各分野の研究者たちが協力していくことが大切になってくるのかもしれませんね。

またシンポジウムの中では時折SLAを意識した発言がありましたが、このあたりはどうなのでしょうか。学習者コーパス研究は大きな枠組みでいうとどこの研究に属するのか(SLA?文学?教育?言語学?)ということも少し気になりました(このあたりは詳しくないので私見です)。


百年記念館前の桜
百年記念館からの景色

2013年3月22日金曜日

卒業式

 2013年3月19日に卒業式が行われました。学長をはじめ様々な方からの祝辞がありましたが,印象に残ったのは本学の卒業生で現在オタフクソースの社長である佐々木氏の「ぞうきん洗い」の話でした。それは彼が大学時代にやっていたガソリンスタンドでのアルバイトの話でしたが,簡単に見えるぞうきん洗いそして窓ふきがいかに難しいかということ,そしてその単純なことを頑張っていれば必ず誰かが認めてくれること,についてお話しされました。この話を聞きながら,ふと以前読んだブログの記事を思い出しました。

  いざ就職して仕事を始めると辛いことの方が多いことでしょう。でも単純なことでも真剣に頑張っていれば認めてくれる人がいるはず。私自身も今自分が置かれている状況について改めて考えさせられるお話でした。自分も含め年を重ねていくと話したいことが多くて長話になりがちですが(苦笑),辛抱して聞いていると良い話に出会えることもありますね。

  卒業生のみなさまのご活躍を心より応援しています!そして大学教員にとっては長かった年度の終わりです。そろそろ気持ちを切り替えなきゃ。

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2013年3月4日月曜日

2012年度後期授業アンケート

後期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきたので,まとめておく。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。 ちなみに質問項目は2分類に分かれており,以下の通り。

【授業の体系性】
1.授業内容は授業計画と一致していましたか。
2.授業のねらいや学習目標は明解でしたか。                                 
3.授業時間や授業回数はきちんと守られていましたか。               

【教授方法・講義内容】
1.教員の話し方や声の大きさは適切でしたか。      
2.教員は学生の質問などに適切に対応していましたか。      
3.学生の反応や理解度をみながら授業が進められていましたか。 
4.学習に対する興味・関心を刺激する授業でしたか。                 
5.授業の内容は理解できましたか。                                         
6.授業を通して新しい知識や理論、考え方が分かるようになりましたか。 
7.教員は私語など受講マナー上の問題に対して適切に対処していましたか。
8.教材(テキスト、プリント、レジュメ、スライド、ビデオ等)は、授業内容を理解する上で役立ちましたか。 
9.黒板・ホワイトボード・プロジェクタ等の使用は適切でしたか。
10.課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。

「ゼミナール II」履修者数15名(回答者数10名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7) 

【授業の体系性】【教授方法・講義内容】とも高評価をしていただきました。ただ少人数の演習形式の授業は評価が高くなる傾向になるので,低いものに関しては改善していく必要があります。改善すべき項目としては「授業内容は理解できましたか。」(4.4(科目別平均4.5, 受講者数別平均4.5))です。今年度は難しめのテキストを採用したということもありますが,もう少し理解を深めるような対策を考えたいと思います。また「授業を通して新しい知識や理論、考え方がわかるようになりましたか。」(4.7(科目別平均4.6, 受講者数別平均4.6))も専門知識の教授を主目的とするゼミナールクラスとしては厳しい評価だと思います。嬉しかったこととしては,難しいテキストだったということもあるのかもしれませんが,ほぼ全員の学生が1時間以上(そのうち2時間以上も40%)授業の前後に学習してくれていたようだということです。

【自由記述欄】
・皆に発表が回ってくること(良かった所としてのコメント)。
・難しかったけど、めげずに頑張ってもっと予習しとけば、もっと授業が楽しくなったんだろうなと思いました。
・面白かったけど、その分内容が難しかった。 

このように「難しかった」というコメントが目立ちました。

「Reading & Writing II」履修者数32名(回答者数27名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7) 

