2011年10月14日金曜日

2011年度前期授業アンケート

前期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきた。ちょっと遅くなったけど,まとめておきます。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。

「Reading & Writing I」履修者数28名(回答者数28名)

【授業の体系性】
設問平均4.9(科目別平均4.7,受講者数平均4.7)

【教授方法・講義内容】
設問平均4.8(科目別平均4.5,受講者数平均4.5)

授業内でMoodleを利用した活動をメインに行っている授業。概ね4.8以上の高評価をいただきましたが,【教授方法・講義内容】における「授業を通して新しい知識や理論,考え方がわかるようになりましたか」が4.6(科目別平均4.4,受講者数別平均4.4),「課題(発表,レポート,小テスト等)は,勉学を深める上で役立ちましたか」が4.6(科目別平均4.5,受講者数別平均4.5)なのが気にかかる所。何人かの学生にインタビューした所,eラーニングをやっていると勉強をした実感がわきにくいとの声もあった。実際はそうでもないんだろうけど,そのような実感を高めるための授業にするための努力が必要。

【自由記述欄】
・「パソコンを使うと、打ちこむことにも慣れてくるのですごく良い。持ってくるものがすくなくてすむ。」
・「パソコンを使うとノートにとったり、手元に残らないのですこしよくない。」=この2つの記述がポイント。
・「授業の途中で見せるパワーポイントが教科書よりすごく分りやすくてためになった。内容がおもしろくてよかった。」
・「自分の好きなように英作文するという活動が多かったので楽しかったし、単語力や文法力の無さなどを実感できたのが良かったです。」


「英語研究III」履修者数85名(回答者数71名)

【授業の体系性】
設問平均4.8(科目別平均4.7,受講者数平均4.7)

【教授内容・講義内容】
設問平均4.9(科目別平均4.5,受講者数平均4.5)

気になるのは【授業の体系性】の所で,「授業のねらいや学習目標は明確でしたか」の設問に2名が「あまりそう思わない」と答えている所。扱う内容が広範囲に渡っているので,理解が浅くなってしまったのかもしれない。その他の設問は4.8以上の高評価をいただきました。

【自由記述欄】
・「授業中で取り扱ったスライドを修道のmoodleから入手できるシステムは非常にありがたいと思う。」=良かったです。
・「授業スピードがちょうどよい。学習を一歩一歩踏みしめていくような速度。」
・「先生の話がおもしろくて、寝たりすることがほとんどなかった。スライドもおもしろくて、良かった。」
・「日頃意識していなかったコミュニケーションの問題など非常に興味深かったです。日々の生活でも考えるようになりましたし、コミュニケーションに対して少し慎重になった気がします。」
・「ノートを書く時間がほしい。」=このようなコメントが複数ありました。そのためにスライドを常時閲覧できるようにしているのですが,スライドを多用しすぎると良くないという実例です。


「英語科教育法II」履修者数23名(回答者数22名)

【授業の体系性】
設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.7)

【教授内容・講義内容】
設問平均4.9(科目別平均4.5,受講者数平均4.5)

概ね高評価をいただきました。


【自由記述欄】
・「模擬授業を実際にやってみて授業をくむ大変さを学ぶことができた。教師になりたいとさらに思うようになった。」
・「自分では出来ていたと思ってても辛口なコメントをもらえることで改善すればいいところを教えてもらえたこと。」
・「できたら先生にもまるまる1回分の中学生・高校生対象の授業をしてほしかったです。」=そうですね,一度は模範例を見せた方が良かったかも。

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毎年の改善の結果,少しずつは評価も好転しているように思います。昨年度からMoodleを利用した授業を複数行っています。Reading & Writingはその中でも授業のほぼすべてをMoodle上で行いますが,このスタイルにはやはり好き嫌いがわかれるようです。eラーニングありき,ではなくどのように効果的に使うかがポイントでしょうね。今後の改善のテーマとしたいと思います。

第4回FD・SD研修会

研修会は2部構成。1部は,Benesseによる自己発見レポートの結果をまとめたもの。2部はリクルートによる進学ブランド力調査について。以下簡単なまとめ。ちなみに広島修道大学を対象とした調査結果の報告なので,その点はご了承ください。

自己発見レポート結果報告

半数以上は大学第1志望ではなかった。特に入試形態別では一般・センター試験利用で合格した学生にその傾向が高い。入学した理由は「学びたい学問分野があったから」が最も高く,「入試難易度が合っていたから」が続く。大学選びに役立った情報上位は「高校の先生との面談や話」「オープンキャンパス」入学後学生が期待しているのは,カリキュラムにおける「講義形式」「基礎基本中心」,授業においては「専門知識の豊富さ」「説明の分かりやすさ」。入学時の意欲および学力が低い層も入試形態別でよく表れている。

当然と言えば当然の結果。カリキュラムや授業に対する要望は何だか矛盾しているような気もするが,簡単にまとめると「大学生らしい高度なことをやりたいけど,わかりやすくやってね」ということだろうか。オープンキャンパスが大学選びに役立っているかどうかは疑問だが,高校の先生への宣伝活動はもっとするべきだろう。結局高校での進路指導が「国公立偏重」である限り,地方私立大学の未来は暗い。

進学ブランド力調査

中国エリアの高校に通っている高校生1,117名を分析対象とした。進学希望地域としては中国地方内では広島県が高い(47.8%)ものの,関西(40.7%),首都圏(23.2%)への希望も高い。但し,首都圏ともなると男子学生は希望する(30.3%)ものの女子学生はそうでもない(14.7%)。

中四国エリア全体の知名度は1位広島修道大学,2位安田女子大学,3位ノートルダム清心女子大学と続く。中国エリアでも全体では1位だが,男子は1位にもかかわらず女子では2位(1位は安田女子大学)。全体の興味度は1位川崎医療福祉大学,2位広島修道大学,3位安田女子大学。男子では1位広島工業大学,2位広島修道大学,3位岡山理科大学。女子では1位安田女子大学,2位川崎医療福祉大学,3位ノートルダム清心女子大学。中四国エリア全体の志願度トップは1位広島修道大学,2位や川崎医療福祉大学,3位安田女子大学。男子では1位広島修道大学,2位広島工業大学,3位川崎医療福祉大学,女子では1位安田女子大学,2位ノートルダム清心女子大学,3位川崎医療福祉大学。広島県で見ると男子では知名度・志願度で広島修道大学が1位,興味度は広島工業大学が1位。女子では安田女子大学がすべての項目で1位

中四国エリア全体でイメージランキング(機能的イメージ)1位の項目は「教授・講師陣が魅力的である」「自宅から通える」「学生生活が楽しめる」「クラブ・サークルが盛んである」「入試方法が自分に合っている」「偏差値が自分に合っている」「活気がある感じがする」「有名である」。下位項目は「専門分野を深く学べる」「学費が高くない」「遊びに行くのに便利な立地である」「学校が発展していく可能性がある」。感性的イメージの上位項目は「明るい」「親しみやすい」「自由な」。下位項目では「先進的な」「おしゃれな」「力強い」。

まさに本学の現状を良く表している。以前は女子大学が苦戦しているイメージだったが,最近は盛り返している(一部の女子大学のみ)傾向にあるようだ。女子学生を獲得するというのは大学経営において重要なポイントであり,女子学生の比率が確実に下がっている本学においては,早急な対策が望まれる。

以下,広島修道大学が安田女子大学に負けている項目をまとめてみた。これらを見ればわかるように,ほとんどはイメージに基づく判断(ブランド性)であり,実情とは必ずしも一致していない。だからこそ,大学としての確固としたブランド向上のための戦略が必要となる。学会等に行くと大学案内をもらうことが多いが,どの大学案内を見たって内容や構成に目新しさは全くない。もしかして同じ会社が作ったんじゃないだろうかと思う位だ。大学としてもう少し方針を明確にし,それらを大学案内をはじめとしたメディアで宣伝すべきだと思う。

教育内容・制度
「学びたい学部・学科がある」「教育方針・カリキュラムが魅力的である」「教育内容のレベルが高い」「社会で役立つ力が身につく」「教養が身に付く」

構成要員
「先輩・卒業生が魅力的である」「学生の面倒見が良い」

卒業後
「就職に有利である」「卒業後に社会で活躍できる」

立地・環境
「勉強するのに良い環境である」

学生生活
「学習設備や環境が整っている」「キャンパスがきれいである」「寮や奨学金などが充実している」

ブランド性
「校風や雰囲気が良い」「学校が発展していく可能性がある」「周囲の人からの評判が良い」



2011年9月6日火曜日

学士力,社会人基礎力,コミュニケーション力〜「○○力」と大学教育〜

 2011年9月5日(月曜日)広島修道大学にてtwitterでおなじみの渡邊芳之先生(帯広畜産大学)による「学士力,社会人基礎力,コミュニケーション力~「○○力」と大学教育~」という講演が行われた。巷に蔓延る「○○力」を批判する内容で,今までの疑問が解決するような明快かつ爽快な講演であった。以下,覚え書きとして書いた講演の流れ。当日の模様はUSTREAMで閲覧できます。

「◯○力」ということば。老人力をきっかけに増え始めてきた。それまで力と思われていなかったもの。教育においては「生きる力」。ゆとり教育の見直しの中でも中心に位置づけ。2008年においては、中教審の学士力。次に2006年の中教審による社会人基礎力、そして企業が採用時の重要な基準とするコミュニケーション力。

新しい「○○力」の特徴は、社会や企業の側が求めるもの、それを持つかどうかで人が評価され序列化されるもの、目標を決めるのは教育ではなく社会や企業である、という3つ。なので教育との間に様々な問題を生み出す。

物理学による力の意味するもの。力とは物体の位置や速度の変化を引き起こすもの。位置や変化そのもの(作用、反作用などの現象)、変化を引き起こすものの内部にあるもの(潜在力、位置エネルギー)。力そのものは見えない曖昧な概念。

心理学的な力。学力とは、実際に教科学習の成績が高いこと(教科テストの成績、学力の操作的定義、目に見える力)、教科学習の成績を高くする潜在力(生徒の内部にある力、心的概念、目に見えない力)。

カルナップによる傾性概念(disposition concept)と理論的構成概念(theoretical construct)という考え方。テストで測られる目に見える学力は傾性概念。観察にすべて還元される概念。現象の説明力、予測力は状況に依存。生徒の中にある目に見えない概念は理論的構成概念。観察に還元されない意味を持つ。状況を超えた説明力、予測力を持つ。原因論的な説明も可能。

心理的な力はふつう、理論的構成概念として用いられる。そこで、成績をあげたかったら、生徒の学力を育てようと考える。
○○力も同様。どんな状況で○○できるということなのか?

