2013年11月6日水曜日

SNSのススメ

 最近落ち着いてきた感はあるが、一時期SNS(特にTwitter)でのつぶやきを契機に、「炎上」が相次いだ。若者を守るためにSNSを止めろというのは簡単だが、特定のサービスの利用を禁止した所で類似したものはすぐに出てくるだろう。
 僕がインターネットの世界にはじめて出会ったのは23歳の時で、当時はまだ正体もわからず不気味な世界だった。でも小さな頃からインターネットが当然のように存在する世代にとっては、インターネットでの生活はそんなに怖くないし、身体の一部なんだろう。身体の一部を切り離すなんて無理な話だ。
 そこで、大学教員という立場から、SNSにかかわる以下の誤解を解くことで、SNSを禁止するのではなく、上手に使いこなすための方法を考えてみたい。

誤解その1:匿名でやっていればバレない
 確かに自分は匿名かもしれない。ただオンラインでのつぶやきやアップロードした写真、他人との絡みによってかなりの確率で本人を特定できる。それにTwitterは匿名でやっていたとしてもFacebookは本名でやっている人がほとんどだから、TwitterとFacebookのアカウントを結びつけられたらあっという間にバレる。

誤解その2:騒ぎになったら消せばいい
 ふとした拍子に不適切なつぶやきをしてしまったり写真をアップロードしてしまったとする。その後自分で気付いて削除、あるいは他人に指摘されて削除するとしよう。でもオンラインでやり取りをしているということは不特定多数の人が見ている可能性があるということ。一瞬であったとしてもどこかの誰かがその写真やつぶやきを保存している可能性がある。多くの場合はそんなに大きな問題にはならないが、一度注目されてしまうとその不適切なものは際限なく「拡散」していく。そして一旦「拡散」してしまえば、それをすべて削除するのは不可能だ。

誤解その3:誰も見ていないだろう
 通常であれば誰もあなたのことを気にするほど暇ではない。でも一度注目されてその情報が「拡散」し始めると止めようがない。つまらない比喩で言えば、自分がちょっとした芸能人だと思えばいい。最初はYouTubeで歌ったりしているだけかもしれないが、そのうちご当地アイドルになるかもしれない、そしてひょっとすると全国区の芸能人に!今は知名度が低いかもしれないけれど、人気が出るタイミングなんて誰にもわからない。一度人気が出てしまえば過去の発言や行動も掘り出されてしまう。芸能レポータの取材力を侮ってはいけない(我ながら意味のわかりにくい喩え)。

誤解その4:LINEだったら安全だろう
 確かにLINEはクローズドなやり取りなので、普通に考えれば安全にみえる。でもそこでのやり取りや写真をTwitterで「拡散」する友だちだっている。何より相手にスクリーンショットを撮られてしまえば、LINEであろうが全く関係なく「拡散」する(個人的なやり取りを許可なく晒すのは良くないと思うけど)。


 SNSの基本設定では、情報が自然に拡散するようになっている。SNSの使い方がわからないのであれば、鍵をかけたり公開の範囲を友人のみにするなど、まずはプライバシーの設定を見直すべきだと思う。ただオンラインでやり取りしている以上、情報が流出する可能性は常に意識しておく必要がある。正直な話、僕だってどこからがアウトなのかわからない。ただし、法律に触れる話や自分そして友だちのプライバシーにかかわる写真やつぶやきには十分注意をするべきだ。

 このようなことさえ気を付けておけば、SNSはいろんな人と出会える素晴らしいツールだと思う(とは言え、SNSを効果的に使っている人は少ないと思うので、この話はまた別の機会に)。フォロワーやフレンドじゃない人だってあなたのメッセージを読んでいるのだ。怖い気もするがそこが面白い。

2013年11月5日火曜日

メソドロジー研究部会ってどんな所?

 2013年10月26−27日に秋田で開催されたメソドロジー研究部会(通称:メソ研)に参加してきました。メソ研では、外国語教育研究手法を軸に様々なテーマで様々な分野の人が発表します。外国語教育メディア学会(LET)関西支部の部会でありながら、会員資格は関係なく全国各地で開催されるのも面白い所ですね。当日の模様は、

メソ研 in 秋田 Togetter
Ustream 

をご覧下さい。
 若手研究者を中心に大学院生も含め、様々な年代の研究者が発表し活発な議論を行います。会場の雰囲気はとても温かく、ふざけているような感じがするのですが、そこで行われる議論は恐いくらいに冷静なのも面白い所。私はメソ研で発表するというよりも勉強をさせてもらうつもりで、できるだけ参加するようにしています。
 発表者が口を揃えていうのは、「メソ研で発表するのは恐い」ということです。これはメンバーが恐いという訳ではなくて、研究手法に関する豊富な知識を持ったメンバーが会場にいるからであり、そのメンバーがこれまた穏やかな口調で質問をしてくるからでしょうね。下手な学会発表より緊張すること請け合いです。
 最近、英語教育研究においては「研究手法(所作)を整える」ことに関心が集まっていますが、まずはメソ研に参加する所からはじめてみても良いかもしれません。

悪い研究者はいねぇか?


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2013年10月11日金曜日

LET関西支部2013年度秋季研究大会

 2013年10月12日(土)に開催された外国語教育メディア学会関西支部2013年度秋季研究大会で実践報告を行いました。発表タイトルは「学習者の自律的な推敲を促す自動添削ツールの検討」ということで、ライティングの授業で用いているCriterionをはじめとしたいわゆるAES (Automated Essay Scoring)のツールとして利用できそうなものを紹介しました。関連文献は数多くありますが、以下いくつかのものを挙げておきます。

追記(2013.10.18):
石井先生の「L2 writingにおける人間の評価を何らかの変数で予測しようとした研究などの論文リスト」も参考になりますね。

関連文献: 
Attali, Y., & Burstein, J. (2006). Automated essay scoring with e-rater v. 2. The Journal of Technology, Learning, and Assessment, 4(3). [PDF]

Attali, Y., & Powers, D. (2008). A developmental writing scale (Research Report No. ETS RR-08-19). [PDF]

Burstein, J., Chodorow, M., & Leacock, C. (2004). Automated essay evaluation: The criterion online writing service. AI Magazine, 25(3), 27-36. [PDF]

