2010年10月2日土曜日

第1回Maharaオープンフォーラム

 2010年10月2日(土曜日),福井県のアオッサにて主催:Fレックス(福井県における大学間連携)共催:酪農学園大学 大学教育・学生支援推進事業で,Maharaオープンフォーラムが開催された。開会の挨拶によれば24大学,9の会社,2つの公的機関からの申し込みがあったそうで,着実にMaharaの輪は広がっている模様。会場では無線LANおよびtwitter用のハッシュタグが用意されていたため,今回は試しにtwitterでも参加してみた。ネットにつながるので,その場で情報をすぐに検索できるし,twitter上からも様々な情報が入手できるので非常に面白い経験だったのだけれど,いろんなことが頭の中に洪水のように入ってきて疲労困憊した(笑)。

オープンソースのものとしては,Mahara:シンプル,簡単,OSP<オスピーと発音> (Sakai):高度,難しいの2つがあるが,本フォーラムでは当然のことながら前者を焦点にした話が行われた。

基調講演:

森本康彦(東京学芸大学情報処理センター准教授)eポートフォリオとの付き合い方~理論と実践の観点から~

 教育現場で働いていた経験があるそうで,こういう人の共通項か,つかみから話が入った(笑)。とにかく声が大きくて元気のある方という印象。内容は盛りだくさんだったので,その内容をかいつまんで。話の流れとしてはこことほぼ同じか。

・参考文献

森本康彦.2008. eポートフォリオの理論と実際.教育システム情報学会誌, 25(2),245-263. 図1

大人にはテストが無く,パフォーマンスで評価される。

・学習理論と評価理論のパラダイム変換

学校化された学習→真正な学習(authentic learning)

暗記中心の学習→経験による学習

教師中心→学習者(学生)中心

知識は与えられるもの→自ら構成するもの

ある時点でのテストによる客観的な評価→継続的なパフォーマンスの評価

・ポートフォリオについて

組織化/構造化されたもの,また内省が重要である。ただ単にためるだけではなく,どこに学びがあるのかを考える必要がある。「真正な学習・評価」では評価学習の一部として埋め込まれており,学習と評価は一体化され切り離すことができない。評価=学習である(メタ認知?)。

・eポートフォリオのメリット

ネットワークを通してアクセスが可能。学校内だけではなく遠隔地の人々との相互作用が期待できる。eポートフォリオとは,エビデンスとしての役割,パフォーマンスの評価,アセスメント,相互作用を行うもの。システムとしてはディベロップメント系,コースラーニング系(授業)の2つがある。

ポートフォリオは蓄積するだけではなく,修正していくプロセスが大事(ポートフォリオの活動サイクル(図3))。

事例:

課題を提出させる

感想を書き込ませる

良いと思うものを公開する(数あるものから成果物を選び(selection),公開することで相互評価,自己評価ができる)

SNSのブログなどを利用する(SNS自体が学習の履歴やエビデンスを蓄積し活用できる物であるべき)

インターンシップやクラブ活動などの課外活動を記録する

成績等を記録する(学生がカルテを閲覧できない場合はポートフォリオとは呼べない)

到達目標とカリキュラムの連動

ポートフォリオは使い方が重要。また主役は学生であり,学びを促進するためのツールとして使うのが重要。またネットワークの起点となるものである。

時間の都合上,評価基準(ルーブリック)については省略されたが,知りたいと思った。

久保田真一郎(熊本大学総合情報基盤センター助教)Maharaによる自己学習を目指した研究指導

 個人的にはこの先生の話がmaharaのイメージを作る上で一番参考になった。オンライン上だけではなく,対面指導との組み合わせにするのがポイントか。

・MoodleのRPMパッケージ(熊本大学,喜多教授)

・熊本大学大学院教授システム学専攻,eラーニングによるeラーニング専門家養成大学院。修士論文発表会のみ熊本大学に行けば良い!!Sakai OSPを利用しLMS(BpLS CE6)と連携している。

・eポートフォリオの分類→IMSグローバルラーニングコンソーシアム(IMSとeポートフォリオを検索すれば,出てくる)に基づくとMaharaはMultiple Owner Portfolioに分類される。

・杉谷研究室 bufugen,修士論文指導でサイクル 計画をマイゴールに記入し,やったことをブログに記録し,それに基づいて対面指導を行う。

・Maharaに足りないと思われるもの→複数の写真管理(Albumboxプラグイン開発中)。スケジュール機能がない(Google Calendarを利用している人もあり)。検索機能が弱い。