○○力は学力や体力とどう違うか?その力が明確な操作的定義がされているか、育成する方法が知られているかどうか。このことが教育の場での問題を大きくしている。

学力。学習達成は操作的に定義され、心理学的測定により客観的に測定可能。○○力を測定できるテストがあるか?操作的定義が不明確だと、評価が恣意的になり、結果論(生きている生徒には生きる力がある)にしかならなくなる。

○○力を育成する方法は知られているか?学力や体力には授業やトレーニング方法があり、それらが系統化、組織化されており、教員は専門家である。学士力やコミュニケーション力には、具体的な方法が用意されておらず、系統化も組織化もされておらず、教員はその専門家ではない。育成方法が知られていないと、育てられない、ばかりか、本人の努力に依存するようになり、教育以前の能力で決まってしまう(家庭環境やしつけ、経験)。

現在、大学ではコミュニケーション主眼、特に初年次教育において、が増えているが、教員にはそれを測定、教育する力もない。そうすると教育目標や評価基準のない授業が増える。コミュニケーション「させる」だけの授業が増える。コミュニケーションさせたら、コミュ力が育つという根拠は?学修の成果をどう評価すれば良いのか?更に深刻なのは、大学に不適応になる学生が増える(コミュ力の低い学生は)。

では大学は何をすべきか。2つの方法。1つには○○力を操作的定義し育成法を確立する。それは心理学者の仕事だが、果たしてできるか、すべきか?次に○○力に批判的な目を向ける。○○力を人の内部にあるものと見ることをやめ、その場の状況や文脈と結びついて発揮される力と考える。本人の責任にするのではなく、コミュ力が発揮される環境作り、コミュ力を引き出す対人関係作りをする。
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「○○力」というのはあくまでも比喩表現であり,それを安易に用いてしまうことの危険性がよく理解できた。学士力という概念が一度導入されてしまった以上,無くなることはないだろう。今後このような批判的な意見をはじめとして,大学人がきちんと議論をしていくことが重要だ。

日本リメディアル教育学会第7回全国大会

 日本リメディアル教育学会第7回全国大会(福岡大学)が、2011年9月2日(金曜日)~3日(土曜日)の日程で福岡大学で行われた。学会では、リメディアル教育学会で行ったアンケート結果をWeb上でも公開し、学会誌で詳細について検討していく予定とのこと。また学習支援ハンドブック(仮)を作成し、第8回全国大会前に刊行する予定らしい。一日目は快晴だったものの、段々と天気が怪しくなり二日目は暴風の中で何とか開催された。以下、いくつかの発表の覚え書き。

特別企画
フィンランドの教育・日本の教育
Finnish Education - From past success to Future excellence
Jarmo Viteli(タンペレ大学)


今後はICTや協働学習などが今後重要になってくるであろう。フィンランドでは講義スタイルからの脱却を図っている。教師と学習者に役割の変化、教師はorchestratorであり、学習者自身が目標を設定し、自律的に学習できる方向へ転換している。

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YouTubeビデオを見ながら楽器の演奏で始まった講演。聴衆を惹きつけるという意味で非常に優れたものだったと思う。知識偏重ではなく想像力や協働学習を重視するという話ではあったけど、それによって与える知識の量が限られてしまうという弊害もあるはずだ。日本の教育においてもゆとり教育からの脱却が図られたように、フィンランドにおいても今後時計の振り子が戻るということもあるかもしれない。関係ないけど講演中に流したYouTubeビデオが格好良かった。


小野博(昭和大学)、田中周一(昭和大学)、工藤俊郎(大阪体育大学)、加藤良徳(大阪体育大学)、長尾佳代子(大阪体育大学)、穂屋下茂(佐賀大学)
大学入学時に求められるコミュニケーション能力とその測定


近年のコミュニケーション能力の欠如を考慮に入れ、大学入学時に必要とされるものを学習型コミュニケーション能力(SCA)、就活時に必要な能力を就活型コミュニケーション能力(BCA)と名付けた。

まずは先行研究を基にアンケートを作成し実施した結果を分析した。その結果、発信傾向、受信傾向、交渉傾向、教室質問傾向、自尊感情、自己肯定、達成動機、シャイネスの8因子を検討している。日本語学習言語と実際に使う言語には相関が無い。私立大学などにおいて発信傾向などが高い、などの結果(スライドの提示だけだったので、詳細は不明)。結果から、対面会話力(役者による指導)、日本語力、自尊感情、学習意欲などの育成を目指す必要があるだろう。今後の課題として、定義の検討やプレースメントテストの開発を行っていきたい。

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スライドがよく見えなかったのだけど、私立大学の方が発信力が高いということは就職する力もあるということなのだろうか。コミュニケーション能力は確かに重要だが、あくまでも学力を支えるためのものであって、それを前面に押し出すのは少し問題があるかもしれない。

石田雪也(千歳科学技術大学総合光学部)
e-learningを用いた入学前教育における学習効果


2000年より利用を開始し、19000コンテンツを開発。LMSの利用。2週間ごとのコース制、英、数、国を週20~30時間行う。学習指導(やるように指導)及び手紙を送り、達成率が低い場合は学長室に呼び出すことにした。発表者本人が述べているように、eラーニングと紙媒体の間の違いは認められない。

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この大学は以前からeラーニングを用いた入学前教育を行っており、興味深い。入学前教育を受ける目的が、学力の維持あるいは向上にあるのであれば、学習の内容に踏み込んだ指導が必要となるだろう。

森川修(鳥取大学教育支援機構入学センター)
入学前教育におけるe-learningでの英語の学習効果


2005年より入学前教育を実施。入学前教育合宿研修(プレースメントテスト)、e-learing課題、入学後にプレースメントテストという形式に変換。ワオ・コーポレーションの教材を利用。合宿研修時のGTECとTOEICのスコアを比較(紙媒体での学習者を除く)。e-learningの進捗状況を理想型、集中型、後半型、未実施の4種類がいる。学習時間が長いから良い訳ではない。

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テストの種類が多様で解釈が難しかった。eラーニングをより一層活用するためには、このような効果の検証が必要。ただし、他の要素も多くからんでいるはずなので、純粋なeラーニングの効果を検証するのは非常に困難かもしれない。

藤川俊子(佐賀大学高等教育開発センター)、田代雅美(佐賀大学eラーニングスタジオ)、穂屋下茂(佐賀大学高等教育開発センター)
LMSを利用促進を目指した授業


「教育デジタル表現」という科目。eラーニングコンテンツの作成を行う。moodleの機能を理解し使うことができる、テーマに応じた教材を作成できる、グループで協調してコースを作成できることを目標とした。受講生は学生として教員としてログインする。

田中忠芳(松本歯科大学歯学部)
大学初年次物理系教育のための講義・実験モジュールの構築とe-Learningコンテンツの開発III

LMSのWebStudyを利用。

米満潔(佐賀大学eラーニングスタジオ)ほか
リメディアル教材の作成と活用支援

大学で作成した教材は他大学では使いにくい。今後は共有して使いやすいものにする必要がある。

教材の共有化:scorm2004に準拠し、複数のLMSに対応。
教材と学習者情報の分離:教材はレポジトリサーバへ保存。UPOネットが先行、その後、大学コンソーシアム佐賀が英語リメディアル教材、初級編(15項目)・中級編(16項目)を作成。それぞれの学習項目に穴埋めや並べ替え、音声を利用した問題が混在、4技能のうち、スピーキングを除くもの。

2010年に試行し、2011年は英文法の授業外で用いるリメディアル教材として利用。教員が学習履歴を確認するのは大変なので、センターにメンターを配置。

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このような試みは重要だが、一つだけ気になったのは英語の音声が日本人学生によるものだったこと。

神谷健一(大阪工業大学知的財産学部)
Phrase Reading Worksheetと種々の副教材を使った授業設計:教室内学力格差への対応を目指して

Phrase Reading Worksheet (PRW)作成ツールによるプリント教材を利用した実践について。ソフトウェアはhttp://www.oit.ac.jp/ip/~kamiya/prw/からダウンロード可能

大澤真也、中西大輔
学生に自信を付けさせる英語教育プログラムの予備的検討(2):教員・学生を対象としたCan-Doアンケートの分析から


出張の目的。前年度に引き続き学生を対象に行ったCan-Doアンケートの結果とToeicスコアとの相関を調べたもの。今回は教員へのアンケートも行い、その分析結果の発表を行った。
この研究もそろそろ相関がどうのこうのという所からステップアップして英語教育改革へとつなげたい。

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ということで、学習支援センターの仕事にかかわるようになって以来、参加するようになったリメディアル教育学会への参加を終えた。この学会の面白い所は理数系教育・英語教育や学習支援センター、ICT系など様々な分野の人が発表する所だ。特にeラーニング系の発表については参考になるものが多い(個人的にはmoodle関連)。でも非常に意欲的な研究発表を行っている人もいる一方で、リメディアル教育への嘆きを言っているだけのような人もいる。

リメディアル教育がこれからますます重要視されるのは間違いない。だからこそ、協働して教育手法・評価、教材作りなどを行っていかなければいけない。泣き言を言っている暇はないのだ。

2011年8月24日水曜日

第37回全国英語教育学会「がんばろう日本、がんばろう東北」山形研究大会

 2011年8月20日(土曜日),21日(日曜日)の日程で山形大学小白川キャンパスにて全国英語教育学会が開催された。開会式は東日本大震災で犠牲になった方への黙祷から始まった。山形大学は原子力発電所から100キロ程度しか離れていないが,放射能の影響はそれほど無いとのこと。僕は飛行機で午前中に山形入りして何の問題も無かったのだけど,19日(金曜日)は東京で大雨,午後3時頃には福島沖で進度5弱の地震がおきるなどトラブル続きで,山形入りに苦労した参加者の方もたくさんいた模様。地震のとき,実はワシントンホテル24階の展望ロビーにいたので,山形では震度3だったものの高層ビル特有の揺れに遭遇し非常に怖い思いをした。というか,地震の揺れを感じるのも久しぶりだった。それはともかく学会発表の覚え書き。

土岸真由美,大澤真也,岡田あずさ
「広島修道大学の英語教育におけるMoodle利用の実態」


 いきなり初日の午前中にあたってしまたんだけど,今回の学会参加の目的の1つ。広島修道大学で導入したMoodle利用の実態についてMoodleの統計機能を利用したデータを提示しながら説明した。主には1)ここ数年のMoodle導入の経緯,2)Moodleを利用したCan-doリスト調査,3)ユーザとしての教員・学生インタビューの分析,の3部構成。メインはインタビュー分析で,教員と学生がMoodleに対していただく意識をコーディングし分類した。今後はMoodleを利用して実施したアンケートの分析も行い,更なるeラーニングの普及につなげていく予定。