Chodorow, M., & Burstein, J. (2004). Beyond essay length: Evaluating e-rater’s performance on TOEFL essays. (TOEFL Research Reports No. 73). [PDF]

Lee, Y., Gentile, C., & Kantor, R. (2008). Analytic scoring of TOEFL CBT essays: Scores from humans and e-raterⓇ (TOEFL Research Reports No. RR-81). [PDF]

Powers, D., Burstein, J., Chodorow, M., Fowles, M., & Kukich, K. (2001). Stumping E-Rater: Challenging the validity of automated essay scoring (GRE Board Professional Report No. 98-08bP). [PDF]

Quinlan, T., Higgins, D., & Wolff, S. (2009). Evaluating the construct-coverage of the e-raterⓇ scoring engine (Research Report No. ETS RR-09-01). [PDF]

Ramineni, C., Trapani, C.S., Williamson, D.M., Davey, T., & Bridgeman, B. (2012). Evaluation of the e-rater scoring engine for the TOEFL independent and integrated Prompts (Research Report No. ETS RR-12-06). [PDF]

Yang, Y., Buckendahl, C., Juszkiewicz, P., & Bhola, D. (2002). A review of strategies for validating computer-automated scoring. Applied Measurement in Education, 15(4), 391-412. [PDF]

石岡恒憲. (2004). 「記述式テストにおける自動採点システムの最新動向」. 行動計量学, 31(2), 67-86. [PDF]

田地野彰, 細越響子, 川西慧, 日髙佑郁,髙橋幸, 金丸敏幸. (2011). 「アカデミックライティング授業におけるフィードバックの研究- Criterionを導入した授業実践からの示唆-」. 京都大学高等教育研究, 17, 97-108. [PDF]

細越響子, 金丸敏幸, 髙橋幸, 田地野彰. (2012). 「英文産出に与えるフィードバックの効果検証-Criterionとピア・フィードバックに焦点をあてて-」. 言語処理学会第18回年次大会発表論文集. 1158-1161. [PDF]

また、発表で紹介したツールは以下のようなものです。

無料(機能限定の場合もあり)の英作文自動添削ツール:
The Linguisticator


当日の発表スライドの概要はこちら↓

2013年9月25日水曜日

2013年度前期授業アンケート

 前期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきたので、まとめておきます。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。ちなみに質問項目は2分類に分かれており、以下の通り。

【授業の体系性】
1.授業内容は授業計画と一致していましたか。
2.授業のねらいや学習目標は明解でしたか。                                
3.授業時間や授業回数はきちんと守られていましたか。             

【教授方法・講義内容】
1.教員の話し方や声の大きさは適切でしたか。    
2.教員は学生の質問などに適切に対応していましたか。    
3.学生の反応や理解度をみながら授業が進められていましたか。
4.学習に対する興味・関心を刺激する授業でしたか。                
5.授業の内容は理解できましたか。                                        
6.授業を通して新しい知識や理論、考え方が分かるようになりましたか。
7.教員は私語など受講マナー上の問題に対して適切に対処していましたか。
8.教材(テキスト、プリント、レジュメ、スライド、ビデオ等)は、授業内容を理解する上で役立ちましたか。
9.黒板・ホワイトボード・プロジェクタ等の使用は適切でしたか。
10.課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。

「英語研究III」履修者数66名(回答者数48名)
【授業の体系性】 設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.7)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.8(科目別平均4.6,受講者数平均4.5)

 テーマは「英語コミュニケーション論」で、コミュニケーションに関連する分野を広く浅く学ぶ授業です。講義はスライドを使って行い、講義資料(スライドや動画)や授業外での議論はMoodleを使って行います。【授業の体系性】【教授方法・講義内容】とも高評価をしていただきましたが、「授業の内容は理解できましたか。」は4.6(科目別平均4.5、受講者数別平均4.3)、「授業を通して新しい知識や内容は理解できましたか。」は4.6(科目別平均4.5、受講者数別平均4.4)は改善の余地ありだと思います。

【自由記述欄】
・広く浅く内容を取り扱っていたので、他の授業とつながる部分もいくつかあって理解が深まったこと。
・授業内で使用していたパワーポイントがあとからMoodleで見返すことができる点。聞き逃したところ、書き逃したところが分かるから。
・難しい理論や考え方を実際に生徒側の活動を通して分かり易すく解釈できる授業でした。
・先生が一方的に話すのではなく、話し合いの時間が設けられたり、ゲームをする機会があって、新しい知識が頭に入りやすかったです。
・考える時間を適度にとってくれたので、理解や定着につながりました。授業内のルールを設けてくれたので、積極的に授業に参加することができました。
・ノートに写す時間をもう少し長くしてほしい。

【総括】
 基本的にスライドはMoodle上で公開しているので、メモを取る程度で良いという話はしているのですが、それでもノートを取る時間が欲しいというコメントがありました。来年度は改善したいと思います。このような講義科目では、できるだけ関心を持ってもらうように話をしようとしているのですが、授業開始時から参加してくれない学生がいたので、その辺りの対応には少し苦労しました。

「英語科教育法II」履修者数21名(回答者数20名)
【授業の体系性】 設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7)

 英語教育法I〜IIIの流れの中で、IIでは主に(1)タスクの作成、(2)4技能の評価、について説明した後、各グループごとにタスクを用いたミニ模擬授業を行ってもらいます。その授業をもとに受講者間で意見交換し、後日Moodle上でミニ授業に対するコメントを書き込んでもらいます。前年度の反省を踏まえ、今年は欲張りすぎずタスクの作成に焦点を当てた指導を行いました。

【自由記述欄】 
・模擬授業のような形で、自分たちで授業案等を考えてやったのは、授業に集中する上でとても良かったし、グループワークとしてもすごく良かったです。また、自分たち以外のグループの発表を聞くのは、色々な発見があり、知識が深まりました。前に立って生徒たちに教えていくことの難しさをはじめて知り、自分が思っている以上に大変なことだということが分かりました。
・模擬授業で意見をいってもらえること。
・模擬授業の経験が大変勉強になりました。1つの授業のために、かなりの時間を費やして準備すべきだと思ったし、予想される生徒の反応についてもきちんと対応できるようにしたいと思いました。
・やはり自分たちで授業を作って実際に行うことで、自分たちの授業の改善すべき点を見つけることができたり、また他のグループのレベルの高い授業を見ることで、その良い所を自分たちの授業に取り入れることもできるので、授業の作り方を学ぶ上でこの授業は欠かせないものだと感じました。
・テキストが中・高対象にしては難しく、タスクが作りづらい。タスク作りのみ実際の教科書を使ってやりたい。学生間に授業に対する温度差を感じた。何とかできればしてほしい。

