2011年2月23日水曜日

MoodleMoot Japan 2011

 2011年2月22,23日に高知工科大学で行われたMoodleMoot Japan 2011に参加した。去年のMoodleMootの総会で,組織作りの必要性が訴えられ,はじめて有償で行われた会合。昨年の函館からいきなり高知ということもありいろいろな意味で変化に富んだものとなった。去年は凍結した歩道を滑らないように必死で歩いていたのに,今年はあまりの暖かさにコートが必要ないなんて・・・!!!それでは聞いた発表のうち,いくつかの覚え書き。

<1日目>
Stephen HENNEBERRY(島根大学)
iPad as assessment tools in Moodle-enabled classrooms.

 英語の授業内にiPadをMoodleを利用したクラスにおける評価ツールとして使う事例の紹介。単純に言えば,宿題や出欠のチェックなどのことを教室内でその場で行ってしまおうというもの。ソフトウェアとしてはAppleのNumbersを利用する(テンプレート?か何か)。iPadに音声や画像を入れておくとVGAケーブルで出力できるし,あるいはOHCなどの装置が教室内にあれば,そのようなものを利用してiPadの画面をプロジェクタに投影することもできる。Moodleを利用する上のiPadの弱点は,1)rich text editorが使えない(確か,Moodle 2.0では改善されるはず),2)ファイルがアップロードできない,3)defaultのgradeを付けることができない,の3点。これらに関してはiPadでMoodleを最大限に活用しようと思う方が無理な話かもしれない。

 予想外の使い方をしているという訳ではなかったけれども,教室内でのiPad活用に希望を与えてくれる発表だった。本学では,プラットフォームを問わない無線認証が開始されるはずなので,これからの使い勝手は増えそう。ちなみにMoodleをiPadで活用するためのアプリもいくつか開発されているのだけど,これらのソフト(mTouchmPagemBook)を導入するとどうなるんだろう?

Peter RUTHVEN-STUART. (公立はこだて未来大学)
Designing, Creating and Managing a Moodle Course for 250 students.
 1,2年生各200名,計500名を対象にしたcontent basedの英語コースについての実践報告。学生は最初の2年間でCommunication CoursesとVirtual English Programe 1~4を履修する必要がある。VEPのクラスは既存のものであったが,評価の難しさ、学生の満足度の低さ,学習習慣の形成につながらない,などの懸念から改善を行った。オンラインのみで教室内での学習は無し。コンテンツ作成のため,低予算でガイドラインを決めて作成者に依頼をし,コンテンツの作成を行なった。そして学生に,どの技能が伸びたと思うか,授業に満足したか,などの項目を自己評価させた。

 できることなら,発表資料を公開したい位の実践報告だった(いつまで見られるかどうかわかりませんが,本人のMoodleコースにゲストログインをすると資料を見ることができます)。とにかく圧倒された。オンライン上の学習のみで単位を認めるために行われている周到な準備,そして結果の評価などを行っている所に非常に好感を持った。フロアからは「コンテンツを販売あるいはシェアする計画は無いのか?」という声も聞かれたほど。基本的にはオンライン上で飽きさせない,また機械翻訳などに頼らせないような学習をさせる工夫が様々なされているのだけれど,1)これだけの労力をかけた教材を毎年使うのか,それとも定期的に変更するのか,2)担当教員の担当コマ数としてどのようにカウントされているのか,などの疑問が残った。この方は今まで函館で無償でMootを開催されていた方でもあり,このような人材は日本のMoodle普及のためにとても貴重だと思う。MoodleMootでは,このような実践報告は数が少なく貴重なので,このような実践報告の数が増えていくべきだろう。

【その他気になったキーワード】
Hakodate Online Platform for Education
Lextutor
Module: Timed viewing

KEYNOTE
Martin DOUGIAMAS
The current state of the Moodle project including Moodle 2.0, and future directions with Moodle 2.1

 今回MoodleMootに参加した人の多くは,この講演を聴きにきていたんじゃないだろうか。Moodle開発者であるMartinが来日して,Moodleの普及状況やMoodle 2.0についての話を行った。Moodle 2.0の特徴は,Security, Performance, Media Management, Integration, Usability, appearance, New Features。今まで以上に外部サービスとの連携を柔軟に行うことができるようになる。発表時のスライドはSlideShareで本人が公開しています。