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聞きにきてくれた人が少なかったのは残念。全国英語教育学会しかもネームバリューの無い僕たちが「大学でのeラーニングシステム」について発表をするというのは,もしかすると場違いだったかもしれない。でも学会発表を1つの目標にすることで,インタビュー調査の分析を行うことができたので,今後はこの分析結果をもとに学内での普及促進につなげたい。


金志佳代子(兵庫県立大学),大年順子(岡山大学),久留友紀子(愛知医科大学),正木美智子(大阪国際大学),山西博之(関西外国語大学)
「EFL教室における書き直しツールとしてのライティング・ルーブリックの使用ー学生の認識調査と教員の評価結果をもとにー」

 日本の大学・短期大学における運用を目指して独自に開発したライティング・ルーブリック(評価ガイドライン)を,学生による「書き直しツール」として使用した効果を検証するもの。ルーブリックは内容・展開,構成,文法,語彙,綴り・句読点とそれぞれの下位項目から構成されいている(Kinshi et al. 2011. Revising a writing rubric for its improved use in the classroom. LET Kansai Chapter Collected Papers, 13, 113-124.)。一般的にはルーブリックは教師の評価ツールであるが,本発表では学生が書き直しを行うためのツールとしてとらえている。発表の目的は1)ライティング・ルーブリックを参照して書き直した際の認識結果を,質的・量的な側面から分析し,ライティング・ガイドラインとしての有用性を探る,2)ルーブリックを利用した学生のプレ・ポストエッセイの分析的評価,総合的評価を分析する,の2点。
 参加者は日本の3大学の大学生98名(C-Test平均はそれぞれ55.6,54.4,54.0)。手順としてルーブリックとモデルエッセイを提示した上で,英語ライティングの構造を説明。その後モデルエッセイとは異なるトピックについてプランニングさせた後,30分間のライティングを実施しプレ・エッセイを回収。1週間後フィードバックなしのエッセイを返却し,配布したルーブリックを参照しながら各自でエッセイを書き直すよう指導した。書き直し後,ルーブリックがどの程度役立ったかについて調査するため,4段階のリカーとスケールと自由記述からなるアンケート用紙を配布。指導開始から2週間後にプレエッセイ,ポストエッセイ,アンケート用紙を回収した。98名のうち,欠損値の無いことを前提に,英語熟達度のバランスを考え,20名をサンプリングした。エッセイは4名の日本人教員がルーブリックの項目ごと,そして総合的に見た質をそれぞれ10段階で評価した。
 結果,概ね学習者はルーブリックを役に立つものであると感じているが,文法や語彙については意見が分かれる結果となった。またポストエッセイにおいてはルーブリックの各項目,総合評価においてすべてが向上していた(t検定,効果量(r)も提示。効果量は.10以上が「小」,.30以上「中」,.50以上が「大」)。

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ルーブリックがどのような経緯で開発されたのかを知らないので,今後文献を読んでおこうと思う。自律学習の重要性が指摘されることの多い最近,このようにルーブリックを自律学習のツールとして利用するという発想は非常に興味深かった。気になったのはルーブリックの下位項目における記述がとても抽象的なものであるということ。たとえば,「構成」の下位項目として「文章の流れはスムーズである」というものがあるが,どういう書き直しを行えばスムーズになるかということを学習者は認識できるのだろうか?その意味では自律学習のツールとして利用するのであれば,より具体的な例を交えた解説があっても良いのではないかと思った。また実際にルーブリックを見てどのような書き直しをしたかについての質的な分析があると更に示唆に富んだものになるかもしれない。


沢谷祐輔(北海道小樽高等支援学校),横山吉樹(北海道教育大学札幌校)
「ピアレビューにおける学習者の作文能力とピアコメント、修正との関係性」

 
稲垣宏行(愛知県立岡崎西高等学校),山下淳子(名古屋大学)
「第二言語ライティングにおけるメタ言語的フィードバックの役割」

研究課題はメタ言語的フィードバックが宣言的知識・手続的知識を促進させるか,もしそうであれば目標言語項目(テンス・アスペクト,冠詞)によって差があるか,というもの。これらの項目はFerris and Roberts (2001)ほかにおいてフィードバックで習得が可能とされているもの。日本人大学生42名を対象に欠損値を除いた実験群14名,統制群16名を最終的な分析の対象とした。英語力はOxford Quick Placement Testを利用し測定した。
 宣言的知識を調べるものとしてエラーテスト(誤りに下線を引いて訂正し,理由を書く),手続的知識を調べるものとして英検準1級用の4コマ漫画を題材とし,Target-like useの計算式を利用してスコアを算出した(分母:n obligatory contexts + n suppliance in nonobligatory contexts, 分子:n correct suppliance in contexts)。手順として,事前テストを行い,6回のライティングに対するフィードバック処置を実施し,その後に事後テスト,3週間後に遅延テストを実施した。統制群には無いように対するgoodなどのコメントのみを与えた。遅延テスト終了後に両群の8名に対し,半構造化インタビューを行った。結果,エラーテストのテンス・アスペクトはgroupとtimeの主効果が有意,冠詞はgroupとtimeの交互作用が有意,ライティングタスクのテンス・アスペクトはgroupとtimeの交互作用が有意,冠詞はいずれの主効果,交互作用も有意ではなかった。インタビューの結果とあわせて,スコアの推移の方に共通するビリーフは上位安定型(文法への高い意識),ゆらぎ型(内容重視・文法軽視),向上型(L2習得への肯定的態度)の3種類があると考えた。
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まだ発表内容を消化しきれていません。

中村香恵子(北海道工業大学),長谷川聡(北海道医療大学),志村昭?(旭川実業高等学校)
「小学校教師の言語教師認知研究ーモデル化と質問紙の作成ー」


高橋幸(京都大学),金丸敏幸(京都大学),田地野彰(京都大学)
「アカデミックライティングのルーブリック開発に向けた能力記述文の分析」

 アカデミックライティングの技能を図る評価ガイドライン(ルーブリック)の開発に向けて,既存の能力記述文を収集し分析した。分析データは国内外のEAP関連コースを実施している大学のホームページやシラバス,報告書等について調査し,ライティングに関する能力記述文を抽出した(英国10,米国50,カナダ10,オーストラリア10,ニュージーランド5,日本20の計105校)。またCEFR, ACTFL Proficiency guidelinesのライティングに関するもの,TOEFL,GRE,IELTSのライティングセクションの評価項目から能力記述文を抽出した。それらを処理した後,TinyTesxt Minerで分析した。
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今後,実際の開発につながる前の前段階なのだろうけど,興味深かった。京都大学はアカデミックなものに限定している所がポイント。

石川慎一郎(神戸大学)
「Writing, Rewriting, Proof Writingー量的言語指標に見る可変性と不可変性」

 学習者コーパスを利用した学習者ライティングの言語特性の分析は行われているものの,専門家による英文校閲を行わせた場合,フィードバックを与えて学習者にリライトを行わせた場合に元のエッセイがどう修正されるかについての実証研究は十分ではない。そこで本研究ではそれら2種類のエッセイを比較した。利用したデータはInternational Corpus Network of Asian Learners of English (ICNALE)を利用して分析した。
モデル英作文を利用して修正したもの,コーパスの傾向を提示して修正したもの,英文校閲者の修正に基づいて修正したものを比較した結果,この順番に母語話者への近接度が高かった(語彙の観点において)。
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石川先生らしい発表で,ライティング研究の専門家ではあまり考えつかないような新しいタイプの研究であった。コーパスデータを提示して指導する試みは面白いのだけれど,あくまでもテーマが限定されていること(アルバイトについて),そして語彙の点からの分析しか行われていないこと,については賛否両論があるだろう。

鈴木渉(宮城教育大学)
「筆記ランゲージング活動は第二言語学習を促進するか?」

ランゲージング(the act of using language to mediate cognition - to bring thinking into existence, Swain, 2010)について。

Swain, M. (2010). “Talking-it through”: Languaging as a source of learning. In R. Batstone (ed.), Sociocognitivce perspectives on language use and language learning (pp. 112-130). OUP.
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勉強不足で知りませんでした。勉強しておきます。

根岸雅史(東京外国語大学),村野井仁(東北学院大学),高田智子(明海大学),投野由紀夫(東京外国語大学)
「CEFRの日本の英語教育への適用:検証と今後の課題」


「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」にもCan-doの重要性が指摘されている。

現在はCEFR-Jの検証段階。たとえば,実際に作成したレベルを教員が判断できるかどうかを検証するために並べ替えてもらったり,中学生に記述文が理解できるかどうかをやってもらった結果などについてのまとめ。今後の予定としては2012年3月にバージョン1の作成,2012年3月9-10日に公開シンポジウムを開催,ARTE Journal,そして『CEFR-Jガイドブック』を大修館書店から出版予定であることなどが報告された。

その他:
CEFRで作成中のEnglish Vocabulary Profile
British Council - EAQUALS Core Inventory for General English
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基本的にシンブルな方が嬉しいので,このような日本版CEFRを作るという試みは大歓迎だ。その一方でまだ情報不足ではあるけれど,Common Asian Framework of References for Languages(CAFR)なんてものを作ろうとしている動きもあるとか。まあいろんな人たちがいろんな想いで基準を作成するのは良いのだけれど,問題はきちんとそれぞれのリストをマッピングすること。じゃないと作っただけで終わってしまいそうな気がする。CEFR-Jがどんなものになるにしろ,それを軸にして互換性を高めたものにして欲しい。みんなで利用してみんなで批判して,みんなで改善して,そのような動きが出てくれば,日本の英語教育も少しは良い方向にいくんじゃないだろうか。

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ということで全国英語教育学会への参加が終わった。毎年いろんな発表を聞きいろんな刺激を受ける場所。そして1年に1回様々な知人・友人に出会いお互いに旧交を温めつつ情報交換をする場所。今回はtwitterで絡んだことがある人に話しかけてみたり,あるいは見かけたみたり,という新しい交流もあった。今後もライティングだけではなく,様々なことを研究させていただきます。今回発表したテーマは大学におけるeラーニングシステムの活用というテーマだったので,あまり受けは良くなかった模様。おそらくLETとかMoodle Mootの方が受けは良かったかもしれません。オーディエンスを意識した発表を考えるというのも重要ですね。オーディエンスが少な過ぎると落ち込むので(笑)。