【総括】 
 テキストの難しさについては検討したいと思います。この授業の目的は、難しいテキストの教材研究を真剣に行うことで、自身の英語力向上につなげてほしいという所にあります。他の授業と比べて厳しめのことをたくさん言いますが、本気で教員になりたいと思う人たちへのエールだと考えてもらえると嬉しいです。

「初等英語教育論」履修者数39名(回答者数39名)
【授業の体系性】 設問平均4.9(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】 設問平均4.7(科目別平均4.6,受講者数平均4.6)

 2013年度より新たに担当し始めた授業で、小学校教員を目指す学生を対象としています。言語習得理論の概要を説明し、それを実際の指導案に落とし込み模擬授業をしてもらうという授業方式を採用しました。

【自由記述欄】 ・にぎやかでよい雰囲気だったところ。
・英語をどう教えればいいか学べた。
・模擬授業で英語を使う機会があったこと。
・映像や、音声など諸感覚を刺激するような内容で興味を持って取り組めました。
・課題の発表の際、個人で固定せず数人で自由に組ませたり、発表している人に対してコメントを書くようにしていた点。座学の中で、一方的に話をするのではなく皆の様子を見ながら授業を進め、VTR等も活用していたこと。
・パワーポイントの字の大きさをもう少し大きくしてほしいです。
・説明が少ない。パワーポイントがはやい。
・模擬授業はDVDを見せて欲しい。
・もう少し英会話や英語の筆記問題を取り入れてほしい。

【総括】 スライド上に多くの文字を詰め込みすぎたので、みんなノートを取るのが辛そうだなというのは感じていました。来年度以降の課題にしたいと思います。また理論的な側面が多かったため、難しいと感じた人が多かったようです。1つの授業で言語習得理論の説明と英語力の向上を目指すのはなかなか難しいですが、改善策を検討します。 


2013年9月4日水曜日

全国英語教育学会 第39回北海道研究大会

 2013年8月10・11日、北海道の北星学園大学で開催された全国英語教育学会(JASELE)の研究大会に参加しました。今回は(も?)残念ながら発表することはできなかったけど、様々なことを学びました。

 開会式のときに、理論と実践の融合や現場の教員が理解できることばで研究成果を語ることの重要性が指摘されていましたし、JASELEの今後の方針もあるのでしょうが、「理論と実践」のつながりについていろいろ意見や感想を持った人が多かったようです。ざっと見たところ、以下のようなブログで感想が綴られています(他に何かご存知のものがあればお知らせください)。

tyoshida's office
タカの英語教師日記〜Stage2〜
英語教育2.0〜my home, anfieldroad〜
○○な英語教員に、俺はなる!!!!
英語科教員奮闘記
白井恭弘ブログ


 以下、ごく簡単に備忘録(本当に備忘録なので許してください)。

【1日目】
今尾 康裕(大阪大学)
「英語学習者エッセイコーパスの書き言葉としての位置づけを探る試み」

【概要】
 ICLENICEICNALEなどの学習者コーパスを紹介し、それらの多くは学習者エッセイコーパスなので、まずはエッセイコーバスの特徴をつかむ必要があることを指摘。大局的な視点から書き言葉コーパスの中における相対的な位置づけを見てみようという試み。分析手法として、タグ付けしたコーパスの語彙文法項目などを利用した多変量解析を採用、今回はコレスポンデンス分析(頻度表をもとに行と列の変数の対応を視覚化する)の結果を提示された。Logical connectorsの分析で、主な結果の概要は、formalityで使う連結詞が異なる、エッセイライティングというタスクで差があるわけではない、学習者を特徴付ける差がある、習得レベルによって使用頻度に差がある、国籍によっても頻度に差がある、であった。

【感想】
 今Mac界で知らない人はもぐりと言われる研究者、今尾先生の発表でした。Mac用のコンコーダンサーCasualConcやRを簡単に使えてしまうMacRなどの開発者でもあります。プレゼンテーションの美しさもさすがでした。
 
【2日目】
浦野 研(北海学園大学)・水本 篤(関西大学)
「英語教育実践と研究の接点 - 研究の在り方と手法 -」

【概要】
当日のUstream中継
投影資料(水本先生)
togetterによるまとめ

 研究方法についての大まかな理解、ARELEの掲載論文の分析、そして今後どんな研究が求められるかを考えていくためのワークショップ。あまりにも盛りだくさんだったので、以下ワークショップ中に書き留めたことばを羅列しておきます。

p値を見るとか有意差を見るとかはnの大きさに依存するのでかなりあやしい。」
「効果量について。APA 6th editionによれば必須!」
「効果量を偏差値にたとえる。0.8だと偏差値が8違うようなイメージ。」
「サンプリングの影響もあり、p値は再現性がないが、しばらく使われ続けるだろう。」
「CIと効果量をみればいい。」
「有意水準・検定力・効果量・サンプルサイズのうちの3つがわかれば残り一つが決まる。」
p値ではなく信頼区間がベター。実質的な差を見るのは効果量。検定にこだわるなら検定力を確認。1回の研究で言えることはかなり少ない。」
「そもそも検定が必要なのか。有意差を出すためにやっちゃってるのでは?」
「提案:p値が大事なら検定力分析を、効果量、信頼区間の蓄積、測定を軽んじない、追試を重視、再現に必要な情報を必ず書く。」
「探索型の研究ばかりやっちゃダメ」

【感想】
 あまりのすごさに「すごすぎてpちゃん」というフレーズが頭の中をグルグル回りました。ワークショップとは言え、参加者が参加できる時間はほぼ皆無だったのだけど、聞いている側の頭をフル回転させてくれる素晴らしいワークショップでした。表面上はARELE掲載論文の分析という形態でしたが、「きちんと作法に則って研究しましょうね。」というシンプルなメッセージが伝わってきました。
 ちゃんとした研究を行うためには、究極まで突き詰めることももちろん重要ですが、統計的な知識を全く持たない人が知っておくべきミニマムがわかればとても嬉しいのですが...(私も苦手な方なので統計を勉強すればするほどどこまで行けばよいのかがわからなくなります)。

