2013年9月25日水曜日

2013年度前期授業アンケート

 前期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきたので、まとめておきます。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。ちなみに質問項目は2分類に分かれており、以下の通り。

【授業の体系性】
1.授業内容は授業計画と一致していましたか。
2.授業のねらいや学習目標は明解でしたか。                                
3.授業時間や授業回数はきちんと守られていましたか。             

【教授方法・講義内容】
1.教員の話し方や声の大きさは適切でしたか。    
2.教員は学生の質問などに適切に対応していましたか。    
3.学生の反応や理解度をみながら授業が進められていましたか。
4.学習に対する興味・関心を刺激する授業でしたか。                
5.授業の内容は理解できましたか。                                        
6.授業を通して新しい知識や理論、考え方が分かるようになりましたか。
7.教員は私語など受講マナー上の問題に対して適切に対処していましたか。
8.教材(テキスト、プリント、レジュメ、スライド、ビデオ等)は、授業内容を理解する上で役立ちましたか。
9.黒板・ホワイトボード・プロジェクタ等の使用は適切でしたか。
10.課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。

「英語研究III」履修者数66名(回答者数48名)
【授業の体系性】 設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.7)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.8(科目別平均4.6,受講者数平均4.5)

 テーマは「英語コミュニケーション論」で、コミュニケーションに関連する分野を広く浅く学ぶ授業です。講義はスライドを使って行い、講義資料(スライドや動画)や授業外での議論はMoodleを使って行います。【授業の体系性】【教授方法・講義内容】とも高評価をしていただきましたが、「授業の内容は理解できましたか。」は4.6(科目別平均4.5、受講者数別平均4.3)、「授業を通して新しい知識や内容は理解できましたか。」は4.6(科目別平均4.5、受講者数別平均4.4)は改善の余地ありだと思います。

【自由記述欄】
・広く浅く内容を取り扱っていたので、他の授業とつながる部分もいくつかあって理解が深まったこと。
・授業内で使用していたパワーポイントがあとからMoodleで見返すことができる点。聞き逃したところ、書き逃したところが分かるから。
・難しい理論や考え方を実際に生徒側の活動を通して分かり易すく解釈できる授業でした。
・先生が一方的に話すのではなく、話し合いの時間が設けられたり、ゲームをする機会があって、新しい知識が頭に入りやすかったです。
・考える時間を適度にとってくれたので、理解や定着につながりました。授業内のルールを設けてくれたので、積極的に授業に参加することができました。
・ノートに写す時間をもう少し長くしてほしい。

【総括】
 基本的にスライドはMoodle上で公開しているので、メモを取る程度で良いという話はしているのですが、それでもノートを取る時間が欲しいというコメントがありました。来年度は改善したいと思います。このような講義科目では、できるだけ関心を持ってもらうように話をしようとしているのですが、授業開始時から参加してくれない学生がいたので、その辺りの対応には少し苦労しました。

「英語科教育法II」履修者数21名(回答者数20名)
【授業の体系性】 設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7)

 英語教育法I〜IIIの流れの中で、IIでは主に(1)タスクの作成、(2)4技能の評価、について説明した後、各グループごとにタスクを用いたミニ模擬授業を行ってもらいます。その授業をもとに受講者間で意見交換し、後日Moodle上でミニ授業に対するコメントを書き込んでもらいます。前年度の反省を踏まえ、今年は欲張りすぎずタスクの作成に焦点を当てた指導を行いました。

【自由記述欄】 
・模擬授業のような形で、自分たちで授業案等を考えてやったのは、授業に集中する上でとても良かったし、グループワークとしてもすごく良かったです。また、自分たち以外のグループの発表を聞くのは、色々な発見があり、知識が深まりました。前に立って生徒たちに教えていくことの難しさをはじめて知り、自分が思っている以上に大変なことだということが分かりました。
・模擬授業で意見をいってもらえること。
・模擬授業の経験が大変勉強になりました。1つの授業のために、かなりの時間を費やして準備すべきだと思ったし、予想される生徒の反応についてもきちんと対応できるようにしたいと思いました。
・やはり自分たちで授業を作って実際に行うことで、自分たちの授業の改善すべき点を見つけることができたり、また他のグループのレベルの高い授業を見ることで、その良い所を自分たちの授業に取り入れることもできるので、授業の作り方を学ぶ上でこの授業は欠かせないものだと感じました。
・テキストが中・高対象にしては難しく、タスクが作りづらい。タスク作りのみ実際の教科書を使ってやりたい。学生間に授業に対する温度差を感じた。何とかできればしてほしい。