ASIALEX 2011 Kyoto Conference

 2011年8月22日(月曜日)~24日(水曜日)の日程で行われたアジアの辞書学学会Asialex 2011に参加した(最終日はツアーなので未参加)。元々の興味の関心ではないのだけど,同僚の先生との共同研究の一環で定期的に参加している。Biennialでの開催なので次回は2013年インドネシアのバリで開催されるらしい。そろそろこの研究も潮時だと思っていたけど,バリと聞くだけで参加したくなるのはやっぱり動機として不純だろうか・・・。それはともかく覚え書き。

DAY 1
Chikako Nishigaki, Kotaro Amano, Noriko Minegishi & Kiyomi Chujo
“Creating a level appropriate corpus and paper-based DDL for the high school L2 classroom”

 コンコーダンスソフトウェアを利用して抽出したデータを提示することによって行うdata-driven learning (DDL)の話。コーパスを利用する学習は帰納的学習を通しての自律性を高めるとされている(Braun, 2005; Huan, 2008; Hunston, 2002; O’Keeffe, McCarthy and Carter, 2007)。しかしながら初級言語学習者にとってオーセンティックな言語の中からルールやパターンを見つけるのは困難であると考えられている。そこで本研究ではレベルの適切な紙を利用したDDLを日本の中,高等学校の生徒を対象に行うこととした。
 コーパスは日本,中国,韓国,台湾の中・高等学校の教科書をもとにしている(JCKT English textbook corpus。248,423語)。授業はWarm up(既存の知識の確認),Look(コンコーダンスラインを見てルールを発見),Understand(教員からのルールの説明),Practice,Review,Use(プロダクションにおいて学んだルールを確認する)の5ステップで構成されている。
 実験に参加したのは中学生15名と高校生27名でCEFRで言えばA1とA2に該当すると考えられる。DDLの後,プリテストとポストテストを行った(両方のテストは同じもの)。また5段階からなる質問紙も行った。結果,ポストテストで点数が上昇し,質問紙の評価も肯定的なものが多かった。
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フロアからの質問にもあったが,中,高等学校で使用されているテキストをコーパスとして利用することは適切なのかは今後の課題。疑問としてはCEFRのレベルをどのようにして推定したのか,そして同じテストをプリ,ポストテストとして利用すると点数が上昇するのは当然だろうということ,そして授業の構成にはUnderstandとして教員からの説明も入っているため,DDLの効果であるとは言い切れないことだろう。ただ,中・高等学校での実践でそこまでの統制を求めるのは困難であるし,何よりもコーパスを中・高等学校で利用して教えようという試みは非常に興味深い。今後の実践に注目したい。

Susannna Bae
“For better training in dictionary use: Voice from Korean teachers of English”

 辞書スキル指導の重要性について指摘した発表。先行研究においても辞書スキル指導の有効性は認められている(BIshop, 2001; Carduner, 2003; Chi, 2003; Lee and Min, 2006; Lee, 2007; Han, 2008) 。発表は,発表者が韓国の教員教育機関で22名の小学校,26名の高等学校の英語教員に対して行った実践について報告したものであった。4週間の間にNesi (2003)の辞書スキルの分類も参考にしながら,1)awareness-raising,2)understanding the types, functions, and structures of dictionaries,3)using various types of learners’ dictionaries for production,4)using electronic dicitionariesという段階を踏んで実践が行われた。そして教員からは肯定的なフィードバックが得られた。
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教員からのフィードバックの紹介だけで,実際にどのような辞書スキルトレーニングの効果が得られたかどうかは不明である。しかしながら,学生ではなく学生を教える側の教員へ辞書スキルのトレーニングを行うという発想は非常に興味深かった。

Jim Ronald & Shinya Ozawa
“Electronic dictionary use: Identifying and addressing user difficulties”

 学会参加の主目的である発表を同僚のRonald先生と行った。1回限りではあるが辞書スキルのトレーニングを行い,プリ・ポストテスト(曖昧な新聞記事の見出しを10個訳すというもの)がどうであったか,またNesi (2003)の辞書スキルのアンケートを2回実施し,その意識がどのように変化したかについて報告した。結果的にはプリ,ポストテストのバランスが全く取れていなかったので,スコア的にはあまり意味のあるものは提示できなかったが,アンケートの結果また自由記述へのコメントから,学習者の辞書スキルへの意識が多少高まったことが確認された。
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そんなに興味を持つ人はいないだろうと思っていたのに40名位の聴衆を集めることができたのではないだろうか。そのお陰で,同僚と二人そろって舞い上がった(苦笑)。発表としては詰め込みすぎたのか,この分野に知識を持つ人数名からしかフィードバックを得ることができなかった。はっきり言って研究としては未熟なのだけど,辞書学の分野ではこのような辞書ユーザ研究が近年注目を集めているようだ。

Marcin Overgaard Ptaszynski & Mikolaj Sobkowiak
“Is it all just text production? Examining dictionary use in L1-L2 translation and in free composition in L2”

 テキストの産出を訳と自由作文に分類し,それぞれにおいて使われている辞書スキルを調査したもの。ユーザの背景を知るための質問紙,written protocols,テスト後のインタビューなどを行った。
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様々な手法を使ったりして非常に興味深い発表ではあったのだけど,「熟達度=L2の学習期間」と定義してしまっている点に疑問を感じた。

“Symbosium: E-lexicography: Trends in Japan, Asia and the World”
(Yukio Tono, Jack Halpern, Takahiro Kokawa, Yuichiro Yonebayahshi)

 電子辞書学(?)についてのシンポジアム。まずは投野先生からこの分野におけるいくつかのポイントが紹介された。それは1)automated lexicography(コンピュータによるもの。Sketch EngineやDANTE (a lexical database for Englishなどがある),2)Adaptive dictionaries(ユーザの行動をトラッキングして,辞書を改善しようとするもの:de Schryver. 2009. Artificial intelligence meets e-Lexicography. In eLexicography in the 21st century: New challenges, new applications: Book of abstracts, pp. 49-50),3)Terminology and e-Lexicography(ターミノロジーを取り入れたもの。Weblioなど),4)Social networking and e-Lexicography(Wikitionaryなど)である。これらの視点から,iPhoneアプリとしての辞書や,携帯型電子辞書,Weblioなどの開発者が発表を行った。
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開発者などから直接話を聞けたのは非常に面白かった。フロアからも活発に意見が出ていたように思う。1つの方向性としていかにユーザフレンドリーなものにするかということが議論されていたように思う。確かに開発者の視点からすると正しいかもしれないが,教育者の視点からすると,便利なものになればなるほど学習者は勉強しなくなる。検索行動が楽になればなるほど覚えなくなるような気がしてしょうがない。せっかく紙ではなくデジタルのものを開発するのであれば,最初から教育者の視点を入れたものを開発しても良い気がする。実際電子辞書の購買者の多くは生徒や学生である訳だし。

DAY 2
Robert Lew
“User studies: Opportunities and limitations”
 辞書のユーザ研究について概観したもの。辞書検索行動を調査するものとして,observation (participant / non-participant), self-accounts, think-aloud protocols, videotaping, screen recorders, server logging, eye trackingなどがある。また実証主義的なものと自然主義のもの(Cohen et al., 2007)についてそれぞれの特徴を述べた。その後,ユーザの変数に注意を払うこと,構成妥当性と操作性を意識するこなどの重要性が指摘された。
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近年辞書学学会の中でも大きな位置を占めつつあるユーザ研究について概観したもの。あまり知識を持っていない分野だけに参考になった(英語教育研究の中では当然と言えば当然のことなんだけど)。

Mayumi Nishikawa
“Discourse markers indicating topic change in English-Japanese dictionaries”

先行研究や映画での実際の利用例から談話標識を再定義し,辞書での説明を改善することを提言したもの。扱われた談話標識は,by the way, anyway, now, look, so, okay(Schourup, Dが談話標識について多くの論文を書いている)。
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こういうことには個人的に興味があるので,楽しく聞けた。フロアからの質問に「なぜ映画の台詞を分析の対象にしたのか」というものがあったが,それには一理あると思う。やはり自然な発話と比べると人工的な感じがするのは否めないので,今後は自然な発話を対象とした分析を行うことによって,今回の発表の結論を強化してほしい。
Satoshi Inoue
“How speech-act verbs should be described: A study based on NS and NNS corpus”
盛りだくさんの発表だったので詳細は割愛するが,発話行為動詞(talk, speak, tell, say)についてCEEAUSコーパスをもとに分析したもの。
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フロアから「ジャンルの影響があるのでは?」という質問があった。またとある参加者から「あのような表現は何か不自然じゃない?」とも聞かれた。そういう意味ではやはり1つのコーパスだけに限定して分析を一般化しようとするこは危うい気がする。でも発表としては非常に包括的なものだったし,分析的な方法はとても勉強になった。

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ということで辞書学学会への参加が終わった。最初に参加したのがシンガポールで行われた2005年で,その次は2008年にバルセロナでEuralex(ヨーロッパの辞書学学会)。どちらもとても専門的なものが多くて興味を持てなかったというより,理解できないものが多かった気がする。今回の大会に関して言えば,ユーザの視点に立った研究発表が数多く行われており,勉強になることが多かった。国際学会というと,夜のパーティーも含まれており,その短時間で交流を図るというのは日本人にとってはとても厳しいのだけれど,それもまた経験。今回は2回ともパーティーに参加してしまったので,少し疲れてしまったけれど・・・。パーティーでの場所の取り合い(だって変な場所に座ると長時間苦痛だし)は面白いと言えば面白いよね。ある意味人間力が試される(笑)。

今回の学会参加で思ったのはユーザ研究が注目を集めつつあること,そしてこの学会にも調査手法の厳密さが要求されるようになりつつあるということだ。今後統計的手法を用いた研究発表の数は間違いなく増えていくことだろう。でもこの辞書学学会らしいあたたかい雰囲気や,データなどではなく主観的な分析から述べる主張というのは面白いし,今後も続いてほしい雰囲気ではあるな。

2011年8月7日日曜日

LET第51回全国研究大会「外国語学習での自律性と継続性」(名古屋学院大学名古屋キャンパス)

2011年8月6日~8月8日の日程で開催されたLET全国研究大会に参加した。今回は仕事の都合もあり,参加したのは8月7日のみ。風のない暑い日で昼は味噌カツ弁当,夜は味噌煮込みうどんと,味噌にまみれた名古屋の1日。以下,備忘録。