白井 恭弘(ピッツバーグ大学)
「日本の英語教育の将来ー小中高における英語教育実践と研究の接点を探るー」

【感想】
 シンプルかつ明解な講演でした。白井先生の著書を見ればわかると思いますので内容はあえてまとめませんが、やはり英語教育に携わる者として1度は白井先生の主張を自分の中で咀嚼してみる必要があるかと思います。

【全体を通しての雑感】
 JASELEの研究大会に参加して思うのは、実践と研究をいかに連携させるかということです。今回も参加者の多くがそのことについて考えていたようですね。私は鳴門教育大学大学院の修士課程で勉強をしましたが、当時は現職教員の派遣制度があり(規定上は大学院生の2/3以上が現職教員だった)、全国各地から派遣された英語教員と一緒に2年間の研究生活を送りました。そこでよく聞いたことばは「研究なんて実践には何の役にも立たないよ」というものでした。私の中で印象に残っている高校の先生は常にこのようなことばを口にされていましたが、2年間の派遣期間中にARELEに投稿し見事に論文が掲載され、2年間の研修期間を終えた後、颯爽と高校に戻って行きました。
 このことから感じるのはやはり「優れた実践者=優れた研究者」であるべきだということです。残念ながら優れた研究者の中には実践を蔑ろにしている(というか実践できない)人もいます。また小・中・高等学校の教員の中には、最初から実践者の視点だけで実践を捉えて「研究なんて...」という人もいることでしょう。ですが研究者の端くれとして言わせていただけるのであれば、「研究と実践の効果的な循環」がなければ英語教育の未来はないと考えています。そのためにも「大学の研究者>小・中・高等学校の教員」という訳のわからない妄想は忘れ、お互いが健全に議論し合うべきだと思います。

 余談ですが、私は教育現場ということばがあまり好きではありません。そのことばを使った途端に小・中・高等学校での英語教育と大学での英語教育が分断されてしまう気がするからです。大学で英語教育に携わる身としては、必死に英語教育をしているつもりですし、研究と教育をなんとか結びつけようともがいています。現場ということばを使うのであれば、大学での英語教育も入れて欲しいと思うし、そのことばを聞く度に何だか切ない気持ちになります。

【その他気になった情報】
検定力分析を行うためのソフトG*Power 3
Exploratory Software for Confidence Intervals
大名力先生のDictation作成サイト

2013年8月14日水曜日

外国語教育メディア学会(LET)第53回全国研究大会

 2013年8月7−9日の日程で東京の文京学院大学で開催された外国語教育メディア学会の全国研究大会に参加した。最寄りの駅は「東大前」ということで、あの東京大学と道を挟んだ向かいにある大学。ちょうど学会が開催されている期間中に東京大学ではオープンキャンパスが開催中でした。

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それはさておき、聞いた発表の中からいくつか簡単な備忘録。

【1日目】8月7日
前田 啓朗(広島大学)
「外国語テストの作成・データ整理に生かすExcel活用法」
 Excelに詳しい前田先生らしい、Excelを活用するためのワークショップでした。前半はExcelを利用したテスト作成について、後半はExcelを利用したデータの整理についての内容。

 前半は参照の方法(絶対参照と相対参照)やテスト作成に活用できる関数の説明。

文字列操作:&, CONCATENATE、LOWER, UPPER, RIGHT, LEFT, MID, LEN
項目選定:RAND, RANK, VLOOKUP

などについて。基本的な関数をこのようにテスト作成に活用できるということを提示されました。後半はデータの整理ということで、EXCELのデータ分析ツールを利用した統計処理の方法やグラフの描き方について提示されました。後半は少し時間が足りなかったので、もう少しゆっくり話を聞きたいと思いましたが、手元にあるExcelというツールでどれだけのことができるかということを見せつけてくれるワークショップでした。その他の情報としては以下のようなものもありました。

・平均の差の検定をオンラインで分析:ANOVA4 on the Web
・比率の差をオンラインで分析:Exact Test

浦野 研(北海学園大学)
「有意性と効果量についてしっかり考えてみよう」
 配布資料や関連情報はすべて浦野先生のサイトから入手できます(ということで詳細は省略)。効果量ということばはよく聞くもののよくわかっていなかったので、とても有り難いワークショップでした。浦野先生のワークショップは聴衆をきちんと意識されているので、話がきちんと頭に入ってきます。
 ワークショップ中に浦野先生が引用された「…統計的推定には、"データ数という、研究者が任意に決められる要因によって結果が左右されてしまう"という根本的な問題があります(吉田, 1998, p. 232)。」ということばは忘れてはいけませんね。効果量の計算は水本先生のExcelシートを使えばあっという間にできます。

参考:
効果量(Cohen, 1969)
小:d=0.2、重なり85.7%
中:d=0.5、重なり67.0%
大:d=0.8、重なり52.6%


【2日目】8月8日
 2日目はいくつかの発表を聴きましたが、メインはコースウェア・ショーケースとして発表した「Can-do調査結果を基に開発したアニメ教材"Culture Swap"の共有に向けて」でした。実際に作成したアニメ教材を提示しながら訪れてくれた方々と話をしました。この教材作成のねらいは、「ミニマムな所だけ面白いものを作り込み、残りの部分については各自教員が作成していく」という所なのですが、やはり反応としては「関連した教材はないのか?」というものが複数ありました。詳細はこちらのページから。
 2日目は最後に基調講演として岸本好弘(東京工科大学)先生による「ゲーミフィケーションを活用した大学教育の可能性」を聞きました。この方は知る人ぞ知るファミスタの開発者です!内容については割愛しますが、ゲームのように中毒性を持って英語学習ができたら良いのにと思いました。ちなみにこの講演の最中にあの地震警報(誤報)が会場内に響き渡りました。Twitterを見ると、「奈良で震度7」ということばが溢れ、あの大震災のことが頭をよぎり絶望的な気分になりましたが、誤報ということで良かったです。
 なお同じ発表時間帯ということで聞けませんでしたが、神谷 健一先生(大阪工業大学)による「FileMaker Go 12を用いた編集・配布が容易なiOS用文字・単語・例文学習用無料アプリ」もおすすめですね。

