2008年3月21日金曜日

第2言語ライティングセミナー

2008年3月15日(土曜日)東京国際大学早稲田サテライトにて、第2言語ライティングに関するセミナーが行われた。司会の方曰く、「英語及び日本語を第2言語教育というくくりでとらえるという非常にambitiousなセミナー」であった。

まずは英語教育の立場から東京国際大学教授のStephen Timson氏が"Preferred derror Feedback Styles of Japanese EFL Learners in Regard to Writing"というタイトルで発表を行った。多くの被験者を対象にした、学習者のフィードバックに対する嗜好を探るものであったのだが、いかんせん時間不足で具体的な結果を聞くことができなかったのが残念。

次に同大学教授の成田真澄氏が「英語母語話者からのフィードバックによってEFLライティングに生じた変化」というタイトルで事例発表を行った。本人も認めていたが、少人数(成田氏のゼミを選択したTOEFL ITP 450レベルの学生数名)の学生が春休み中に3回課題を提出し、英語母語話者からのフィードバックによってライティングにどのような変化が生じたかを調べたものであり、一般化できるものではない。また客観的な基準を用いたとしても、評価者の性格(この場合は非常に優しい英語母語話者だったので、評価が甘くなる傾向があったらしい)もあるので、ライティングのような複合的な能力を測定するのは難しいことを再確認した。

このお二方の発表の後、今度は日本語教育の立場から名古屋外国語大学教授の田中真理氏が「学習者と教師の Collaborative Writing Assessment」というタイトルで発表を行った。これは評価者が一方的に評価するのではなく、学習者がどのように評価を受け止めているかを調査し、また評価によってライティング能力を伸ばす可能性を探ったものである。対象は国立大学(理系)1年生に在籍する外国人留学生20名。学生は自身が書いた小論文をマルチプルトレイト(5トレイト、1〜6点)で自己評価をし、その後教員も同じ評価表を用いて評価を行い、コメントやエラー箇所を示す。後日学生は教員の評価を受け取り、自己評価と比較した上で満足度(Strongly Agree, Agree, Disagree, Strongly Disagree)や質問を示すというものである。評価表は田中真理・長阪朱美(2006 / 7)「第2言語としての日本語ライティング評価基準とその作成過程」『世界の言語テスト』253-276. くろしお出版を修正したもの。目的・内容、構成・結束性、読み手、日本語(言語能力)が評価項目として扱われている。

最終的には国民性などもあり、評価に対する満足度が異なってくるという話などをされていたが、それはさておき、教員の評価のみではなく学習者の自己評価も行う試みは非常に興味深い。自分でもこういった試みを行ったりはしているけれど一方通行になりがちなので、このような双方向の評価を体系的に行えば、今後より公正な評価方法を確立できると感じた。

その後休憩をはさんでアリゾナ州立大学准教授のPaul Kei Matsuda氏が「第2言語ライティングー誰のために書くのか」というタイトルで講演を行った。私自身も興味を持っている「社会文化的背景」及び「リテラシー」という概念があるが、これらを重視した上でライティング能力を定義し、ライティング指導を行っていくという話であった。実はこの発表ではじめて日本語でパワーポイントのスライドを作成し日本語で発表をされたそうだが、そうとは思えないほど流暢で完璧な日本語の発表でした。彼の主張には同感する部分が多々あるのだけれども、それを日本の環境でどう応用していけば良いのかは今後の課題である。

その後名古屋学院大学教授の佐々木みゆき氏、東京大学教授の二通信子氏、コメンテーターとして日本経済新聞社編集局英文編集部担当次長の木村恭子氏を加えてパネルディスカッションが行われたのだけれども、錚々たるメンバーが揃っているというのに、議論が上っ面で滑っている感じがしてとても残念だった。時間の都合上フロアがあまり参加できな形式だったのが災いしたのだろうか。欲を言えばパネルディスカッションでもう少し具体的かつ現実的な議論が聞ければ良かったのだが。

何はともあれ司会の方がおっしゃっておられたように非常にambitiousな試みであり、各分野の著名な方が発表をされるということで、非常に盛況のうちに終了したセミナーであった。