授業内でMoodleを利用した活動をメインに行っている授業。前期に引き続き同じクラスの担当でした。前期の平均はそれぞれ4.9、4.9だったので,少し評価が良くなったのは嬉しい。前期に引き続き、【学習態度の自己評価】にある「この授業科目について、授業の前後に合計してどれくらい勉強しましたか?」という項目を確認してみる。

2012年度前期
3時間以上: 19.2%(科目別構成比11.5, 受講者数別構成比14.2)
2~3時間以内: 11.5%(科目別構成比7.5, 受講者数別構成比9.1)
1~2時間以内: 7.7%(科目別構成比12.2 受講者数別構成比19.0)
30~1時間以内: 26.9%(科目別構成比17.5, 受講者数別構成比22.1)
30分以内: 30.8%(科目別構成比24.4, 受講者数別構成比21.3)
全く勉強していない: 3.8%(科目別構成比26.7, 受講者数別構成比14.1)

2012年度後期
3時間以上: 11.1%(科目別構成比10.8, 受講者数別構成比14.2) 
2~3時間以内: 0.0%(科目別構成比8.8, 受講者数別構成比9.8) 
1~2時間以内: 18.5%(科目別構成比12.8 受講者数別構成比17.3) 
30~1時間以内: 25.9%(科目別構成比16.6, 受講者数別構成比24.0) 
30分以内: 33.3%(科目別構成比23.8, 受講者数別構成比22.1)
全く勉強していない: 11.1%(科目別構成比27.0, 受講者数別構成比12.3) 

後期になってここまで学習時間が減少するというのは問題だとおもうので、2013年度は何らかの対策を考えます。前期はとても雰囲気が良かったので安心していたのですが、後期は一時期クラスの雰囲気が悪くなったことがありました。このあたりのことも影響しているのかもしれません。反省します。

  【自由記述欄】 
・分かりやすいし、楽しいし、90分間があっというまに過ぎる授業でした。ミニッツペーパーを書いて、返事がすごくたのしみでした。
・1つ1つ問題を解く度に、ちゃんとみんなわかっているか呼びかけながら授業展開していたところが良かったです。また教室を見回ってすぐに呼び止めたら、わかりやすく説明してくださったのも良かったです。
・予習で解いてきた問題がミニテストに出るのはいいのですが、せっかくやってきても間違えていたら、それをそのままテストに答えるので、同じことを書くなら、意味がないんじゃないかと思いました。=こちらの狙いは「自分で正解を導きだすまで丁寧に解きなさい」ということだったのですが、伝わっていなかったようです。ですが、この指摘は理解できるので、対応したいと思います。
・エッセイの直し方がいまいちわからない。どこがまちがっているのかは、わかるがどう直したらいいのかわからないときがある。=授業のねらいは「パラグラフレベルの英文を正確に書けるようになる」ことなので、エッセイの指導(ETSのCriterionを利用)まですることができませんでした。改善します。

「英語の諸相II(英語の意味論・語用論)」履修者数60名(回答者数48名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.8(科目別平均4.6,受講者数平均4.6) 

敢えて英語の難解な専門書をテキストに指定し,その内容を解説することを主眼に置いた授業。専門的なことを妥協せず面白くやる授業が理想なので,この授業ではスライドや視聴覚教材もあまり使っていません。評価が低かったのが,「授業の内容は理解できましたか。」(4.7(科目別平均4.5,受講者数別平均4.5)),「課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。」(4.7(科目別平均4.6,受講者数別平均4.6))です。後者は毎年あまり高くないので何らかの対策を考えたいと思います。