 講演の中で個人的に興味を持ったのはCommunity Hub機能とMobile Appsの2つだった。前者については,去年もMartinの講演で聴いていたんだけど,あまり理解していなかった。どうやらMoodle上で作ったコースなどを共有するためのもの。Moodle 2.0では,“publish”することにより,そのコースを他の人も自分のコースとして利用することができるようになる。また公開されているコースであれば“join”することもできる。moochと呼ばれるシステム(確か,どこでもインストールすることが可能と言っていた)を利用すれば,そこでいろんな人が作った教材やコースを共有できるのだ。日本国内だけでもこのようなコースを共有することは意義があるだろうし,大学内のサーバーにmoochをインストールして大学内だけで教材を共有するというのもとても良い試みだと思う。

 次にMobile Appとして,携帯機器でのmoodle利用をオフィシャルにサポートする方向らしい。Appの特徴としては,task-focused, touch screens only, modular, secure, works offlineがキーワードとして挙げられていた。1つ1つのタスクに特化し,オフラインで作業したものをオンラインになった時にアップロードするなどのことがタッチスクリーン対応でできるようになるらしい。日本でもあと数年でスマートフォンが主流になるだろうから,是非近いうちに実現して欲しいな(そういう僕はスマートフォンにする予定は無い)。


Tetsuo KIMURA.(新潟青陵大学)
How to analyze and improve tests on moodle(ムードルでのテスト分析と改良)

 Moodleの小テスト機能で作成した多肢選択問題の結果をどのように分析するかというもの。Exametrikaについて紹介されていた。うーん,すみません,良く理解できませんでした。

Jack BOWER.(広島文教女子大学)
Making Vocabulary Tests in Moodle.

 Moodleの小テスト機能を利用して,語彙問題を作った実践例の紹介。語彙問題は翻訳や多肢選択などオーソドックスなもの。サーバーとしてはフリーのものを利用しているらしい(本人も言っていたが,フリーのため大きな広告がはいるので少々鬱陶しい)。発表をしている途中にフロアから「Googleの辞書機能で答えがわかっちゃうよ」という発表の根本を揺るがすような指摘があったり,40分の発表なのに半分以上時間を残して終わっちゃったり,と何だか大変そうでした。全く関係ないけど,名前がとても気になりました(笑)。

Nobuhiro KUMAI(学習院大学外国語教育研究センター)
録音再生モジュールの開発と外国語学習への応用 Voice Recording Modules for FL Speaking Development

 プログラムからの引用「従来CALL教室でしかできなかった録音・再生比較がMoodle上でも可能となるモジュールを開発した。これによって,外国語による録音や比較再生,シャドーイング練習が自習室や自宅など,インターネットにつながっていればいつでもどこからでも行えるようになった。」ということで,voicerecordingモジュールの紹介。有償のものでWimbaがあるが非常に高額であるということでNanoGong appletを利用したvoice board module,voice shadow moduleを開発したとのこと。前者は音声録音,後者はシャドーイングでの活用を意識したもの。映像やテキストなどと組み合わせることで活用法は無限大に広がりそうだ。しかも音声に対する項目ごとの評価,そしてピア同士の評価も行える。その他,自宅での学習時間を報告するためのself-report moduleも開発している。共通するのはeポートフォリオとしての活用を意識していること。録音したものや学習時間などはその学期中に提出したものすべてを一覧で見ることができる。つまり学期はじめに行ったシャドーイングと学期末に行ったシャドーイングを比較するといったことができるのだ。音声の質という点で言えば,専門家にとっては物足りない部分があるかもしれないが,一般の英語教員が通常の評価に利用する程度であれば,何ら支障は無い。Moodleでここまで出来てしまうのかということに,驚愕した発表だった。Moodle Modules - - NetCourse projectから入手可能。