多様な大学環境における英語eラーニングー学習者アンケートからみえてくるものー
青木伸之(広島市立大学)ほか


 ぎゅっとeを導入している各大学において,学習者の情意面(学習意欲や興味など)が受講中にどのように変化するのか,変化するとすれば教材消化率,不適切学習の発生率などの学習パフォーマンスとどのような関係にあるのか,そしてそれらは導入形態や授業形態などによってどのように異なるのかについての調査。

リーディング:読解速度300wpm以上での学習
リスニング:学習速度3秒以下で学習

のものを「不適切学習」と定義し,質を伴った学習と区別する。また英語力は単純化して,知っている能力と使える能力に区別する。

学習の事前(4月中旬~5月上旬),中間(5月下旬~6月上旬),事後(7月上旬~下旬)にアンケート調査を実施した。やる気役立ち感,態度,努力・まじめ,楽しさ,学習進度,満足度について調査した(今回の調査は太字について)

太字の項目について概観した後,TOEICスコアの伸び率(分母:満点ー事前得点,分子,事後得点ー事前得点)についても簡単に触れていた。

まとめ
マネージメントがある程度の影響を及ぼしている可能性がある。特に学習進度は管理がういほど,自分の進捗状況に好印象を持っている。学習者にとって学習しやすい課題かどうかによっても差がある。役立ち感では,マネージメントの効果は見られなかった。

情意面の変化と実際の学習履歴との関係:
管理の強い大学ほど影響する余地は少なく,コンスタントな学習が見られ,強くない大学では情意面での違いが比較的消化率に影響していた。強い管理が無いことは,やる気の高低に関係なく,学習期間終了間際に駆け込み消化の傾向が見られた。

有効なマネージメントとは?:
学習期間中の細かい締め切りの設定,復習テストの実施の有無,週1回の対面授業の有無などが,管理の重要なポイントであることがわかった。→学習者が自身の学習について振り返ったりチェックしたりする機会をできるだけ提供できるような管理が有効なのではないか?

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以前から思っていることだが,eラーニングに関する研究はまだ発展途上で,理論的背景も十分とは言えず,研究テーマとしては面白いのだが,説得力に欠ける部分が多い。今回の研究はそういった意味では非常に野心的な研究であると言えるのだけれど,提示したデータと解釈の乖離が激しいように感じた。「このデータの理由はおそらく○○だと思われる」ということばが多かったのだけれど,もう少し興味深いデータが欲しいところ。

英語教育における自己調整学習に関する質問紙の作成
香林綾子(関西大学)


学習方略の尺度:MSLQ, SILL, MAIなど。

EFL環境下におけるL2 Motivational Self Systemの検証:英語専攻者と非専攻者を比較して
植木美千子(関西大学大学院)


共分散構造分析(SEM)による分析。

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関西大学の大学院は最近頑張っている。ただ,これが外国語教育「メディア」学会の発表かと言うと,疑問も残る。

協働学習を取り入れた英語ライティング指導の可能性
阿部真(獨協大学)・山西博之(関西外国語大学)


2つの大学で行われた,ペアで英作文を書く活動中に質問紙調査を実施し,学習者がペアで協働することによって「できた(わかった)」ことは何かについての調査。

調査1:
私立大学1年生45名を対象に,「ペアで作文を書く」「ペアで模範作文を参照する」「個別で書き直す」の3段階タスクを実施し,それぞれの段階で「できた(わかった)」ことに関する4件法による10の質問項目と自由記述3項目からなる質問紙調査を実施した(質問紙の項目は発話思考法のデータから得られたもの)。4件法による回答は記述統計量を算出し,自由記述はKJ法を用いて記述内容をグループ化した。それぞれ2人でやったからこそできた「協力」,自分ができない部分を相手が補ってくれた「補助」,自分と違う点が興味深い「相違」に分類した。それらにあてはまらないものは,グローバルなストラテジーという視点での分類が現れていた。

タスクは英検の4コマのストーリーを説明するもの。質問紙の項目は以下の通り。

語彙に関するもの
1.適切な単語を思いつくことができた。
2.どちらを使うか迷っていた単語を一つに決めることができた。
3.表現を多様にするためにどのように単語を言い換えればよいかわかった。
形式に関するもの
4.単語の正しい綴りがわかった(確認することができた)。
5.内容語(名詞,形容詞,動詞の語法など)の適切な使い方がわかった.
6.機能語(冠詞,前置詞,接続詞,関係詞など)の適切な使い方がわかった。
7.文法事項(時制,態,名詞の単数・複数など)の適切な使い方がわかった。
作文の内容やタスクに関するもの
8.絵の中の何を書いたらよいのかわかった。
9.絵の中の情報をどの程度細かく書くべきかわかった。
10.このタスクが何を求めているのかがわかった。
自由記述による質問項目(1~10以外)
11.ペアで作文を書いている段階でよくできたと思うことは何ですか?

調査2:
上記とは別の私立大学60名を対象に,調査2を実施した。調査2では1のKJ法による質的分析から得られたグループを用いて質問項目を作成した(1.パートナーと協力してできたこと,2.パートナーが助けてくれたこと,3.パートナーとの違いで興味深かったこと)。得られた自由記述の回答は,語彙・形式・内容の3つのカテゴリーに当てはめる要領で分類し集計された。

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とてもかりやすい発表でした。今後の予定として,作文の質との関連を探るとのことであったが,その結果が待たれる。

プロジェクトIRCー多読の授業における互恵的な読書環境の創出
水野邦太郎(福岡県立大学)

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KH Coderを使った分析ということで興味深かった。

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広島ー名古屋間の移動を甘く見て,日帰り出張にしたのだけれど,よく考えてみれば往復の新幹線だけで往復5時間。学会会場に滞在した時間は約6時間。あまり効率の良い出張とは言えなかったような・・・。

2011年6月4日土曜日

大学教育学会第33回大会

 2011年6月4日(土曜日)~6月5日(日曜日)の日程で大学教育学会第33回大会が開催された。会場は1日目が桜美林大学多摩アカデミーヒルズ,2日目が町田キャンパス。以下,学会参加の覚え書き。

今回の総合テーマは「大学教育の質とは何かーふたたび大学のレゾンデートルを問うー」であった。大学教育における質保証は近年の最大の関心事とされており,シラバスやGPA制度の導入,成績評価の厳格化などさまざまな改革が求められている。いままでは大学の画一化を促進してきたが,今後は独自性を追求してく必要がある。このような観点からシンボジウム,ラウンドテーブル,自由研究発表などが行われた。

<第1日>
シンポジウムI  現代における生涯発達と大学教育
以下の3つの発表およびディスカッション。
山崎洋子(武庫川女子大学)「キャリア形成とライフサイクル」
筒井洋一(京都精華大学)「大学入学のレディネス」
発表要旨録集とは違うタイトルで「大学教育のジェネリックスキルと教育方法」というタイトルでのお話をされた。主には「言語表現科目」,日本語表現法科目の拡大についての話であった。1990年代初頭には数パーセントの実施率だったものが,2010年には実施する大学が85%へと拡大してきている。このような科目を導入することにより,形式面でのスキル向上の効果がある。また担当者として非専門家が参入するという特徴がある。日本語表現法の今後の方向性としては1)専門的な深化,2)ステークホルダーの拡大,3)社会への拡大,などが考えられる。また今後の課題として1)「話す,聴く」の重視,2)相手を意識すること,3)相手の話を聴くことがある。最後にキーワードとして「専門的な能力や知識「異質なものとの共存」「社会で生きる意味」「ダイアローグ」を挙げられた。

足立寛(立教大学セカンドステージ大学事務室)「生涯発達と大学教育」
2008年に開校した立教セカンドステージ大学の説明。団塊世代を中心とするシニア層のニーズや特徴に注目しできるかぎり安い受講料(登録料込みで年間40万円)で50歳以上の人を対象とした教育を展開している。その大学の概要および課題や問題点などについてデータを交えながら説明をされた。

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フロアからの質問としては「生涯発達」と「生涯教育」の差が不明瞭との指摘,また「言語表現科目」などのコミュニケーション能力育成のための科目に対する疑問が呈された。残念ながら生涯発達と大学教育とのかかわりがあまり理解できなかった。

シンポジウムII 大学教育における質保証の実践的展開とその意味
 
川島啓二氏(国立教育政策研究所企画員)と中村雅子氏(桜美林大学)の司会で始まったシンポジウム。若手の研究者を中心とした発表で活発な議論が交わされるシンポジウムとなった。発表は以下の3つ。

佐藤浩章(愛媛大学)「3つのポリシーの策定と一貫性構築によるカリキュラムの質保証」
3つのポリシーの策定と一貫性構築の取組みは1)説明責任,2)学生の学習効果を最大限に高める教育・学習戦略としてだけではなく,3)教職員がカリキュラム開発手法を学ぶ能力開発の機会(FD)として位置づける必要がある。この取組みを組織的に展開する手法として愛媛大学での実践事例を紹介された。

  1. ・組織体制づくり
学部教員,学部教育責任者,全学教育担当管理者(教育担当理事・副学長),全学FD担当者(高等教育センター等教職員)の4者が関与して全学的に進めることが望ましい。愛媛大学では教育企画室(全学FD担当者)が主催する2007~2009年度の4年間に「学士課程の体系化」をテーマにした教育コーディネーター(学部教育責任者)研修会(全18回)を通して取組みを進めた。

ステップとしては1)目指すべき人材像(私立大学の場合は建学の精神,国公立大学の場合は大学憲章などを策定
),2)ディプロマ・ポリシー(教育活動の正課として学生に保証する最低限の能力<卒業時>を記載)の策定,3)アドミッション・ポリシー(DPの内容と混在したり,それを超えてしまうようなものであってはいけない)の策定,4)カリキュラム・ポリシーの策定(カリキュラム・チェックリストやカリキュラム・マップの作成),5)カリキュラム評価手法の策定(試験,面接,観察評価,卒業論文,ラーニング・ポートフォリオなど),の順番に行い,PDCAサイクルを持続的に循環させていく。愛媛大学では2010年度にコーディネーター研修会で,カリキュラム評価結果の自己点検を行った。

本取組みの効果を検証するために教育コーディネータに対してアンケートおよびインタビュー調査を行ったところ,教育目標を構成員で共有できた,シラバスの書き方に統一性が見られるようになった,受験生への説明がしやすくなった,という点において成果が認められた一方,全教員への浸透が困難,学生への周知ができていない,教育コーディネーター作業負担などに課題が残されていることが明らかになった。また専門分野の知識特性も影響を与えている(例えば文系の学部ではカリキュラム・マップを作りにくいなど)。

筒井泉雄(一橋大学)「GPA制度本格導入と成績評価を考える」
一橋大学では7年間の議論を経て2010年度よりGPA制度を導入した。その契機となったのは学生による成績評価アンケートと大学審議会の答申であった(また後援会からの留学を意識した強い要請)。本発表ではその経緯や成果を報告された。