【自由記述欄】 
・学生への気遣いが授業に感じられました。納得のいかない表情を浮かべている学生を見逃さず再度説明をしてくれる点は、とても良かったです。=いつも心掛けていることなので嬉しいです。
・授業の始めに前回の復習をするためスムーズに入れる。例えが多くて難しいこともわかりやすい。
・先生のエピソードがおもしろく、説明もわかりやすくて、毎回この講義が楽しみになるほどでした。
・なぜそうなるのかわからなかった文法についての謎が解けたこと。普段生活している中でこれは語用論なのかなと気にするようになったこと。 =こういう感想も嬉しいですね。 ・元々抽象的な分野だと思うので、より具体例を用いてほしい。スクリーンの解像度が低いので逆に使わない方が良いと思う。=例をだいぶ用いているつもりではありますが,検討します。スクリーンの解像度については確かにあの部屋は悪いのですよね…。
・またこの授業をとりたいと思いました。=え?単位が要らないってこと?(笑)

「英語II」履修者数55名(回答者数45名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.6) 

2012年度後期は特例として非英語専攻生の英語クラスを担当しました。eラーニングを用いた授業ということで,Moodle上にBBC作成のThe Flatmatesの動画を載せて毎回活動を行う形式を採りました。また課外ではぎゅっとeのリスニング問題を毎週20問解かせ,授業の冒頭に小テストを行いました。簡単だと思った動画だったのですが,非英語専攻生にとっては難しかったようで最初の数回の授業では眠たそうな顔をしたりつまらなそうな顔をする学生が多数。慌てて授業の進行方法を修正し,Dictglossもどぎのことをやったり繰り返しリスニングさせたり活動もたくさん取り入れました。最後はみんな笑顔になったのでとても良かったです。

  【自由記述欄】 
・リスニングを多くできたので聞きとりの力はついたと思う
・会話を聞いてその意味を考える等、高校でやったことあるような内容から、日常会話で使える英語等、これからも役立つようなことまで様々でおもしろい授業でした。
・英語なのに授業が楽しかった。嫌いな英語を少し好きになりました。
・先生がやさしい。パソコンを使って授業するのはいい。教え方もいい。内容が理解しやすい。
・毎回の授業で、常に新たなことに取り組んでいたので、あきることなく、たのしく学べた。ストーリーで授業がすすんでいくので、毎回の授業がたのしみだった。
・英語は苦手だし、朝イチからあるし、木曜1限はすきじゃなかったけれど、先生の授業が楽しくて、木曜1限、今は大好きです。
・ベレボー=???

Moodle Moot Japan 2013

 2013年3月2日、3日、東京家政大学にてMoodle Moot 2013が開催された。今回は業務の都合もあり2日目から発表のために参加。発表資料等は数多くアップロードされているので、詳細は日本ムードル協会のサイトを参照のこと。ということで今回の備忘録は主に私たちの発表およびマニュアルの紹介に留めます。

  中西 大輔・大澤 真也・大西 昭夫(Version 2) 
「e問つく朗」Moodle 2.x対応版の開発  
 広島修道大学においてMoodleをeラーニングシステムとして利用することが決まった時に、一番悩んだのは小テストを作成するのが難しいということでした。特に穴埋め問題を作成することはeラーニング初心者にとって難関の1つです。そこで、教職員が簡単に小テストを作成できるためのもモジュールとして「e問つく朗1.9対応版」を開発し発表したのが、2012年のMoodle Mootでのこと。今回はいよいよ2.x版へ対応させての開発を行いました。 主な変更点は、 

・API経由ではなくMoodleに直接統合
・問題をcsvファイルで一括アップロード(穴埋めを除く)
 ・英語表記への対応 です。

使ってみるとその良さがわかると思うので、興味のある方は http://ver2.jp/moodle/emon/ にアクセスしてみてください。無料でダウンロードできます。ちなみに公開予定は2013年3月中旬以降です(1.9対応版はダウンロードできます)。

  次におまけとして紹介したのはMoodleマニュアル『Moodle事始めマニュアル: Ver 1.9および2.4対応』です。こちらは200ページ程度の分量ながら、PDFおよび電子書籍(フォーマットについては現在検討中)を無料で公開します。売りは(1)Moodleを触ったことがない人でもマニュアルのステップを踏んでいくことでとりあえず授業で利用できるようになる、(2)実際にMoodleを活用している英語教員の実践事例集が付いている、ということです。こちらはPDF版は2013年3月中旬以降、電子書籍版は2013年4月以降に配布を開始する予定です。出版しないマニュアルならではの面白い趣向やネタが満載です(笑)。