・どうやら熊本大学で行ったランチョンセミナーの資料はここから。

・関連資料「Sakai OSPに基づくeポートフォリオシステムの開発」

遠藤大二(酪農学園大学獣医学部教授)酪農学園大学のeポートフォリオ活用教育と手書き課題活用システムの開発

 手書きのノートにバーコードシールを貼ることにより,mahara上に転送してしまおうという面白い試み。専門が全く別なのに,こんなことが出来てしまうなんてすごいですね。それよりも何よりも遠藤先生のユーモアに引き込まれた。あれって意図して面白い事言っているのかなぁ。もし素だったらすごい(笑)!「飛ぶノート」という名称で,Microsoft Access⇒Scan Snap⇒PDF Splitter⇒mahara+飛ぶノートAPIという流れで転送しているとのこと。完成したら,酪農学園大学のmaharaホームページで公開するそうです。

田中洋一(仁愛女子短期大学生活科学学科准教授)大学間連携におけるMaharaを用いた教育の実践

 田中先生はFレックスの概要について簡潔に説明された。Fレックスは福井県内の高等教育機関7つの連携(特色としては国立大学福井大学が部分的にしか参加していない)。文科省の戦略的大学連携事業支援であり,今年度で終了するが今後も継続していく予定。使っているシステムや実践例(初年次教育,導入ゼミにも用いている)についても紹介があった。またFレックスではティーチングポートフォリオとしてmaharaを使っていく予定である。特に印象に残ったのは,moodle上にリンクを張りeポートフォリオmaharaとの連携を滑らかにしているということであった。学生に複数のシステムを使わせるのは負担が大きいと感じていたので,参考になった。



またmaharaを使う上での問題点として,eポートフォリオの文化が浸透していない(教員や学生),支援機能が弱いなどの点を挙げられていた。今後,Fレックス上に公開ビューを作成する予定。

パネルディスカッション

山川修(福井県立大学)

 eポートフォリオは使い方がわからない,学習ポートフォリオの文化が無い,簡単に使えるシステムが無い,などがありあまり普及していない(リフレクションの無いカルテとは異なる)。実際に使い始めてみると,学生が慣れるまで結構大変(LMS),また授業設計をどうしたらよいかわからない。このことから利用ノウハウの蓄積が必要。

このことから,今後の予定としてMaharaユーザ会,また年に1回のオープンフォーラムを開催する予定(来年度は北海道,その次は熊本を予定)。

 今後の方向性を示した上で,以下ディスカッション。

?アセスメントスキルの養成方法

 実際にルーブリックを利用してやらせていくことが必要。

?客観的評価をどう示すのか?パフォーマンス評価の方法は。

 評価基準,ルーブリックを作り上げ,主観的なものを客観的なものにしていく。

?問題点は

 リフレクションの機能(Wallなど)。グループのセキュリティーの概念がわかりにくい。学生も教員も負担が増える。Maharaの自由度を生かすべきか,ある程度制限するべきか。大人数の場合はmoodleの方が使いやすい。

?普及のために工夫していることは。

 学生に使った効果を実感させること。Fレックスのように緩やかな連携も有効(単一大学では難しいかも)。FレックスにおけるSNSは画期的(賑わっている)。

?Maharaのメリット

 ビュー機能がなければ単なるSNS。YouTubeが簡単に使える(ドラッグアンドドロップできる!)。

?使いにくい点

 フィードバック機能。ビューに写真をあまり載せられない。写真の張り付け機能が良くない。携帯電話から使えない(SNSについては致命的か)。

?eポートフォリオが高等教育を変える

 メタ認知(気付き)を促すことができる。熊本大学ではeラーニング300コースもある!by久保田

 eポートフォリオは万能ではないので,柔軟に対応する必要あり。高等教育は変わらなければいけないby森本

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ということで福井に日帰りという強行出張ではあったが,非常に実り多きものであった。特にeポートフォリオは万能ではなく,教員が主役になりいかに科目と連携させていくかについて考えていく必要があると森本先生が繰り返し言われていたのが印象に残った。関係ないところでは中継に使われていたMediasiteというシステムが気になった。動画およびパワーポイントのスライドを同時に中継する事ができる。価格は知らないけど,便利そうです。