一橋大学では卒業要件としてGPA 1.8(条件が整えば2.0を検討する)を課している。またGPA制度のサポートとして「履修撤回(成績が危ういと思えば履修を撤回できる)」,「上書き再履修(成績の悪かった科目を取り直すと成績が上書きされる)」などを導入した。また緊急の対応が必要とされるものに,低GPA取得者の対策がある。そこで語学や体育などの必修のクラスを理容師,低GPA学生を早期発見するとともに,履修相談や指導なども行っている。2010年度のデータとしてはGPAが2.0以下の学生は160/1000名(夏),120/1000名(年度末)であった。面談などをして対応したが学校に来ない,あるいは発達障害などの問題も明らかになり,今後の新しい課題として対応が必要である。

またGPA導入により明らかになったのはいわゆる楽勝科目への殺到,クラス分けのためのTOEIC受験における手抜き,などが挙げられる。またゼミなどの評価はE ,Fの2種類でありGPAには反映されないなどの問題もある。

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フロアからの質問が集中したのがこの発表。「そもそも何でGPAを導入したのか」,「好きな科目をがんばり,嫌いな科目は合格ラインすれすれで単位を取るような学生はだめなのか」などの質問があった。筒井先生によれば足掛け7年間の議論を経て導入を決めたということであるが,発表で報告されいているような状況は,実施前から想定できるものが多いのではないだろうか。GPAは現在の高等教育におけるキーワードのようになっているが,そもそもの導入の目的についてもう少し議論を深める必要があるだろう。

山田剛史(愛媛大学)「学生調査の開発とマルチレベルFDとの連動による教育の質保証」
2011年4月より愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室に移られたそうで,本発表は島根大学教育開発センターに所属していた時の報告。

教育の質保証という文脈において学生調査(アセスメント)は重要な役割を果たしている(assessmentは価値判断を伴うものであり,evaluationは中立的なものであり,目標が必要)。近年は教員の印象や経験に依存した改革ではないIR(Institutional Research)が注目を集めており,その中でも教学領域に特化したものを教学IRと呼び,学生調査の開発・実施・運用も含んでいる。

こうした学生調査は改善・向上(Improvement)を目的としたものと説明責任(Accountability)を目的としたものが存在し,どちらに依って立つかによってアプローチは異なってくる(前者はFD,後者は外部評価と親和性が高い)。

島根大学教育開発センターでは,「学生の学びと育ち」をとらえるための各種学生調査を行っている。主なものとしてはミクロ学生による授業評価),ミドル(初年次学生調査(プログラム評価)),マクロ(入学時調査(診断的評価),卒業生・修了生調査(統括的評価))などがある。各種調査ではカレッジ・インパクト理論(Pascarella & Terenzini, 2005)のI-E-O (Input, Environment, Outcome/Output)モデル(Astin, 1993)や学生エンゲージメント(Student engagement)研究(Kuh, 2001; Harper & Quaye, 2009)を分析の参照フレームとしており,調査の結果をそれぞれのレベルに応じて利用している。

継続的な実施,また結果を組織の意思決定や職員,学生へのフィードバックとして利用するといった点においては,まだ課題が残されており,インフラ整備や人材の養成,大学執行部による理解の深化なども必要になるだろう。

<参考文献>
Astin, A.W. 1993. Assessment for excellence: The philosophy and practice of assessment and evaluation in higher education, ORXY Press.
Harper, S.R. & Quaye, S.J. (Eds.) 2009. Student engagement in higher education: Theoretical perspectives and practical approaches for diverse populations. Routledge.
Kuh, G.D. 2001. Assessing what really matters to student learning: Inside the National Survey of Student Engagement. Change, 33(3), 10-17.
Pascarella, E.T. & Terenzini, P.T. 2005. How college affects students. Jossey-Bass.
Suskie, L. 2009. Assessing student learning: A common sense guide.

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個人的にはこのシンポジウムが一番面白かった。若手の研究者が大学でのFDに積極的にかかわった実践の報告であり,単なる経験や感想に留まらず,きちんとした海外での実践や研究成果にも基づいている。高等教育における研究はまだ発展途上なんだろうけど,今後こういった人たちが道を拓いていくんだろうし,そうであって欲しいなと思う。

<第2日>
テーブル3 大学におけるカリキュラムの設計と実施(カリキュラム・マネジメント)ー大学人の協働可能性ー
池田輝政(名城大学)「学士課程のカリキュラム設計における教職協働」
2008年3月専門を重視したリベラルアーツ系学部」コンセプトの全学合意。
R. Diamond (1998)のカリキュラムデザイン法に基づき,コース設計と全体設計を行う。

育成人材像(教育)と入学者像(学習)の議論と形成などを意識した上で,「科学コミュニケーション学部(仮称)」の設立を目指したが,大学協議会で不承認。

赤堀侃司「大学におけるインストラクショナル・デザイン(ID)
秦敬治(愛媛大学)「大学におけるかりキュラム・マネジメントのプロセス」
初等・中等教育を中心に教育課程経営(1984~1990年)→教育課程基準の大綱化・弾力化(1998~2000)→カリキュラム・マネジメント(2002年)。

カリキュラム・マネジメントを促進していく上での基軸の一つは関係者の協働である(中留)。

カリキュラム文化と組織文化の間には高い相関がある。

これまでは教員主体,職員主体でカリキュラムに関する分担をしていたが。これからは教員主体,職員主体,そして協働業務を行う必要がある。

P.F.ドラッカーの引用<組織や大学について>

サイクルとして考えその中で教職協働の一環としてチームで行うことが必要。また今までは専門教育,共通教育,正課外教育が分断されていたものを今後はリンクさせてマネジメントをする必要がある。愛媛大学では正課外ではなく,正課補教育と名称を変更することを検討している。

その他,気になった発表を備忘録。
皆本晃弥 他(佐賀大学)「佐賀大学学士力とチューター制度を利用したラーニング・ポートフォリオシステムの開発」
ポートフォリオで学士力を評価するという試み。

山藤誠司(桜美林大学)・安岡高志(立命館大学)「オンデマンド授業における学習意欲を継続させるための方策」
オンデマンド授業の問題点などを探った報告。今後こういった報告は必要になると思う。時間があれば,いろいろ質問したかったのだけど・・・。

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高等教育において,分野をまたがって様々な人たちが実践や改革を行っている様子がよくわかった。今回気になったのは学生が参画するFD(聞けなかったけど)があるということだ。「学生=顧客」という図式を鵜呑みにしてしまうのはまずいと思うんだけど,学生の声を受け止め教員の教育実践との擦り合わせを行うというのは大切なことだろう。

極論を言えば,今まで教育に無頓着だった高等教育機関が積極的に改善に努めていると言える。でも,こういう学会での報告を聞くとすべてが順調に進んでいるかのように思えるが,実際にはどこの大学でも様々な抵抗に合っているようである。

今回特に感じたのは今までは自分自身の経験や海外での研究をそのまま援用しているだけだったものが,少し説得力のある議論になってきているということだ。「高等教育学」というものがあるとすれば,それが形を作り始めているとも言えるかもしれない。正直な話,「教育」というものを科学的に話し合うことに関しては,少々疑問を感じていたのだが,今回の学会ではそのような私でもはっとさせられるような報告が散見された。

2011年4月1日金曜日

2010年度後期授業アンケート

後期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきた。2011年度も始まったことだし,ちょっと遅れたけどまとめておく。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。

「e-learning英語II」履修者数43名(回答者数34名)
【授業の体系性】
設問平均4.6(科目別平均4.7,受講者数平均4.6)
【教授方法・講義内容】
設問平均4.7(科目別平均4.5,受講者数平均4.4)

【授業の体系性」については評価があまり芳しくなかった。原因としては「授業時間や授業回数はきちんと守られていましたか」の設問に対する評価が4.6(科目平均4.8,受講者数平均4.7)だったことに原因があるようだ。「e-learning英語」科目はTOEIC Bridgeの試験日以降の授業を前倒し補講しなければいけないのだけれど,その行い方(eラーニング中心)に問題があったんだろうか・・・。【教授方法・講義内容】に関しては,「教員の話し方や声の大きさは適切でしたか」が4.8,「学生の反応や理解度を見ながら授業が進められていましたか」が4.8をはじめとして,概ね良い評価をいただいた。「授業を通して新しい知識や理論,考え方がわかるようになりましたか」は4.5だった(科目別平均4.3,受講者数平均4.1)。平均に比べれば良いのだけれど,この設問に関してはもう少し高評価を得られるようにしたい。

【自由記述欄】
・「文法のことなど丁ねいに説明してくれたので長年もやもやしていたものが解決しました。ありがとうございました。」=そのような指導を心がけたつもりだったので、良かったです。
・「先生や学生アシスタントの先生がとても分かりやすく教えてくれたし、優しかったのでたのしかった。」=この科目には英語ピアを導入しているので,ピアをしてくれた子も喜んでくれていることでしょう。
・「e-ランはいらないです。力にならないです。」=そういう声も多いですね。eラーニングは使い方だとは思うのですが,このような声を真摯に受け止めて改善していきたいと思います(ということで「e-learning英語」という科目は無くなりました)。

「ゼミナールII」履修者数15名(回答者数15名)
【授業の体系性】
設問平均4.8(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授内容・講義内容】
設問平均4.7(科目別平均4.6,受講者数平均4.6)

少人数のクラスということで,それなりの高評価をいただきました。特に【教授内容・講義内容】において,「教員の話し方や声の大きさは適切でしたか」,「教員は学生の質問などに適切に対応していましたか」,「学生の反応や理解度をみながら授業が進められていましたか」,「黒板・ホワイトボード・プロジェクタ等の使用は適切でしたか」については4.9だった。これらは平均よりも高いので,素直に嬉しい。一方,「学習に対する興味・関心を刺激する授業でしたか」,「授業の内容は理解できましたか」,「課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか」は4.5だった。平均とそんなに異ならないのだけれど,どちらかと言えばこれらの設問で高い評価を得られるようにならなければいけないと思う。

【自由記述欄】
・「発表後の先生の解説がとても分かりやすくて、理解が深まりました。先生のお話しはとても興味が湧きます。ポートフォリオなどで予習のポイントを載せて下さるなど、生徒のことを考えたサポートが嬉しいです。これからもよろしくお願いします。」=模範解答です!!!(笑)
・「適度に雑談もあり、楽しかった。」=過度じゃなくて良かった。
・「教室が暑い」/「教室が遠い」=僕の責任じゃないよ,それは。