  入手可能時期や入手方法など興味をお持ちの方はぜひ以下のフォームからご登録ください(登録してくれる人数が多いほど嬉しいので)。

  『Moodle事始めマニュアル』入手について 

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 ということでMoodle Mootは回を重ねるごとに学会としての様相を帯びつつあるように思う。Moodleの開発者であるMartin Dougiamas氏の講演のタイトルはBack to the Classroomであり、Martin氏自身も開発をするだけではなく、教員が使いやすいものにすることと学習成果をきちんと測定することの重要性を認識しているようだ(その証拠として第1回のMoodle Research Conferenceが2012年9月にギリシャで開催されている)。
  そのことも意識してか、Moodle 2.xにおいては様々な機能が今後追加されていくようである。が、個人的な感想を言わせてもらえれば、シンプルな機能に特化した方が使いやすい場合もあると思うので、いたずらに機能や設定を増やすのではなく、教員のニーズに応じて使用する機能を制限するような設定が付いてくれると嬉しい。今本学ではMoodle 1.9を利用しているが、今の機能や設定だけでも初級者にとっては敷居が高いので。
  そしてMoodleを大学などの機関において、唯一かつ標準のeラーニングシステムとして導入している大学はまだそこまで多くないことにも注意が必要だ。つまり個人でインストールして楽しんでいる愛好家も多いのだ。そういう人たちが気軽に参加できるのがMoodle Mootの良い所である気はしたのだけど…。これはMoodle Moot 2012に参加した時にも思ったことです。

平成24年度 広島大学外国語教育研究センター教育実践研究報告会・外国語教育研究集会

 2013年3月1日、毎年恒例の広島大学外国語教育研究センター主催のイベントに参加してきました。午前中は外国語教育研究センター教員による実践報告、午後は「大学にける外国語教育の目標設定:CEFR-JとCAN-DOリストの理解と活用」と題して、今何かと話題のCAN-DOリストとCEFR-Jに関する講演。以下、いくつか覚え書き。

<教育実践研究報告会>
榎田一路
「広大スタンダード語彙リスト(2012年度版)の開発と冊子体の配布」
 「コミュニケーション基礎I, II」科目ではeラーニングにより前後期それぞれ3000語、通年で6000語の語彙を習得することを目指している。今回はその語彙リストの冊子をお披露目。標準と発展の2つのレベルから構成されるこの語彙リストはなんと外国語教育研究センター所属教員18名が分担して1年半(!)かけて用例を付けたそうである。ちなみにこの語彙をつぶやいてくれるTwitterアカウント(@HirodaiVocab)もあります。

SELWOOD, James
「スマートフォンの可能性:広島大学English News Weekly Podcast」
 広島大学外国語教育研究センターでは、毎週火曜日配信のPodcast番組を作成している。

Hiroshima University’s English Podcastのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @huepod 

これだけでもすごいのだけど、何と2012年度から新たにEnglish News Weeklyとして毎週金曜日に最新のニュースをPodcastとして配信しているそうだ。

English News Weeklyのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @ENWpodcast 

すごいのはPodcastだけではなくて、PDFも公開しているということ。時事英語のような授業を担当している人にとっては大満足の内容です。

<外国語研究集会> 
投野由起夫(東京外国語大学)
「CEFR-J: CAN-DOベースの新しい英語到達指標ーその開発と活用」
 科研メンバーで開発したCEFR-Jについての講演。CEFR-Jの詳細やデータはCEFR-Jのサイトを参照のこと。まずはCEFRの背景および利用環境、

English Profile Project
Core Inventory 

などについて触れた上でCEFR-Jの開発の経緯および方法について説明された。その後、CEFR-Jの活用方法についてカリキュラム・シラバス開発、外国語教育・学習のツール、外国語能力の測定・評価のための基準、という3つの視点を提示し、整いつつあるCEFR-Jの利用環境について説明された。 

