2008年11月27日木曜日

書き初め

 日記の書き初め。今までホームページを作ったりブログを書いたりはしていたけど,今後はこちらにシフトしていく予定。
 今年度は物理的にというよりは精神的に多忙だった。大学での仕事量の増加,家庭での仕事量の増加。そのため,なかなか余暇を楽しむ気持ちになれなかったのだけど,年末を目前にしてようやく落ち着いてきた感じ。でも「あっ,年賀状書かなきゃ」とか「今年の汚れは今年のうちに!(仕事もプライベートも)」と思い始めてきた時点でまた来月はドタバタしそう。
 今月は週末に従兄弟の結婚式やら大学の業務やら教え子の結婚式やらあった。今の勤務先に勤め始めてはや7年。勤め始めた頃は年齢も近く友だち感覚で接していた学生たちが卒業し,結婚や子どもを授かったという話を聞く度に,年月の流れを感じます。「あぁ,おっさんじゃ,わしは」という自分と「まだ若いわ!」という葛藤と戦う日々。肉体的には嫌でも成長(老化?)するけど,精神的には成長したのかなあ。。。確か今年の始めに書いた抱負は「飛躍」だった。飛ぼう努力したか?あるいはしなかったのか?あるいはそもそも飛べない鳥なのか(笑)?

 ま,そんなことを考えつつ来月には始まるであろう忘年会シーズンを楽しみにしよう。今の所予定はほとんど入っていないのでお気軽にお声をおかけくださいませ。

2008年11月6日木曜日

JALT Conference 2008 in Tokyo学会発表

 10月31日から11月3日の連休ど真ん中に開催されたJALTの学会に参加した。今回初めて参加した学会ではあるが,英語母語話者を中心とした学会であり,日本国内で開催されたものの非常に国際色豊かな,また日本の学会とは異なったフレンドリーな学会であった。主に研究発表というよりは実践を紹介するものが多い。

今回は同僚とともに“Making the most of the electronic dictionary”という題目で25分間の発表を行った。私が担当したのは,英語を専攻とする大学1年生124名及び1年生を教えている教員19名(日本人教員11名,外国人教員9名)を対象に行った電子辞書に対する意識調査の結果の紹介。学生が知っている機能と利用している機能の間には大きな差が見られ,電子機器としての操作には慣れているものの,語彙習得のための道具としては使いこなせていない実態が明らかになった。またせっかく複数の辞書が搭載されていても,英英辞典や類義語辞典等はあまり使用していないのである。

この結果を基に,同僚が電子辞書を有効に使うための活動案を提示した。好む好まざるにかかわらず多くの学生が電子辞書しか使わない現状においては,このような「使い方」をトレーニングする必要性があるのではないだろうか。

マイナーなトピックにもかかわらず用意していたハンドアウト30部は,2部しか残らないほど盛況であった。

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その他発表で気になったもの。

Grogan, Myles. Can portable applications mean English anywhere?

今やソフトウェアはコンピュータにインストールするのではなく,USBにインストールし持ち運ぶ時代。この発表ではそういったテクノロジーが紹介されていた。

持ち運べるソフトの一覧
http://portableapps.com/
画像加工ソフト
http://www.gimp.org/
フラッシュカードソフト
http://www.mnemosyne-proj.org/

その他エクセルでのクイズの作り方など。発表者は実際に学生にソフトウェアをインストールさせ,授業において活用しているようだが,その効果については触れられなかった。

Tuzi, Frank. & Lynn, Michael. Effective writing and responding online.

オンライン上でコメントのやり取りなどを行えるテクノロジーの紹介。何がeffectiveなのかは不明。

Murray, Jill. Teaching pragmatics for test preparation.

英語において語用論的能力を測定することの必要性。

Taferner, R. H. Peer collaboration in EFL writing.

peer feedbackの有効性をついて事前,事後のアンケート,インタビュー等を基に検証したもの。博士論文の一部らしい。テキストの分析等は今後行うらしいが,方法論は包括的かつ質的なもので興味深かった。

Fukada, Yoshifum. Statistical analyses of imagined communities.

学習者が将来なりたいイメージを明確に持っていれば英語に投資する(invest)時間も増えるという考え。今までの研究においては質的なものが多かったので,本発表においては量的に検討してみようという試み。今回の学会で聞いた中では唯一研究発表らしいもので興味深かったが,「英語の教員になりたいなどの明確なイメージを持っていれば英語学習に投資する時間も増える」という結論は当然と言えば当然。

Barrow, Jack. Electronic dictionaries in interaction.

