2012年2月28日火曜日

MoodleMoot 2012

2012年2月22−23日の日程でMoodleMootが三重大学で開催された。日本ムードル協会が設立されて2回目の大会。以下,いくつかの発表の覚え書き。


沼田寛・大塚裕子・椿本弥生・不破祟行.日本語ライティング指導への用語集モジュールの活用.


1年次の学生全員の必修科目「科学技術リテラシ」で理系作文技術を導入教育。2-3年前よりMoodleを活用している。受講生は250名で,全員がお互いのエッセイを閲覧可能。「テーマ選択→設問設定→アウトライン執筆→ドラフト執筆→最終稿提出」のプロセスを可視化した。各段階での教員からの評価も可視化,各プロセスにピア・レスポンス活動を導入した。

具体的には,2011東日本大震災に関する用語集を作成。各学生が解説する用語を自分で選ぶ。解説の見出しを決めたら,問いを設定して文献調査を行い,問いを検証する。調査した結果をもとに,2000字以内の解説文をまとめる。見出し語の定義文,問い(解説視点)の明示と結論の根拠事実の提示を求める。ピア活動においては,解説する用語の選択の是非,設問の適切さ,根拠提示は十分か,問いと結論の対応,出典提示方法の適切さ,などをピア相互間でチェックし合ってもらった。今後の課題として,受講生の見出し語選択の粒度の計量言語学的分析,受講生が執筆した見出し語の相互関連を学生らに見せる,学生らがリンクを発見するようなタスクの設計,ライティング・プロセスの分析(文章更新のデータを自動蓄積する機能が欲しい),受講者から同意をとってのコーパス構築などが考えられる。

質疑応答の時間にも出ていたが,ピア活動においてどのようなガイドラインを用いているかなどに興味を持った。このように「可視化」して作品を共有できるというのはMoodleの利点の1つなので,効果的に使えば面白い実践ができそう。

大西昭夫・大澤真也・中西大輔・有田真理子.小テストを簡単に作るブロックモジュール「e問つく朗」.

広島修道大学の学内向けに開発した問題作成モジュールを無償で一般公開するというもの。Moodleでは小テストを作成する時にちょっとしたコツが必要だが,このブロックを利用すれば直感的な操作で小テストを作成できるようになる。以下のサイトで公開予定です。


横浜市消防局企画課 藤田豊.続・消防本部におけるMoodle活用事例.

去年この発表を聞いた人たちの評価がすばらしかったので,聞きに行った発表。スライドの美しさ,プレゼンの美しさ,実践の美しさ,どれをとっても格別です。一番印象に残ったのは,利用者がMoodleを使っているというのを意識していないという点。eラーニングは好きな人が押し付け気味にやってしまう場合もあるけど,自然と利用者が使いたくなるような仕組みを取り入れるのは重要だ。Maharaの活用も始めるようです!

ちなみにMoodleMoo 2012の概要については以下の3つが便利です。

MoodleMoot 2012の発表資料(ログインが必要)。


その他,いくつか覚えておきたいこと。


・Feedback+(Moodle 2.2対応)を利用すればrubricを利用したライティングの評価ができる。
・バグ等の報告はMoodle Tracker経由で。
・GoogleアカウントでMoodleにログイン可能!?(β版)


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なぜMoodleMootはConferenceじゃないのか。mootの定義をODEで引いてみる。


adj. subject to debate, dispute, or uncertainty.

noun. a regular gathering of people having a common interest


つまり興味を持っている人たちが集まって,いろいろと議論をしましょうという意義があるのだと考えられる。けれども,日本ムードル協会が設立され,Moot自体がもしかするとアカデミックな方向へと舵を取りつつあるのかもしれない。そうなった時に,Mootが今と同じ位の参加人数を集められるのかということは慎重に議論しなければならない。発表内容を見てみると,プラグインなどの開発およびMoodleを利用した実践の2種類に加え,Moodleに興味を持った人を対象にしたワークショップが開講されている。つまり,Moodleに興味を持ったけど使い方がわからない人(ワークショップ),Moodleを使い始めたばかりで授業などでの使い方について知りたい人(実践),Moodleは使いこなせるようになったのでもう少し高度な使い方をしたい人(プラグインなどの開発),の3つの層をターゲットにできる訳だ。そこから考えれば自然な流れとして,Moodleを使って研究をしている人,という層をターゲットにした発表が今後出てくるのかもしれない。が,多種多様のCMSやLMSが存在する中で,Moodleに限定した研究が成功しているか(あるいは成功するか)と言われれば疑問符が付くだろう。