<番外編>Dinner
 いつもは参加しないのだけど,Moodle開発者のMartinが来るということで,本学から4名で参加してみた。あまりの人気で人数を制限せざるを得ないほどのパーティー(って言っても居酒屋貸し切り)だった。居酒屋の建物は1階とロフト状の2階から構成されており,Martin以下Moodle Association of Japanの中心メンバーが座る席以外は自由席。せっかくなので,Martinから近からず遠からずの距離を確保。しかしこんだけの人数でしかも1、2階に別れて座っているので,全体で盛り上がることも無く(笑)。だけど,座った席は非常にメンバーに恵まれていたのでとても楽しく飲めた。3時間飲み放題で4000円。コース料理は次から次へと食べきれないほどのものが出てきて大変だった。何とかMartinと少し話すこともできたので,懇親会に参加した意義はあったかな。

<2日目>
Mariko ARITA, 大澤真也,中西大輔.
Moodle/Mahara全学導入にむけた試み

 今回の参加目的の主目的は,本学でのMoodle導入の経緯を発表することであった。Maharaというキーワードに関心が集まったのか,全学というキーワードに関心が集まったのか,予想外の盛況。正式にカウントはしていないけど,4~50名には来ていただいたのではないだろうか。あくまでも実際にやってきたことを紹介するだけなので,フロアとしてはなかなか突っ込みどころがないと思うのだけど,それでもいくつかの質問をいただけたので良かった。Moodleは手軽さもあり個人レベルで導入する人も多いけれど,このように全学レベルでもがき苦しみながら導入したこと、そして継続的に有志教職員を中心にワークショップを開催していること,などがどのようにフロアの人たちに受け止められたのか,機会があれば聞いてみたい。

Don HINKELMAN, Bob GETTINGS, Justin HUNT, Thom RAWSON.
Recording and Displaying Video in Moodle.

 技術的なことはよくわからないのだけど,音声だけでなく映像もMoodle上で録音できてしまうというもの。poodLLというものらしい(ネーミングがかわいい)。もうとにかくすごい!開発者のMartinも聴きにきていて興味津々で質問を投げかけていた。基本的には音声だけでなく映像もまでもMoodle上でボタン一つで録画できてしまうというもの。帰りの便の都合があり最後までは聴けなかったんだけど,Moodleのサーバーのスペックが高ければ,そしてJAVA Runtime,Red 5Serverがあれば利用できるらしい。

【気になったキーワード】
“Moodle” official music video
Google Docsを利用したプレゼンテーション,
Kaltura
Elluminate

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 ということで2泊3日の高知出張が終わった。MoodleMootの特徴は英語母語話者の参加が非常に多いということ。発表も日・英両言語での発表が可能。実際多くの日本人が英語が専門ではなくても最低限の英語を使いこなす(というかそうでないと参加しても理解するのが困難)し,英語母語話者の人たちも多くが流暢な日本語を使いこなす。そういう意味では他の学会でありがちな「英語の発表=英語母語話者のみのオーディエンス」,「日本語の発表=日本語母語話者のみのオーディエンス」という構図は無い。実際,僕たちが行った発表にも多くの英語母語話者が参加していた。またイメージとしては日本人はどちらかと言えばいわゆる技術屋の人が多く,英語母語話者の人はどちらかと言えば英語教師を生業としている人が多い。Moodleが専門なんてことはあり得ない訳で,それぞれがアットホームな雰囲気の中でMoodleに関連する技術に関する報告や,授業での実践報告をしているのが印象的だ。ただそのアットホームさが故に発表の質が必ずしも高くないものが散見されるのも事実。ConferenceではなくMootではあるのだけど,これは今後の検討課題だろう。
 総会ではMoodle Association of Japanの今後についても様々な議論が交わされた。今回は有償で行ったはじめての学会だったが,参加費の一部をMoodle基金に寄付し、その他もほぼすべてを運営費に費やした。しかし参加者の中からは,今後も安定してMootを開催するためにはReserve Fund,Cushionを確保しておくべきだという声が多く聴かれた。確かにレポートによれば,今回のMootの参加者は国内外含めて208名だったが,これだけの人数を集めることができた理由の1つはMartinの来日だろう。来年Martinが来日しない場合にもそれだけの人数を集められるかということを考慮に入れて,運営を考えていく必要があるだろう。というか,今まで無償で開催していたMoot関係者の人たちは本当にすごい!!!

 最後に補足として,twitterで知っている人に直接会うのは何だか不思議だけど親近感がわいたよ。twitterアカウントを持っている人は,#mootjp11 で検索してみて下さい。Moot関連のつぶやきを見ることができます。