学習者が英語で対話している際の電子辞書の利用について。発表者本人も言っていたが,元は会話分析をしようと試みたものがあまりうまくいかなかったらしい。このことからやはりタスクの設定は重要だと感じる。実際スピーキング能力についてというよりは,学習者が電子辞書をどのように使うかという所に焦点が移動してしまっており,わかりにくかった。この辺りは聴衆の中からも同様の意見が多数出た。

全国英語教育学会in東京

8月9、10日に東京の昭和女子大学で行われた。例年発表者も含め300人(?)程の研究者や教員が参加するという英語教育の分野においては最も大きな学会の1つ。今回は開催地が東京であったことも影響したのか、例年よりも参加者数が多い印象を受けた。今回は1週間のうちに3つの学会に参加したのだけれど、各学会において独特の雰囲気があって面白い。全国英語教育学会は大学院生の頃から参加している学会であり、毎年のように顔を合わせるメンバーも複数いるので研究においては「我が故郷」という感じがする場所である。研究の文化としては大学院生などが研究発表を練習として行う場合が多いせいか、未熟な発表に対しては厳しい批判がされることも多い。

ここでは今回参加して聞いた発表の中で気になったものを備忘録として残しておく。

葉田野不二美「日本人大学生の自由英作文に出現する助動詞」
 語彙力があることは表現力があることであり、心情描写をする語の一つである助動詞を使いこなせることと語彙力があることの間には高い相関関係があるのではないかという前提のもとに行われた研究。リサーチ・クエスチョンとしては1)助動詞の使用頻度の変化および助動詞と学習者レベルとの関連、2)助動詞の認識的用法の使用はレベルと共に増加するか、3)確実性の度合いを表す助動詞使用の幅は広がるか、4)助動詞のエラーと学習者レベルは関係するか、であった。結果、語彙力のレベルがあがるに従って1)~3)に関しては使用の増加がみられたが、4)に関してはレベルが上がってもエラーの減少は見られなかった。

安藤貞雄の法助動詞の意味や用法の分類に倣い、投野(2007)の研究にも言及するなど、テキスト分析の中で特定の項目(今回は法助動詞)に焦点をあてた研究として非常にオーソドックスなもので好感が持てた。但し、法助動詞の使用=語彙力のサイズとして単純に捉えてしまってよいのだろうか。質問の時間に誰かも述べていたように、タスクのトピックなどによっても助動詞の種類や使用頻度は変化してくるのではないだろうか。とは言え個人的にはこのような研究を将来的に行いたいこともあり、非常に参考になるものであった。

馬場千秋「大学生英語学習者の英作文に見られる日本語翻訳の影響」
 英作文は英語→英語ではなく日本語を介して書く。そこで日本人大学英語学習者の書いた英作文のエラーのうち1)日本語翻訳の影響と考えられるエラー、2)日本語と英語の言語規則の違いによって起こっていると考えられるえらー、を抽出しその実態を明らかにすることもが目的。2001~2006年入学者1~4年生400名に対し前期は4コマ漫画、海外ドラマの一部の描写、後期は意見陳述などのタスクを与えた。1回目に書かせた課題に教師がフィードバックを与え学生はそれに修正、追加を行いコンピュータで完成版を提出する。辞書の使用は許可されているが、翻訳ソフトの使用は禁止されている。なお、今回の分析対象は1回目に提出されたもので、時制、相、文法についてタグ付けを行いWordsmithで分析を行った後、日本語の影響を受けていると考えられるエラーを抽出する。

1)日本語翻訳の影響と考えられるエラー

1)語順、2)主語省略、3)動詞省略、4)「僕はうなぎだ」式、5)「~している」、6)品詞などの間違い

2)日本語と英語の言語規則の違いによって起こっていると考えられるエラー

1)be+動詞、2)自動詞・他動詞、3)能動態・受動態

このような学習者が産出したテキストの分析に「日本語(母語)の影響」を取り入れたのはContrastive Rhetoric時代の懐古主義的なところがあり、逆に新しいのかもしれない。けれども、日本語の影響=エラーという図式が実際に成り立つのかどうかは推測の域を出ないのではないだろうか。例えば「~している」という日本語表現から進行形を間違って用いてしまうというのは確かに日本語の影響かもしれないが、その他のエラーに関しては日本語の影響だけであるとは言い難いのではないだろうか。

広瀬恵子「ライティング指導におけるピアフィードバック-学習者はどうフィードバックしあうか-」
ピアフィードバックの有効性と問題点についてLiu & Hansen (2002)を参考にまとめた上で学習者はピアの英作文にどのようにフィードバックし、またどの点に焦点を当てるかについて調査を行った。参加者はピアフィードバックを行ったことのない外国語学部非英語専攻生15名で授業中の前半45分を用いて英語でピアフィードバックを書面と口頭の両方で行う。順番としてはパートナーの英作文を読んでReader Response Sheetにコメントを記入し、その紙を交換した後口頭で行う。授業の後半においては英文パラグラフの構成について学ぶ。また作文とResponse sheetの両方に教師がフィードバックを行う。