1つは中国,台湾、韓国の英語教科書コーパスを基に作成するCEFR-J Wordlistについて。現在English Profileが公開したThe English Vocabulary Profile (EVP)のリストとの照合作業を行っており、目標としては

 Pre-A1, A1 1000語
A1 1000語
A2 1000語
B1 2000語
B2 2000語 

の計7000語程度の語彙リストになる見込みだそうである(CEFR-J Wordlistの語彙レベル判定ツールも公開予定)。 

次にCAN-DOデータベースについて。これはCEFR-Jに足りない部分を補完する意味も含め、European Language Portfolioの2,800語の記述(descriptor)のうち647をデータベース化したもの。特徴としては、大人だけではなく子どもも理解できるようにDescriptors for childrenという欄を設けたところだろうか。 

3点目は『CEFR-Jガイドブック』(大修館書店)について。これは2013年4月に出版予定とのこと。

 最後にCEFR/CEFR-Jを用いる意義について、 

・小中高大の英語教育の連携:英語力到達度指標の共通理解の必要性
・4技能全体を視野に入れた指導
・「ことばを使って何ができるか」というCAN-DOリストを基礎とした言語活動の展開
・教室英語から実社会で使う英語への橋渡し
・世界共通の評価基準で自分の英語力を語れること

 とまとめられた。また課題として、 

・CAN-DOから具体的タスクを作成するステップの明確化
・ベンチマークとなるパフォーマンスの事例を集める必要性
・文法CAN-DOのような弊害をいかに封じるか
・文法・語彙の重要性を軽視することがないようにしたい
・「できること」に目を向け、「できない」リストにならないこと

 を挙げられた。

  長沼君主(東京外国語大学)
「自律性と自己効力を高めるためのCan-Doリストを用いた評価」
 CEFR-Jの名前が出てくる前からCan-Doリストを用いた実践および研究をされてきた長沼先生の講演。最初にCan-Doリストを用いた評価についてまとめ、CEFRやLinguaFolio(English Language Portfolioと同様の枠組みで、ACTFL熟達度ガイドラインに基づいて作成)を紹介された。

 そしてCan-Do評価とは「ポートフォリオ評価に基づき、自己効力を与える自律的学習促進のための評価」、「教室における見取りと内省を助け、同僚性と教師自律性を高めるための評価」であると主張された。また一般的な能力記述を目指した外部評価としてのCan-Doリストだけではなく、個々の状況やシラバスに応じたクラス内の内部指標としてのリストを作成することの重要性も指摘された。

  その後様々な話題を提供してくださったのだけれど、時間の制約もあり配布資料の内容をすべて網羅することができなかった。以下、印象に残った言葉をいくつか。 

清泉アカデミックCan-Do尺度
学習者の認知発達と動機づけを育む評価
「べき」感ではない「自律的動機づけ」を高める評価
「できる感」=「自己効力」を与える評価 

またヴィゴツキーの「足場掛け」の話も例として出され、自己評価をする時に他者の助けを借りてできるという段階があっても良いのではないかという主張が印象に残った。 

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午前に行われた実践研究報告会では、外国語教育研究センターのカリキュラム改善に向けた取組、またその検証についての話。そして語彙リストやPodcastなどのコンテンツの充実など、他大学にとっても参考になる話をたくさん聞くことができた。これは広大スタンダード語彙リストだけの話ではないのだけど、最近語彙リストが1つの流行になっており、多くの大学が独自の語彙リストを作成している。しかし単純に語彙リストを作るといっても莫大な作業時間が必要になるので、リストを作成する意義について考えてみる必要があるのではないかと感じた。 午後に行われたCEFR-Jの講演は、CEFR-Jの今後の展開の話だったので、CEFR-Jが良い意味での批判の対象になり、議論を重ねていければ良いと思う。こちらもまたリストの作成には莫大な作業時間が必要になるので、慎重な議論が必要だ。投野先生もおっしゃられていたが、投野先生と長沼先生という組み合わせで講演が行われるという機会はあまりないので、そういう意味でも非常に興味深く貴重な機会となった。