「英語の諸相II」履修者数39名(回答者数30名)
【授業の体系性】
設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.7)
【教授内容・講義内容】
設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.5)

英語の教科書を使って行う授業なので,とても大変な授業はずなのだけれど,少人数であるせいか,意外と高評価をしていただきました。やはり大学生ということで,ある程度難しいものを丁寧に教えるという授業は,一部の学生には受け入れてもらえるのかもしれない。

【自由記述欄】
・「今まで学んだことのない分野だったので、新しい発見がたくさんある授業でした。先生が、難しい理論を分かりやすく例などを出して説明してくれたので理解することができました。」
・「先生の話の内容もおもしろく、テンポよく授業が進められていたので、1コマがあっという間に終わったように思えるくらい楽しかったです。また、ハンドアウトも理解に役立つ内容で助かりました。」
・「人が少ないので、1授業につき1回は必ず当たるのはドキドキでしたが、会話とか発言などの返し方とかの勉強にもなったり(誘われて断わる方法とか)して、楽しかったです。」=このような具体的な記述が多いのも,この授業の特徴。
・「教科書が説明が長いし分かりづらかったです。」=当然の反応だと思います。英語英文学科に入ったからにはこのレベルの教科書は読めるようになって欲しいとは思いますが。
・たまに授業が長引いて、バスに乗れない。」=うそー,そんなに長引いたこと無いはずだけど・・・。

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実はゼミナールIV(卒業年次生)でもアンケートをとったのだけど,【授業の体系性】,【授業内容・講義内容】ともに5.0という恐ろしい結果だったので,詳細については割愛します。まとめの代わりに卒業していったゼミ生たちが自由記述欄に残してくれたコメントを引用しておきます。

・「授業の雰囲気が最高に良かった。何でも気がねなく質問できる授業・環境づくりができていた。今までの大学の授業の中でもNo.1の授業で間違いないです。」
・「生徒の理解度に合わせて授業を進行してくださったところ。時折、冗談も折り混ぜながら引き込んでくれるお陰で楽しみながら、授業に参加することができたところ。」
・「どんな質問にも丁寧に答えてもらえました。例をたくさん出して授業がすすめられたので、分かりやすかったです。」
・「先生の解説が面白くて、興味を持って聞くことが出来ました。あと、発表者が毎回違うのも楽しかったです。自分の発表のときはプレゼンテーション能力が身に付いた気がします。」
・「先生\(^o^)/ 2年間ありがとうございました☆☆こんなゼミ生ですんません・・・・来年、気が向いたら遊びに行きます!」=気が向かなくても遊びに来なさい!
・「皆の意見を出しあって、楽しく授業できました。大澤先生のゼミをとってよかったです!!!」
・「先生がステキすぎて、震えた。」=君が震えているのを見たことが無いよ。
・「これから授業を受けられなくなるのがさみしいです。」
・「私語が多かった。」=活発な授業と私語が多い授業は表裏一体ですね。気をつけます。
・「2年間を通じて、その生徒のレベルに合わせて対応してくださったので、非常に助かりました。時に喝を入れながらも温かく見守ってくださって、居心地の良い空間を演出してくださいました。ありがとうございました。」
・「語用論て最初わからなかったけど、すごく興味深い内容と気付かされました。すごく楽しかったし、ゼミメンバーもステキでした!」
・「今までありがとうございました。先生のゼミでよかったです。」
・「2年間楽しかったですー!!大澤ゼミ最高!!ありがとうございました。」


2011年3月23日水曜日

卒業式

 2011年3月11日,東日本大震災以降,東日本の大学を中心に卒業式や入学式の延期がされる中,本学では予定通り3月20日(日曜日)に卒業式が行われました。来賓の方,学長皆が震災の被害に遭われた方へのお見舞いのことばを冒頭に述べつつの祝辞。学生たちはいろいろ思う所もあるんだろうけれど,表面上は何事も無かったかのように元気。こういった苦難を乗り越えるパワーは若者ならでは。今後しばらくは厳しい時代が続くだろうけれど,頑張ってほしい。

 春休み期間中に英国ウォリック大学に6週間の予定で留学していた学生たちも無事帰国。現地では街頭に立ち,東日本大震災への募金活動をしてくれたらしい。異国で見聞きする大震災報道,そして日本に実際に帰ってからの印象は違うだろうけれど,このような時に留学できたということは,とても貴重な経験だと思う。

 そして大学教員にとっての貴重な研究・研修期間である春休みも残りあとわずか。これから更に忙しくなるけれど,新たな一年に向けて頑張りましょう!!!

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2011年3月4日金曜日

ウォリック大学引率(2010.2.5〜2.14)

 うちの大学では毎年ウォリック大学に学生を派遣している(6週間)。ここ数年は2月のはじめにプログラムがスタートしていたので,ちょうど入学試験の時期と重なり引率に行くことができなかった。今年は運良く,入試が終わった後に出発する日程だったので,在外研究以来(2006~7年ウォリック大学にて)にイギリスを再訪した。
 1年間暮らしたキャンパスの風景,そして仲良くしていた人々との再会。何か特別なことをしなくても,単に大学内の図書館で勉強をしたり学生の授業を観察したりしているだけでとても幸せな毎日だった。ウォリック大学には様々な国籍,そして年齢層の人々が在籍しているので,僕みたいなおじさんがキャンパス内を歩いていたって何の違和感も無い(笑)。こういう環境で勉強できるというのはとても幸せなことだよなあとつくづく思う。
 いろいろと書き連ねるほどの滞在期間でもなかったので,撮った写真だけアップロードしておきます。そう言えば,今年のゼミ生で夏休みを利用して世界旅行をした人がいるんだよね。本当に羨ましい!きっと彼女はお金で買えないいろんなことを勉強して帰って来たことでしょう。。若者よ,海外に行け!(そして僕にお土産を買いなさい)以上!
 

2011年2月23日水曜日

MoodleMoot Japan 2011

 2011年2月22,23日に高知工科大学で行われたMoodleMoot Japan 2011に参加した。去年のMoodleMootの総会で,組織作りの必要性が訴えられ,はじめて有償で行われた会合。昨年の函館からいきなり高知ということもありいろいろな意味で変化に富んだものとなった。去年は凍結した歩道を滑らないように必死で歩いていたのに,今年はあまりの暖かさにコートが必要ないなんて・・・!!!それでは聞いた発表のうち,いくつかの覚え書き。

<1日目>
Stephen HENNEBERRY(島根大学)
iPad as assessment tools in Moodle-enabled classrooms.

 英語の授業内にiPadをMoodleを利用したクラスにおける評価ツールとして使う事例の紹介。単純に言えば,宿題や出欠のチェックなどのことを教室内でその場で行ってしまおうというもの。ソフトウェアとしてはAppleのNumbersを利用する(テンプレート?か何か)。iPadに音声や画像を入れておくとVGAケーブルで出力できるし,あるいはOHCなどの装置が教室内にあれば,そのようなものを利用してiPadの画面をプロジェクタに投影することもできる。Moodleを利用する上のiPadの弱点は,1)rich text editorが使えない(確か,Moodle 2.0では改善されるはず),2)ファイルがアップロードできない,3)defaultのgradeを付けることができない,の3点。これらに関してはiPadでMoodleを最大限に活用しようと思う方が無理な話かもしれない。

 予想外の使い方をしているという訳ではなかったけれども,教室内でのiPad活用に希望を与えてくれる発表だった。本学では,プラットフォームを問わない無線認証が開始されるはずなので,これからの使い勝手は増えそう。ちなみにMoodleをiPadで活用するためのアプリもいくつか開発されているのだけど,これらのソフト(mTouchmPagemBook)を導入するとどうなるんだろう?

Peter RUTHVEN-STUART. (公立はこだて未来大学)
Designing, Creating and Managing a Moodle Course for 250 students.
 1,2年生各200名,計500名を対象にしたcontent basedの英語コースについての実践報告。学生は最初の2年間でCommunication CoursesとVirtual English Programe 1~4を履修する必要がある。VEPのクラスは既存のものであったが,評価の難しさ、学生の満足度の低さ,学習習慣の形成につながらない,などの懸念から改善を行った。オンラインのみで教室内での学習は無し。コンテンツ作成のため,低予算でガイドラインを決めて作成者に依頼をし,コンテンツの作成を行なった。そして学生に,どの技能が伸びたと思うか,授業に満足したか,などの項目を自己評価させた。

 できることなら,発表資料を公開したい位の実践報告だった(いつまで見られるかどうかわかりませんが,本人のMoodleコースにゲストログインをすると資料を見ることができます)。とにかく圧倒された。オンライン上の学習のみで単位を認めるために行われている周到な準備,そして結果の評価などを行っている所に非常に好感を持った。フロアからは「コンテンツを販売あるいはシェアする計画は無いのか?」という声も聞かれたほど。基本的にはオンライン上で飽きさせない,また機械翻訳などに頼らせないような学習をさせる工夫が様々なされているのだけれど,1)これだけの労力をかけた教材を毎年使うのか,それとも定期的に変更するのか,2)担当教員の担当コマ数としてどのようにカウントされているのか,などの疑問が残った。この方は今まで函館で無償でMootを開催されていた方でもあり,このような人材は日本のMoodle普及のためにとても貴重だと思う。MoodleMootでは,このような実践報告は数が少なく貴重なので,このような実践報告の数が増えていくべきだろう。

【その他気になったキーワード】
Hakodate Online Platform for Education
Lextutor
Module: Timed viewing

KEYNOTE
Martin DOUGIAMAS
The current state of the Moodle project including Moodle 2.0, and future directions with Moodle 2.1

 今回MoodleMootに参加した人の多くは,この講演を聴きにきていたんじゃないだろうか。Moodle開発者であるMartinが来日して,Moodleの普及状況やMoodle 2.0についての話を行った。Moodle 2.0の特徴は,Security, Performance, Media Management, Integration, Usability, appearance, New Features。今まで以上に外部サービスとの連携を柔軟に行うことができるようになる。発表時のスライドはSlideShareで本人が公開しています。

 講演の中で個人的に興味を持ったのはCommunity Hub機能とMobile Appsの2つだった。前者については,去年もMartinの講演で聴いていたんだけど,あまり理解していなかった。どうやらMoodle上で作ったコースなどを共有するためのもの。Moodle 2.0では,“publish”することにより,そのコースを他の人も自分のコースとして利用することができるようになる。また公開されているコースであれば“join”することもできる。moochと呼ばれるシステム(確か,どこでもインストールすることが可能と言っていた)を利用すれば,そこでいろんな人が作った教材やコースを共有できるのだ。日本国内だけでもこのようなコースを共有することは意義があるだろうし,大学内のサーバーにmoochをインストールして大学内だけで教材を共有するというのもとても良い試みだと思う。

 次にMobile Appとして,携帯機器でのmoodle利用をオフィシャルにサポートする方向らしい。Appの特徴としては,task-focused, touch screens only, modular, secure, works offlineがキーワードとして挙げられていた。1つ1つのタスクに特化し,オフラインで作業したものをオンラインになった時にアップロードするなどのことがタッチスクリーン対応でできるようになるらしい。日本でもあと数年でスマートフォンが主流になるだろうから,是非近いうちに実現して欲しいな(そういう僕はスマートフォンにする予定は無い)。


Tetsuo KIMURA.(新潟青陵大学)
How to analyze and improve tests on moodle(ムードルでのテスト分析と改良)

 Moodleの小テスト機能で作成した多肢選択問題の結果をどのように分析するかというもの。Exametrikaについて紹介されていた。うーん,すみません,良く理解できませんでした。

Jack BOWER.(広島文教女子大学)
Making Vocabulary Tests in Moodle.