【3日目】8月9日
 いくつかの発表を聴きました。備忘録がてらリンクを残しておきます。
「草薙邦広のページ」:注目の研究者の一人です。発表資料ほか盛りだくさん。
REX:多読用のシステム
short stories at east of the web :無料で入手できる小説がたくさん
英文チェッカーGinger:その名の通り

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最近はSlideShareやブログなどを利用して、発表資料を公開してくれる研究者が増えてきました。ということはこのようなブログを書く意義も薄れつつあるのかなとも思うのですが、あくまでも備忘録なのでお許しください。

2013年7月18日木曜日

第43回中部地区英語教育学会(CELES)

  6月29-39日の日程で富山大学で開催された2013年第43回中部地区英語教育学会に参加しました。参加の動機は第42回に参加していた方々がとても楽しそうだったこと(笑)、そして北海学園大学の浦野研先生がコーディネータを務める英語教育研究法セミナーおよび課題別研究プロジェクトの「英語教育研究法の過去・現在・未来」にに参加することでした。勝手な思い込みで富山は涼しいだろうと期待して行ったら、かなり暑くてバテました。当日の学会の様子はツイッター上でのつぶやきを中心に見ていただけるとフォローできるかと思います。
 研究法セミナーおよび課題別研究プロジェクトは改めて研究に対する姿勢を考えさせてくれる契機になりました。気になったことばをいくつか書き留めておきます。


  • 「研究はひとりよがりではいけない。フィールド全体の発展に貢献する研究を行う」
  • 「多くのResearch Questionを取り入れた研究は複雑で解釈の難しい結果を生み出す」
  • 「良い研究は良い意味でconservativeであること。論理の飛躍をさせない。研究結果以上のことを述べない。」
  • 「やった研究は人目に触れないと意味がない。口頭発表も大事だがやはり論文執筆そして掲載が重要」


 いわゆる英語教育研究の作法をきちんとしましょうという主張だと思いますが、研究の厳密さを追求しすぎると、いろいろと間違いを恐れて研究に手を出せなくなる人がいるかもしれないということは少し気になりました。英語教育研究においては、教員(特に中・高等学校教員)が手軽に間違っていない手法を用いて実践を共有できるような研究が行えると良いですね。将来的には研究のチェックリストのようなものを作成するとのことなので期待したいと思います。あとこれも浦野先生によれば今後話題として扱ってくれるらしいのですが、 研究における倫理上の問題についてはきちんと考えるべきだと思います。
 その他、今話題の江利川春雄先生(和歌山大学)がパネリストの1人して登壇したシンポジウム「生徒の目が輝くとき」にも参加しました。
 その他のパネリストとして中・高等学校の教員も登壇し、それぞれの活動実践例などの紹介をされました。中・高等学校の先生の活動例を聞くのはとても楽しいものです。が、それらの活動をどのように評価しているのかについてもう少し詳しく話を聞きたいと思いました。
 実はこのシンポジウムのタイトルにある「生徒の目が輝く」ということばに、少し違和感を覚えました。確かに中学生や高校生を見ていると目が輝いているなと感じるときはありますし、私自身も大学生と接していて目が輝いていると感じるときもあります。ただし、英語教育という視点から考えたときに「生徒の目が輝く=英語を学習(習得)している」ではないと思うのです。これは江利川先生の主張する「教師の力量=英語力+指導力+人間性」ということばにも感じた違和感なのですが、「生徒の目の輝き」や「人間性」などで判断しない英語教育力というものを考える必要があるのではないかと思います。極論で言えば目が死んでいても教師の人間性が低くても、確実に生徒の英語力は向上しているといったことがあっても良いのではないでしょうか。

 私は現在英語教員養成にかかわる科目を多く担当している立場ではないのですが,それでも「英語科教育法」という科目を1つ担当しています。最近意識して受講生に言うのは,

・自分が受けてきた英語教育の猿真似はするな。きちんと考えること。
・理論は現実には不向きかもしれない。でも困った時には必ず助けてくれる。
・楽しいだけの活動はだれでも作れる。でも活動をどう評価するかを考える。

ということです。教育経験の無い大学生の今だからこそきちんと考えてもらいたいという思いがあります。たまたま今学生を相手に行っている英語勉強会で読んでいる本に次のようなことばがありました。ありきたりなことばではありますが、大切ですね。


Lightbown &Spada (2013) "Take a moment to reflect on your views about how languages are learned and what you think this means about how they should be taught (p.2)"



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 ということでCELES参加が終わりました。恥ずかしながら全国大会には顔を出すものの、このように地方大会に参加するのはかなり久しぶりでした。そこで感じたのはフロアの温かさです。どんな発表に対しても聴衆が真摯に質問します。JASELEなんかも昔はそうだったのですが、最近そのような雰囲気が薄れてきているので寂しいですね。近いうちに必ず自分も発表したいと思わせてくれる学会でした。ゼミ生曰く「先生の学会参加中のつぶやきは修学旅行みたいでしたね」(笑)。うまい喩えだと思いますが、本当に楽しい学会参加でした。

 ちなみに話が逸れるので書きませんでしたが, 阪上辰也先生による「縦断的学習者コーパス分析による共起表現の経時変化」の発表は好みでした。こういう研究をしたいんですよね...。頑張らねば。

その他、備忘録。


『英語教育、迫り来る破綻』
「英語教師の研修ノート」
Edinburgh Project on Extensive Reading (EPER)
Nagoya Interlanguage Corpus of English (NICE)


関係ない富山の想い出たちはこちら

2013年4月5日金曜日

2013年度のはじまり

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 15週授業になってから大学は慌ただしくなっており,3月29日に英語のプレースメントテスト,4月1日に入学式,そこから新入生は数々のガイダンスを経て今日4月5日からいよいよ授業がスタートします。

 大学教員にとって入学式,卒業式の時期は教師冥利に尽きる時期です。いろいろな思いを抱えながら不安と期待の入り交じった表情をしている新入生。大学デビューで髪を染めてオシャレをしていてもどこかあどけなく,かつ凛としています。この時期の気持ちそして目の輝きをすぐに失ってしまう人も多いのだけど,この4年間ほど自分の好きな学問を究められる時期はありません。サークルやバイト,課外の活動にも励みつつ,常に「学業に励む」ことを中心にした生活を送ってもらえればと思います。

 年度始めは大学の教職員も新入生の気持ちを盛り上げようと必死なので,何かとうるさいことを言いたがりますが(笑),かなり的を射たこと言っている場合もあります。僕も言いたいことはたくさんありますが,一言だけ。

We are always here to help you.