Sheet
  1. 1.Underline the topic sentence (the sentence that states the dominant idea).
  2. 2.Explain what you like.
  3. 3.Describe where you are confused and wavy underline the words / phrases you do not understand.
  4. 4.Write what you would like further details about. Write any other comments if you have them.
シート147枚とフィードバックした英作文を2名の研究者が分析。インタラクションの分類はMendoca & Johnson (1994)の分類を基に修正したもの。

6 categories = questions, explanations, restatements, suggestions, grammar corrections, reactions,

7 aspects = content, vocabulary, sentence, grammar, paragraph, mechanics, overall


結果、学生は多様なフィードバックをしており、1番多かったのは内容に関するものであった。フィードバックにおいては個人差が見られたが、書面によるフィードバックは多様なインタラクションを生み出し、授業で学んだパラグラフ構成など英語知識を使いお互いに教えあう協同学習の場となりうる。

系統だった分かりやすい研究発表であった。但し研究において気をつけなければいけないのは、自分の主張を正当化するために先行研究における概念をあまりにも単純に使用してしまうことではないだろうか。例えばピアフィードバックにおいては社会文化的アプローチの概念がその根拠として用いられることが多いが、「最近接発達領域(ZPD)」という概念をあまりにも安易に使うと誤解を招きかねない。個人的には英語でフィードバックをさせるという考え方は賛成(他の研究では日本語でさせるものが多いから)。

Liu, J. & Hansen, J. 2002. Peer response in second language writing classrooms. The University of Michigan Press.

Mendoca, C.O., & Johnson, K. E. 1994. Peer review negotiations: Revision activities in ESL writing instruction. TESOL Quarterly, 28, 745-69.

Kondo, Yoshiko. Peer feedback through Bulletin Board System (BBS) in a college writing class.

2002年及び2005年に行った調査と今回のものの間に差があるかどうか、またBBSを用いたピアフィードバックのメリット・デメリットは何かについて調査したもの。参加者は32名で、4人×4つの実験群と同数の統制群に分け、意見文について英作文を行わせた。分析対象はBBSにおけるコメント、推敲による変化、そして質問紙である。BBSにおけるフィードバックのカテゴリーはStanley (1992)に基づきCONTENTにおいてpointing, advising, collaborating, announcing, eliciting, questioning, reacting,FORMにおいてgrammar, spelling, expression, AUTHOR’S RESPONSES, IRRELEVANT (DEVIATED) COMMENTSに分類された。

なぜ日本語のフィードバックなのか、フィードバックにおいて何か指示を与える必要はないのかなど。。。

Stanley, J. 1992. Coaching student writers to be effective peer evaluators. Journal of Second Language Writing, 1(3), 217-233.

WORLD CALL 2008覚え書き

2008年8月5日から8日にかけて福岡でWORLD CALL 2008が開催され,内外から数多くの研究者が集まった。発表はしなかったのだけれど,その中の気になったものを幾つか覚え書き。

その1:
Ching-Fen Chang. Writing through CMC modes: Three case studies of integrating CMC in EFL writing courses.


気になる参考文献
Abrams, 2005 / Bloch, 2004 / Garrison, Anderson & Archer, 2001
CMC feature
Baron, 1998 / Crystal, 2001 / Davis & Brener, 1997 / Kern, 2006 / Murray, 2000
Sotillo, 2000 / Biber, 1998 / Warshauer

内容
3つの事例研究。オンラインにおけるpro / conの議論。CMCは適切なジャンルの意識を高める、CMCと対面式の組み合わせはpeer revisionはholisticなフィードバックを与えることができる。

その2:
Sylvie Thouesny & Francoise Blin. Modeling language learners’ knowledge state: What are language students’ free written productions telling us?

Mistakesなのかerrorなのか

その3:
Kunitaro, Mizuno & Reina Wakabayashi. The effect of online peer feedback on EFL writing: Focusing on Japanese university students.

変更してTOEFLのための指導。前半はTOEFLのライティングにおける高得点を取れるための特徴をまとめる。後半は実際のライティングの練習。点数が上がったことは注目に値するが、peer feedbackの効果なのかどうかは不明。Meta-knowledgeの効果なのではないか。

アンケートをオンライン上でするために有効なもの
Survey Monkey

その4:
Robert, J. Fouser, Shiina Kikuko, Yamanoue, Takashi & Yamanoue Takashi. Metacognitively enhanced writing courseware: “Kagoshima Academic Writing Space”

何がメタ認知なのか、またライティングの質が向上したことをどう評価するのか。疑問が残る。

気になる参考文献:
Lin & Hansen, 2002 / Little, Holec / Breuch, 2004 / Lin & Sadler, 2003

まとめ
いつもこの系統の学会に参加して思うのは,教育効果についてあまり厳密に検討していない発表が多いことである。但し新たなテクノロジーについては多くの知識を得ることができる。だから発表よりも業者のブースを回っていることが多かったりする。