現在MoodleMootで弱い部分は実践を支える理論に関連する研究である。これに関してはMoodleに限定せず幅広くLMS/CMSを対象にした研究が必要になるだろう。個人的な意見としては,MoodleMootに参加する目的は,多種多様な立場から多種多様な発表が行われるからであって,アカデミックな雰囲気を求めているからではない。同じ1つのものを「好き」な人たちが集まって話し合える場というのは貴重なので,この雰囲気を残して欲しい気もする。「学会」という名前に変わった途端,いろいろと大変なので・・・。


ちなみにMoodleの一番のハードルはオープンソースで導入は無料なのに,一定の知識がないとインストールできないということです。このあたりのハードルが取り除かれれば,利用者は爆発的に増加すると思うんだけどなあ。

2012年2月24日金曜日

ウォリック大学引率ほか

ツイッターをやるようになってから,日記を書かなくなってきた今日この頃。ツイッターやらFacebookやらやりだすと,なかなか同時にすべてのことはできません。そう言えばmixiは完全に放置・・・。

それはさておき,2012年も始まりました。春休み期間は自己研修の期間でもあるので,いろいろと飛び回ります。


1月30-31日 佐賀大学・熊本大学視察
2月 5-13日 英国ウォリック大学語学研修引率
2月17-21日 アメリカeLearn学会出張
2月22-23日 三重学会出張


こうやってまとめてみると2月のスケジュールはひどいことに・・・(苦笑)。


ただこういう期間に自分の中にいろいろと蓄積しておかないと前進できないので,頑張っております。自分の備忘録もかねて,イギリスの写真とアメリカの写真をアップロードしておきます。イギリスは毎日氷点下の日々で,到着当日はヒースロー空港のフライトが半分キャンセルされるという過酷な状況でした。そんな中,学生たちは頑張っていましたよ。一点,アメリカの学会はロサンゼルスのロングビーチで開催されたので20度前後の陽気。成田空港にコートを預けておいて正解でした。両者のコントラストが面白いですね。

残す所は,3月の東京出張1回です。飛び回っているだけでは知識にならないので,少しは腰を据えて勉強しようと思います(本当かな?)。

佐賀大学・熊本大学eラーニング推進機構視察

 本学では2012年度より正式にMoodleを全学的に導入することになった。それに伴い,全国の中でも先進的な取り組みを行っている佐賀大学eラーニングスタジオ熊本大学eラーニング推進機構への視察を行った。写真も何枚か撮ったので,こちらから。
 どのような取り組みを行っているかはそれぞれのサイトを参考にしてもらった方が早いが,佐賀大学では教務課,熊本大学では総合情報センターとの関わりが密であるという点が興味深かった。そして両大学に共通するのは職員は基本的に非常勤であることである。
 今回の主な目的は施設を見せていただくということであったが,両大学とも立派な施設を持っているという印象を受けた。eラーニングにおいてはコンテンツが命であるが,このようなコンテンツの開発を行う専門的な部署があるというのは非常にうらやましい環境である。高等教育機関においてはeラーニングは教育と結びつくものなので,システムそのものではなく教育効果の高いコンテンツ開発を行う必要があるのは明らかだ。
 eラーニングを崇拝する必要はないが,上手に取り入れる必要がある。けれどもeラーニング導入における障害は,教職員にコンテンツを開発する能力と時間が無いことであり,この障害が取り除かれない限りは普及が難しいということを痛感した。
 ちなみに夜は熊本大学の教員の方数名とご一緒したが,お互いがeラーニングについて熱く語っていらっしゃったのがとても印象的であった。