大学生活をどのようなものにするかはみなさん次第です。入学おめでとうございます!

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2013年3月25日月曜日

LCSAW 2013


 2013年3月23-24日に神戸大学百年記念館においてLearner Corpus Studies in Asia and the World (LCSAW)と題して国際シンポジウムが開催されました。これは神戸大学の石川慎一郎先生が中心になって作成したThe International Corpus Network of Asian Learners of English (ICNALE)の完成を記念して(?)開催されたもので、学習者コーパスの研究において著名な研究者を世界各地から招いて行われていました。参加者は配布された名簿によれば90名以上(そんなにいるようには見えなかったのだけど)とのことで、多くの参加者は日本人でしたが日本在住で英語を母語とする人も多く参加しており、各発表において英語で活発な議論が行われました。ICNALEの詳細についてはサイトを参照してもらった方が早いと思いますが、コーパスの特徴としては、

(1)アジアの学習者に焦点
(2)ライティングにおける変数をできるだけ統制
(3)学習者を熟達度によって分類
(4)英語母語話者のサンプルも収集

という4点に集約されます。

今回は自分の勉強のために参加したので、勘違いや的外れなまとめが多いかもしれませんが(いつもだけど)、以下いくつかの発表の備忘録。

Granger, S. 
Contrastive Interlanguage Analysis: A Reappraisal

最初の講演。対照中間言語分析の全体像について、そして中間言語に影響を与える変数として母語の話をされた後、その他の変数(習熟度や地域など)も考慮に入れることが重要であると主張されました。International Corpus of Learner Language (ICLE)ではこれらの変数ごとにソートができるそうです(ICLEについては以下の論文も参考になりますね)。

Granger, S. (2003). The international corpus of learner English: A new resource for foreign language learning and teaching and second language acquisition research. TESOL Quarterly, 37(3), 538-546.

また対照中間言語分析、コーパス分析において「英語母語話者を規範としている」という批判に対しては、SLAをはじめとした他の研究でも同様の状況だと批判を一蹴されました。またコーパスのデータに基づくだけではなく実験的手法に基づいたelicitationデータを利用してコーパスデータを補完することの重要性も指摘されました。

Ishikawa, S. 
The ICNALE and Sophisticated Contrastive Interlanguage Analysis of Asian Learners of English. 

石川先生と言えばお馴染みのスライドの上にタイマーを表示させながら、壇上を所狭しと動き回るスタイルでの講演。ICLEやJEFLLコーパスを紹介した後、ICNALEの特長について解説されました。

対照中間言語分析は主に(1)過剰・過少使用、(2)L1の転移、(3)学習者のコミュニケーションにおける回避、(3)(非)英語母語話者の言語使用、(4)非英語母語話者が苦手な側面を扱うものであるとまとめられました。またそれに対する批判のまとめとしてはGranger (2009)があり、それらは主に英語母語話者を規範とすることに対してのものであるそうです。今後より洗練されたものにしていくためにはExternal Conditions、External Validity、Internal Validityの3つが必要になると話を締めくくられました。

また『ウィズダム和英辞典(第2版)』を紹介されましたが、この辞書にはICNALEのデータが活用されているようです(訂正:指摘をいただきました。英和ではなく和英でした(2013.3.25))。

Kirkpatrick, A
The Asian Corpus of English: Motivation and Aims

ASEANの国および中国、日本、韓国のデータを収集したAsian Corpus of English (ACE)の紹介。詳細はThe ACE manual(PDF)および彼の著作を参照のこと(今回の講演と似たような内容としてこんなスライドもオンラインにありました)。

現在はEnglish as a Lingua Franca (ELF)の時代であるとして、このようなコーパスの意義を強調されました。またACEはヨーロッパにおける同等のコーパスVienna Oxford International Corpus of English (VOICE)との比較を主眼に置いているそうです。

両者の比較を行った結果の予備的な考察として以下のようなものを提示されました。

VOIEとACEの比較
・3人称単数の付け忘れ
・動詞の拡張的使用
・同じ付加疑問詞の使用
・指示詞のthisと名詞の複数形の組み合わせ
・通常とは異なる前置詞の使用

VOICEにあってACEにないもの
・who/whichの相互使用
・(不)定冠詞の柔軟な使用
・不可算名詞を複数形として使用

ACEにみられるもの
・過去時制における原形の使用
・冠詞の省略
・複数のsの欠如
・連結詞beの省略

Granger, S. 
The Passive in Learner English: Corpus Insights and Implications for Pedagogical Grammar

1日目の概説的な内容とは打って変わって、受動態に特化した講演でした。

コーパスを利用した受動態についての研究にはStartvik (1996)やGranger (1983)、Biber et al. (1999)などがある。それらの研究の結果明らかになったのは80-90%の文においては行為主が省略されているということ、またgetを利用した受動態は少ないということである。

これら先行研究の結果を踏まえた上で、ICLEとICNALEとの比較を行った。受動態は自動的にPOSタグ付けしたデータから、<Vbe>、<VVN>のタグで検索して取り出した。この方法の限界はHe was recently arrested.のようにbe動詞と過去分詞の間に何かが入っている場合は取り出せないことである(これは解決は難しいにしても何とかしたい問題ですね)。

熟達度が上がると受動態の頻度が高くなるという仮説を立てたが、これは立証されなかった。1つの理由として考えられるのはトピックによる影響とのこと。実際ICNALEの2つのトピックで比較をしてみると”It is important for college students to have a part-time job.”よりも”Smoking should be completely banned at all the restaurants in the country.”のトピックの方が受動態が多用されているという結果であった。また後者のトピックにおいては、

A2   : 20%
B1.1: 28%
B1.2: 37%
B2   : 47%

という割合でbe bannedが利用されており、エッセイの刺激文にも影響されていることがわかる。

次にThe disadvantage can be see in the poor economy status. 