【総括】 
 テキストの難しさについては検討したいと思います。この授業の目的は、難しいテキストの教材研究を真剣に行うことで、自身の英語力向上につなげてほしいという所にあります。他の授業と比べて厳しめのことをたくさん言いますが、本気で教員になりたいと思う人たちへのエールだと考えてもらえると嬉しいです。

「初等英語教育論」履修者数39名(回答者数39名)
【授業の体系性】 設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.7(科目別平均4.6,受講者数平均4.6)

 2013年度より新たに担当し始めた授業で、小学校教員を目指す学生を対象としています。言語習得理論の概要を説明し、それを実際の指導案に落とし込み模擬授業をしてもらうという授業方式を採用しました。

【自由記述欄】 ・にぎやかでよい雰囲気だったところ。
・英語をどう教えればいいか学べた。
・模擬授業で英語を使う機会があったこと。
・映像や、音声など諸感覚を刺激するような内容で興味を持って取り組めました。
・課題の発表の際、個人で固定せず数人で自由に組ませたり、発表している人に対してコメントを書くようにしていた点。座学の中で、一方的に話をするのではなく皆の様子を見ながら授業を進め、VTR等も活用していたこと。
・パワーポイントの字の大きさをもう少し大きくしてほしいです。
・説明が少ない。パワーポイントがはやい。
・模擬授業はDVDを見せて欲しい。
・もう少し英会話や英語の筆記問題を取り入れてほしい。

【総括】 スライド上に多くの文字を詰め込みすぎたので、みんなノートを取るのが辛そうだなというのは感じていました。来年度以降の課題にしたいと思います。また理論的な側面が多かったため、難しいと感じた人が多かったようです。1つの授業で言語習得理論の説明と英語力の向上を目指すのはなかなか難しいですが、改善策を検討します。 


2013年9月4日水曜日

全国英語教育学会 第39回北海道研究大会

 2013年8月10・11日、北海道の北星学園大学で開催された全国英語教育学会(JASELE)の研究大会に参加しました。今回は(も?)残念ながら発表することはできなかったけど、様々なことを学びました。

 開会式のときに、理論と実践の融合や現場の教員が理解できることばで研究成果を語ることの重要性が指摘されていましたし、JASELEの今後の方針もあるのでしょうが、「理論と実践」のつながりについていろいろ意見や感想を持った人が多かったようです。ざっと見たところ、以下のようなブログで感想が綴られています(他に何かご存知のものがあればお知らせください)。

tyoshida's office
タカの英語教師日記〜Stage2〜
英語教育2.0〜my home, anfieldroad〜
○○な英語教員に、俺はなる!!!!
英語科教員奮闘記
白井恭弘ブログ


 以下、ごく簡単に備忘録(本当に備忘録なので許してください)。

【1日目】
今尾 康裕(大阪大学)
「英語学習者エッセイコーパスの書き言葉としての位置づけを探る試み」

【概要】
 ICLENICEICNALEなどの学習者コーパスを紹介し、それらの多くは学習者エッセイコーパスなので、まずはエッセイコーバスの特徴をつかむ必要があることを指摘。大局的な視点から書き言葉コーパスの中における相対的な位置づけを見てみようという試み。分析手法として、タグ付けしたコーパスの語彙文法項目などを利用した多変量解析を採用、今回はコレスポンデンス分析(頻度表をもとに行と列の変数の対応を視覚化する)の結果を提示された。Logical connectorsの分析で、主な結果の概要は、formalityで使う連結詞が異なる、エッセイライティングというタスクで差があるわけではない、学習者を特徴付ける差がある、習得レベルによって使用頻度に差がある、国籍によっても頻度に差がある、であった。

【感想】
 今Mac界で知らない人はもぐりと言われる研究者、今尾先生の発表でした。Mac用のコンコーダンサーCasualConcやRを簡単に使えてしまうMacRなどの開発者でもあります。プレゼンテーションの美しさもさすがでした。
 