 Moodleの小テスト機能を利用して,語彙問題を作った実践例の紹介。語彙問題は翻訳や多肢選択などオーソドックスなもの。サーバーとしてはフリーのものを利用しているらしい(本人も言っていたが,フリーのため大きな広告がはいるので少々鬱陶しい)。発表をしている途中にフロアから「Googleの辞書機能で答えがわかっちゃうよ」という発表の根本を揺るがすような指摘があったり,40分の発表なのに半分以上時間を残して終わっちゃったり,と何だか大変そうでした。全く関係ないけど,名前がとても気になりました(笑)。

Nobuhiro KUMAI(学習院大学外国語教育研究センター)
録音再生モジュールの開発と外国語学習への応用 Voice Recording Modules for FL Speaking Development

 プログラムからの引用「従来CALL教室でしかできなかった録音・再生比較がMoodle上でも可能となるモジュールを開発した。これによって,外国語による録音や比較再生,シャドーイング練習が自習室や自宅など,インターネットにつながっていればいつでもどこからでも行えるようになった。」ということで,voicerecordingモジュールの紹介。有償のものでWimbaがあるが非常に高額であるということでNanoGong appletを利用したvoice board module,voice shadow moduleを開発したとのこと。前者は音声録音,後者はシャドーイングでの活用を意識したもの。映像やテキストなどと組み合わせることで活用法は無限大に広がりそうだ。しかも音声に対する項目ごとの評価,そしてピア同士の評価も行える。その他,自宅での学習時間を報告するためのself-report moduleも開発している。共通するのはeポートフォリオとしての活用を意識していること。録音したものや学習時間などはその学期中に提出したものすべてを一覧で見ることができる。つまり学期はじめに行ったシャドーイングと学期末に行ったシャドーイングを比較するといったことができるのだ。音声の質という点で言えば,専門家にとっては物足りない部分があるかもしれないが,一般の英語教員が通常の評価に利用する程度であれば,何ら支障は無い。Moodleでここまで出来てしまうのかということに,驚愕した発表だった。Moodle Modules - - NetCourse projectから入手可能。

<番外編>Dinner
 いつもは参加しないのだけど,Moodle開発者のMartinが来るということで,本学から4名で参加してみた。あまりの人気で人数を制限せざるを得ないほどのパーティー(って言っても居酒屋貸し切り)だった。居酒屋の建物は1階とロフト状の2階から構成されており,Martin以下Moodle Association of Japanの中心メンバーが座る席以外は自由席。せっかくなので,Martinから近からず遠からずの距離を確保。しかしこんだけの人数でしかも1、2階に別れて座っているので,全体で盛り上がることも無く(笑)。だけど,座った席は非常にメンバーに恵まれていたのでとても楽しく飲めた。3時間飲み放題で4000円。コース料理は次から次へと食べきれないほどのものが出てきて大変だった。何とかMartinと少し話すこともできたので,懇親会に参加した意義はあったかな。

<2日目>
Mariko ARITA, 大澤真也,中西大輔.
Moodle/Mahara全学導入にむけた試み

 今回の参加目的の主目的は,本学でのMoodle導入の経緯を発表することであった。Maharaというキーワードに関心が集まったのか,全学というキーワードに関心が集まったのか,予想外の盛況。正式にカウントはしていないけど,4~50名には来ていただいたのではないだろうか。あくまでも実際にやってきたことを紹介するだけなので,フロアとしてはなかなか突っ込みどころがないと思うのだけど,それでもいくつかの質問をいただけたので良かった。Moodleは手軽さもあり個人レベルで導入する人も多いけれど,このように全学レベルでもがき苦しみながら導入したこと、そして継続的に有志教職員を中心にワークショップを開催していること,などがどのようにフロアの人たちに受け止められたのか,機会があれば聞いてみたい。

Don HINKELMAN, Bob GETTINGS, Justin HUNT, Thom RAWSON.
Recording and Displaying Video in Moodle.

 技術的なことはよくわからないのだけど,音声だけでなく映像もMoodle上で録音できてしまうというもの。poodLLというものらしい(ネーミングがかわいい)。もうとにかくすごい!開発者のMartinも聴きにきていて興味津々で質問を投げかけていた。基本的には音声だけでなく映像もまでもMoodle上でボタン一つで録画できてしまうというもの。帰りの便の都合があり最後までは聴けなかったんだけど,Moodleのサーバーのスペックが高ければ,そしてJAVA Runtime,Red 5Serverがあれば利用できるらしい。

【気になったキーワード】
“Moodle” official music video
Google Docsを利用したプレゼンテーション,
Kaltura
Elluminate

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 ということで2泊3日の高知出張が終わった。MoodleMootの特徴は英語母語話者の参加が非常に多いということ。発表も日・英両言語での発表が可能。実際多くの日本人が英語が専門ではなくても最低限の英語を使いこなす(というかそうでないと参加しても理解するのが困難)し,英語母語話者の人たちも多くが流暢な日本語を使いこなす。そういう意味では他の学会でありがちな「英語の発表=英語母語話者のみのオーディエンス」,「日本語の発表=日本語母語話者のみのオーディエンス」という構図は無い。実際,僕たちが行った発表にも多くの英語母語話者が参加していた。またイメージとしては日本人はどちらかと言えばいわゆる技術屋の人が多く,英語母語話者の人はどちらかと言えば英語教師を生業としている人が多い。Moodleが専門なんてことはあり得ない訳で,それぞれがアットホームな雰囲気の中でMoodleに関連する技術に関する報告や,授業での実践報告をしているのが印象的だ。ただそのアットホームさが故に発表の質が必ずしも高くないものが散見されるのも事実。ConferenceではなくMootではあるのだけど,これは今後の検討課題だろう。
 総会ではMoodle Association of Japanの今後についても様々な議論が交わされた。今回は有償で行ったはじめての学会だったが,参加費の一部をMoodle基金に寄付し、その他もほぼすべてを運営費に費やした。しかし参加者の中からは,今後も安定してMootを開催するためにはReserve Fund,Cushionを確保しておくべきだという声が多く聴かれた。確かにレポートによれば,今回のMootの参加者は国内外含めて208名だったが,これだけの人数を集めることができた理由の1つはMartinの来日だろう。来年Martinが来日しない場合にもそれだけの人数を集められるかということを考慮に入れて,運営を考えていく必要があるだろう。というか,今まで無償で開催していたMoot関係者の人たちは本当にすごい!!!

 最後に補足として,twitterで知っている人に直接会うのは何だか不思議だけど親近感がわいたよ。twitterアカウントを持っている人は,#mootjp11 で検索してみて下さい。Moot関連のつぶやきを見ることができます。

2011年1月5日水曜日

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 去年は学習履歴管理システム(LMS)であるmoodleの導入,そして学習支援センター関連でカナダのKwantlen大学(3月)への視察に始まり,何かと忙しい1年だった。夏には研究費を調達するための書類書きを2つも行い,書類書きが趣味になった,というか書類恐怖症になったり(笑)。そして秋には恒例の入試業務,そしてeラーニング関連で共同発表を2件,電子辞書関連で1件行った。年末はこれまた恒例の卒業論文指導。今回は16名の指導を行ったので,16名×20ページ(うちのゼミでの最低限のページ数)=320ページの読書を何度となく行った。書く方ももちろん大変だけど,読む方もやっぱり大変だ。
 プライベートでも5月に台湾,6月に兄との飲み会(ありそうでなかなか無い),7月には親戚および大学時代のサークルの友人の結婚披露パーティー,12月には父親の古希のお祝いもした。数年前に卒業した卒業生に街中で何度かバッタリ会ったり,何度来年度使用予定の大学案内を作成する会社の担当が元ゼミ生だったりと,何かと懐かしい素敵な出会いが多い年でもあったな。
 総括してみると結構充実した1年だったんじゃないかと思う。ここ数年あんまりそんなことを思っていなかったから,良しとしよう。今年はこれまた恒例の学期末試験,そして入学試験業務に始まって,2月には久しぶりに学生の引率でイギリスに行ける!そしてそれから帰ったらmoodleの研究会で実践報告を行う予定。学習支援センターで新たなテキストの開発を計画しているので,そちらの業務も年度末に向けて本格化する。今年も何かと忙しい1年になりそう。
 月並みだけど,今年の抱負。今年のテーマは【基礎を固める】にしたい。何かといろいろ動き出しているからこそ,しっかりと今のうちに足場を固めておきたい。最近ほんっとにきちんと読書してないし,論文も書いていないので,今年はそこに優先順位を置きたいな。やっぱり教育を充実させるためには自分がきちんと勉強(研究)していないと出来ないから。そしてプライベート>仕事。プライベートで遊んで楽しんでないと,仕事は楽しめない。大学で仕事をし始めてからのモットー,「よく遊びよく学ぶ」を今年も実践したい。あっ,あとギャグのセンスも磨きたい(おやじ化予防)!!!

【今年頑張りたいこと】
【仕事】
・新たに担当する授業の充実
・moodleの活用を継続
・maharaの活用法を検討(ゼミでの本格的導入)
・共同研究(電子辞書関連)の発表および論文執筆
・共同研究(eラーニング関連)の発表および論文執筆
単独での研究発表および論文執筆

【プライベート】
一度は海外に行きたい(第1候補:韓国)
・スペイン語あるいは韓国語のお勉強
・楽器の演奏を再開(ここ数年のテーマ)
・毎週(あるいは隔週)1度は運動(第1候補;水泳)
・じっくり映画を観たい(最低1本)