のように過去分詞にできていない間違いについては<Vbe><VV0>で検索をした結果、400件の誤用が見つかった。

またELTの文法テキストを分析した結果、これらコーパスデータの分析結果から明らかになったことはほとんどテキストに反映されておらず、語彙とのかかわりについては絶望的な状況であると指摘した。例外としてはCerce-Murica & Larsen-Freeman (1999)の本(?おそらくリンク先の本だと思うのですが)、Cowan (1998)のThe Teacher’s Grammar of Englishを挙げられました。

最後にコーパスに基づいた研究の結果をテキストの受動態のセクションに活かすためには、

・頻度情報
・lexico-grammarパターンのリスト
・使用域
・学習者が困難と感じる受動態のパターン
・言語グループ特有の困難点

などの情報を追加するべきだと主張されました。

その他、印象に残った言葉としては、

Learner corpus data can contribute to a better understanding of the acquisition of [文法項目など] and better descriptions in ELT tools. 

...”marketability rather than pedagogical effectiveness” is the publishers’ main concern and that many editors are “far more comfortable with rehashes of what has gone before than with something different (and refreshing)” (Harwood, 2005)

などがあります。

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ということでコーパスに興味を持ち書籍を読んだりはしていたものの、このようなシンポジウムに参加する機会がなかなか無かったので、とても参考になりました。面白かったのは日本の研究者たちはコレスポンデンス分析等の統計的手法を駆使して分析した結果を発表をしていたのに対し、海外の人たちはコーパスに見られる実例を提示することが中心で、数値と言えば頻度や%、またグラフの提示に留めているということでした。どちらが良いとは言えませんが、英語母語話者は「直感とは異なるデータ(実例)の面白さ」、非英語母語話者は「(直感が無いためか)統計的手続きに則ったデータの確からしさ」に興味があるのかもしれません。

現在世界各地で様々な学習者コーパスが構築されています。今まではコーパスを構築して言語を記述するだけで良かったのかもしれませんが、「学習者」ということばが付いている以上、教育の視点を排除することはできない訳で、現在はコーパスデータを教育に活用するというステージに入っているのでしょう。その視点から言えば、語レベルの分析に留まってしまうとやはり物足りない側面もあるので、今回のシンポジウムでもword clusterやdiscourse markerなど語よりも少し大きな単位で分析をしている発表がいくつかありました。けれども語レベルを超えてしまうとタグ付けの作業等が膨大なものになってしまうので、そこを石川先生が最後にCollaborationということばで締めくくられたように、学習者コーパスの研究だけではなく各分野の研究者たちが協力していくことが大切になってくるのかもしれませんね。

またシンポジウムの中では時折SLAを意識した発言がありましたが、このあたりはどうなのでしょうか。学習者コーパス研究は大きな枠組みでいうとどこの研究に属するのか(SLA?文学?教育?言語学?)ということも少し気になりました(このあたりは詳しくないので私見です)。


百年記念館前の桜
百年記念館からの景色

2013年3月22日金曜日

卒業式

 2013年3月19日に卒業式が行われました。学長をはじめ様々な方からの祝辞がありましたが,印象に残ったのは本学の卒業生で現在オタフクソースの社長である佐々木氏の「ぞうきん洗い」の話でした。それは彼が大学時代にやっていたガソリンスタンドでのアルバイトの話でしたが,簡単に見えるぞうきん洗いそして窓ふきがいかに難しいかということ,そしてその単純なことを頑張っていれば必ず誰かが認めてくれること,についてお話しされました。この話を聞きながら,ふと以前読んだブログの記事を思い出しました。

  いざ就職して仕事を始めると辛いことの方が多いことでしょう。でも単純なことでも真剣に頑張っていれば認めてくれる人がいるはず。私自身も今自分が置かれている状況について改めて考えさせられるお話でした。自分も含め年を重ねていくと話したいことが多くて長話になりがちですが(苦笑),辛抱して聞いていると良い話に出会えることもありますね。

  卒業生のみなさまのご活躍を心より応援しています!そして大学教員にとっては長かった年度の終わりです。そろそろ気持ちを切り替えなきゃ。

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2013年3月4日月曜日

2012年度後期授業アンケート

後期末に行った授業アンケートの集計結果が返ってきたので,まとめておく。設問は各5点満点(A=5,B=4,C=3,D=1の加重平均)。 ちなみに質問項目は2分類に分かれており,以下の通り。

【授業の体系性】
1.授業内容は授業計画と一致していましたか。
2.授業のねらいや学習目標は明解でしたか。                                 
3.授業時間や授業回数はきちんと守られていましたか。               

【教授方法・講義内容】
1.教員の話し方や声の大きさは適切でしたか。      
2.教員は学生の質問などに適切に対応していましたか。      
3.学生の反応や理解度をみながら授業が進められていましたか。 
4.学習に対する興味・関心を刺激する授業でしたか。                 
5.授業の内容は理解できましたか。                                         
6.授業を通して新しい知識や理論、考え方が分かるようになりましたか。 
7.教員は私語など受講マナー上の問題に対して適切に対処していましたか。
8.教材(テキスト、プリント、レジュメ、スライド、ビデオ等)は、授業内容を理解する上で役立ちましたか。 
9.黒板・ホワイトボード・プロジェクタ等の使用は適切でしたか。
10.課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。

「ゼミナール II」履修者数15名(回答者数10名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7) 

【授業の体系性】【教授方法・講義内容】とも高評価をしていただきました。ただ少人数の演習形式の授業は評価が高くなる傾向になるので,低いものに関しては改善していく必要があります。改善すべき項目としては「授業内容は理解できましたか。」(4.4(科目別平均4.5, 受講者数別平均4.5))です。今年度は難しめのテキストを採用したということもありますが,もう少し理解を深めるような対策を考えたいと思います。また「授業を通して新しい知識や理論、考え方がわかるようになりましたか。」(4.7(科目別平均4.6, 受講者数別平均4.6))も専門知識の教授を主目的とするゼミナールクラスとしては厳しい評価だと思います。嬉しかったこととしては,難しいテキストだったということもあるのかもしれませんが,ほぼ全員の学生が1時間以上(そのうち2時間以上も40%)授業の前後に学習してくれていたようだということです。

【自由記述欄】
・皆に発表が回ってくること(良かった所としてのコメント)。
・難しかったけど、めげずに頑張ってもっと予習しとけば、もっと授業が楽しくなったんだろうなと思いました。
・面白かったけど、その分内容が難しかった。 