【2日目】
浦野 研(北海学園大学)・水本 篤(関西大学)
「英語教育実践と研究の接点 - 研究の在り方と手法 -」

【概要】
当日のUstream中継
投影資料(水本先生)
togetterによるまとめ

 研究方法についての大まかな理解、ARELEの掲載論文の分析、そして今後どんな研究が求められるかを考えていくためのワークショップ。あまりにも盛りだくさんだったので、以下ワークショップ中に書き留めたことばを羅列しておきます。

p値を見るとか有意差を見るとかはnの大きさに依存するのでかなりあやしい。」
「効果量について。APA 6th editionによれば必須!」
「効果量を偏差値にたとえる。0.8だと偏差値が8違うようなイメージ。」
「サンプリングの影響もあり、p値は再現性がないが、しばらく使われ続けるだろう。」
「CIと効果量をみればいい。」
「有意水準・検定力・効果量・サンプルサイズのうちの3つがわかれば残り一つが決まる。」
p値ではなく信頼区間がベター。実質的な差を見るのは効果量。検定にこだわるなら検定力を確認。1回の研究で言えることはかなり少ない。」
「そもそも検定が必要なのか。有意差を出すためにやっちゃってるのでは?」
「提案:p値が大事なら検定力分析を、効果量、信頼区間の蓄積、測定を軽んじない、追試を重視、再現に必要な情報を必ず書く。」
「探索型の研究ばかりやっちゃダメ」

【感想】
 あまりのすごさに「すごすぎてpちゃん」というフレーズが頭の中をグルグル回りました。ワークショップとは言え、参加者が参加できる時間はほぼ皆無だったのだけど、聞いている側の頭をフル回転させてくれる素晴らしいワークショップでした。表面上はARELE掲載論文の分析という形態でしたが、「きちんと作法に則って研究しましょうね。」というシンプルなメッセージが伝わってきました。
 ちゃんとした研究を行うためには、究極まで突き詰めることももちろん重要ですが、統計的な知識を全く持たない人が知っておくべきミニマムがわかればとても嬉しいのですが...(私も苦手な方なので統計を勉強すればするほどどこまで行けばよいのかがわからなくなります)。

白井 恭弘(ピッツバーグ大学)
「日本の英語教育の将来ー小中高における英語教育実践と研究の接点を探るー」

【感想】
 シンプルかつ明解な講演でした。白井先生の著書を見ればわかると思いますので内容はあえてまとめませんが、やはり英語教育に携わる者として1度は白井先生の主張を自分の中で咀嚼してみる必要があるかと思います。

【全体を通しての雑感】
 JASELEの研究大会に参加して思うのは、実践と研究をいかに連携させるかということです。今回も参加者の多くがそのことについて考えていたようですね。私は鳴門教育大学大学院の修士課程で勉強をしましたが、当時は現職教員の派遣制度があり(規定上は大学院生の2/3以上が現職教員だった)、全国各地から派遣された英語教員と一緒に2年間の研究生活を送りました。そこでよく聞いたことばは「研究なんて実践には何の役にも立たないよ」というものでした。私の中で印象に残っている高校の先生は常にこのようなことばを口にされていましたが、2年間の派遣期間中にARELEに投稿し見事に論文が掲載され、2年間の研修期間を終えた後、颯爽と高校に戻って行きました。
 このことから感じるのはやはり「優れた実践者=優れた研究者」であるべきだということです。残念ながら優れた研究者の中には実践を蔑ろにしている(というか実践できない)人もいます。また小・中・高等学校の教員の中には、最初から実践者の視点だけで実践を捉えて「研究なんて...」という人もいることでしょう。ですが研究者の端くれとして言わせていただけるのであれば、「研究と実践の効果的な循環」がなければ英語教育の未来はないと考えています。そのためにも「大学の研究者>小・中・高等学校の教員」という訳のわからない妄想は忘れ、お互いが健全に議論し合うべきだと思います。

 余談ですが、私は教育現場ということばがあまり好きではありません。そのことばを使った途端に小・中・高等学校での英語教育と大学での英語教育が分断されてしまう気がするからです。大学で英語教育に携わる身としては、必死に英語教育をしているつもりですし、研究と教育をなんとか結びつけようともがいています。現場ということばを使うのであれば、大学での英語教育も入れて欲しいと思うし、そのことばを聞く度に何だか切ない気持ちになります。

【その他気になった情報】
検定力分析を行うためのソフトG*Power 3
Exploratory Software for Confidence Intervals
大名力先生のDictation作成サイト