2008年3月11日火曜日

成績評価の厳格化

「成績評価の厳格化とその支援システム」という名のもとに行われたシンポジウム。文科省の特色ある大学教育支援プログラムとして選定されており、その成果発表の一環として2008年3月10日同志社大学今出川校地で開催された。参加者は200名限定ということであったが、教室内には鹿児島や長野など遠方から教職員が多く集まり会場が満員になるほどの盛況であった。

まずは基調講演としてUCLAの名誉教授であるAlexander W. Astin氏が"How assessment can enhance teaching and learning among college students"というタイトルのもと講演を行なった。基本的な概念としてはIEOモデルというものを提示し、評価を行う際には、学習者が今までどのような学習をしてきて、またどのような家庭環境から来ているかなどのINPUT、どのような教員がどのような教材を用いてどのようなカリキュラムのもとで行ったかというENVIRONMENT、そしてその成果としてのOUTCOMEの3つを考慮に入れる必要があるとのことであった。INPUTとしては家庭環境(両親の出身校や収入にまで踏み込んだもの)も1つの要素として挙げられており、多様な民族からなるアメリカでは重要なことなのかもしれないが、日本においてここまで個人情報に踏み込んだものを入手することができるのか、あるいは入手する必要があるのか、という疑問が残る。この点に関しては「情報の取り扱い」ということで参加者の一人が質問していたが、個人的には日本という環境にはそぐわないと思う。Astin氏が指摘するように、評価をする際にはこの3者を考慮に入れなければならないということは単純なようではあるが、忘れがちなことである。実行可能性なども考えながら、出来る限り多くのデータを収集した上でOUTCOMEの評価をするべきであるということ、そして機関としてノウハウを作り上げ収集したデータを機関間で比較することが重要であること、など今後の大学教育における将来像が見える講演であった。

個人的には逐次通訳の方たちを初めて見たので、彼女たちがどのように逐次通訳をしているかにとても興味を持った。感想:やはり英語のエキスパートと一言に言っても教員と通訳じゃ要求される英語力が全然違う。

その後は桜美林大学から舘昭氏、上智大学から山本浩氏、同志社大学から圓月勝博氏が登壇し、約2時間のパネルディスカッションが行われた。主な論点はGPAの導入とその成果についてであったと思う。パネリストの方々自身も言っておられたように、GPAの導入=成績の厳格化という訳ではない。またGPAを導入したからと言って公正な成績評価が行える訳でもない。但しGPAを導入しその分布を公開することによって、教員の成績評価に対する意識が向上することは間違いがないようである。「説明責任(アカウンタビリティー)」なんてことが言われている現代においてはこのことは重要であろう。またGPA導入のメリットの1つとして、諸外国と評価基準を同一のものにすることによって、単位の互換や交換留学が容易になることも挙げられる。しかしながら、これもディスカッションの中で指摘されたようにアメリカでは既に評価がインフレしており、アメリカでのGPA>日本でのGPAという構図になってしまっている現状もあるらしい。この辺りも今後解決するべき問題であろう。

個人的に興味深かったのは、このような改革を行っている人たちのバックグラウンドとして教育の方が一人だけで、残りの二人は英文学であったことである。昔から英語は技能課目として、良くも悪くも批判されることが多かったが、そういった意味で語学課目を担当している教員の間で成績評価に対する危機意識が強いのだろう。

「大学全入」と言われる時代になり、大学の国際的競争力が求められる時代、こういった流れは避けられないのだろう。けれども成績の評価をより公正なものにし、成績の評価が正規分布するようになればそれだけで良いのだろうか。確かに「楽勝科目」と呼ばれるものが存在しており、こういった評価をする教員に危機感を抱かせることはできるだろう。けれども、それだけに留まらず成績評価の厳格化が、大学としての質の向上につながるであるとか、教育効果が上がるであるとか、その辺りの展望が見えにくいので、今後に期待したい。

そう言えば先日広島大学でも同様のシンポジウムが行われたが、国公立大学主催のシンポジウム、私立大学主催のシンポジウムというのは、カラーが全然違うので面白い。前者は研究者、後者は実業家と言ったところか。