このように「難しかった」というコメントが目立ちました。

「Reading & Writing II」履修者数32名(回答者数27名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.7) 

授業内でMoodleを利用した活動をメインに行っている授業。前期に引き続き同じクラスの担当でした。前期の平均はそれぞれ4.9、4.9だったので,少し評価が良くなったのは嬉しい。前期に引き続き、【学習態度の自己評価】にある「この授業科目について、授業の前後に合計してどれくらい勉強しましたか?」という項目を確認してみる。

2012年度前期
3時間以上: 19.2%(科目別構成比11.5, 受講者数別構成比14.2)
2~3時間以内: 11.5%(科目別構成比7.5, 受講者数別構成比9.1)
1~2時間以内: 7.7%(科目別構成比12.2 受講者数別構成比19.0)
30~1時間以内: 26.9%(科目別構成比17.5, 受講者数別構成比22.1)
30分以内: 30.8%(科目別構成比24.4, 受講者数別構成比21.3)
全く勉強していない: 3.8%(科目別構成比26.7, 受講者数別構成比14.1)

2012年度後期
3時間以上: 11.1%(科目別構成比10.8, 受講者数別構成比14.2) 
2~3時間以内: 0.0%(科目別構成比8.8, 受講者数別構成比9.8) 
1~2時間以内: 18.5%(科目別構成比12.8 受講者数別構成比17.3) 
30~1時間以内: 25.9%(科目別構成比16.6, 受講者数別構成比24.0) 
30分以内: 33.3%(科目別構成比23.8, 受講者数別構成比22.1)
全く勉強していない: 11.1%(科目別構成比27.0, 受講者数別構成比12.3) 

後期になってここまで学習時間が減少するというのは問題だとおもうので、2013年度は何らかの対策を考えます。前期はとても雰囲気が良かったので安心していたのですが、後期は一時期クラスの雰囲気が悪くなったことがありました。このあたりのことも影響しているのかもしれません。反省します。

  【自由記述欄】 
・分かりやすいし、楽しいし、90分間があっというまに過ぎる授業でした。ミニッツペーパーを書いて、返事がすごくたのしみでした。
・1つ1つ問題を解く度に、ちゃんとみんなわかっているか呼びかけながら授業展開していたところが良かったです。また教室を見回ってすぐに呼び止めたら、わかりやすく説明してくださったのも良かったです。
・予習で解いてきた問題がミニテストに出るのはいいのですが、せっかくやってきても間違えていたら、それをそのままテストに答えるので、同じことを書くなら、意味がないんじゃないかと思いました。=こちらの狙いは「自分で正解を導きだすまで丁寧に解きなさい」ということだったのですが、伝わっていなかったようです。ですが、この指摘は理解できるので、対応したいと思います。
・エッセイの直し方がいまいちわからない。どこがまちがっているのかは、わかるがどう直したらいいのかわからないときがある。=授業のねらいは「パラグラフレベルの英文を正確に書けるようになる」ことなので、エッセイの指導(ETSのCriterionを利用)まですることができませんでした。改善します。

「英語の諸相II(英語の意味論・語用論)」履修者数60名(回答者数48名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.8(科目別平均4.6,受講者数平均4.6) 

敢えて英語の難解な専門書をテキストに指定し,その内容を解説することを主眼に置いた授業。専門的なことを妥協せず面白くやる授業が理想なので,この授業ではスライドや視聴覚教材もあまり使っていません。評価が低かったのが,「授業の内容は理解できましたか。」(4.7(科目別平均4.5,受講者数別平均4.5)),「課題(発表、レポート、小テスト等)は、勉学を深める上で役立ちましたか。」(4.7(科目別平均4.6,受講者数別平均4.6))です。後者は毎年あまり高くないので何らかの対策を考えたいと思います。

【自由記述欄】 
・学生への気遣いが授業に感じられました。納得のいかない表情を浮かべている学生を見逃さず再度説明をしてくれる点は、とても良かったです。=いつも心掛けていることなので嬉しいです。
・授業の始めに前回の復習をするためスムーズに入れる。例えが多くて難しいこともわかりやすい。
・先生のエピソードがおもしろく、説明もわかりやすくて、毎回この講義が楽しみになるほどでした。
・なぜそうなるのかわからなかった文法についての謎が解けたこと。普段生活している中でこれは語用論なのかなと気にするようになったこと。 =こういう感想も嬉しいですね。 ・元々抽象的な分野だと思うので、より具体例を用いてほしい。スクリーンの解像度が低いので逆に使わない方が良いと思う。=例をだいぶ用いているつもりではありますが,検討します。スクリーンの解像度については確かにあの部屋は悪いのですよね…。
・またこの授業をとりたいと思いました。=え?単位が要らないってこと?(笑)

「英語II」履修者数55名(回答者数45名)
【授業の体系性】設問平均5.0(科目別平均4.8,受講者数平均4.8)
【教授方法・講義内容】設問平均4.9(科目別平均4.6,受講者数平均4.6) 

2012年度後期は特例として非英語専攻生の英語クラスを担当しました。eラーニングを用いた授業ということで,Moodle上にBBC作成のThe Flatmatesの動画を載せて毎回活動を行う形式を採りました。また課外ではぎゅっとeのリスニング問題を毎週20問解かせ,授業の冒頭に小テストを行いました。簡単だと思った動画だったのですが,非英語専攻生にとっては難しかったようで最初の数回の授業では眠たそうな顔をしたりつまらなそうな顔をする学生が多数。慌てて授業の進行方法を修正し,Dictglossもどぎのことをやったり繰り返しリスニングさせたり活動もたくさん取り入れました。最後はみんな笑顔になったのでとても良かったです。

  【自由記述欄】 
・リスニングを多くできたので聞きとりの力はついたと思う
・会話を聞いてその意味を考える等、高校でやったことあるような内容から、日常会話で使える英語等、これからも役立つようなことまで様々でおもしろい授業でした。
・英語なのに授業が楽しかった。嫌いな英語を少し好きになりました。
・先生がやさしい。パソコンを使って授業するのはいい。教え方もいい。内容が理解しやすい。
・毎回の授業で、常に新たなことに取り組んでいたので、あきることなく、たのしく学べた。ストーリーで授業がすすんでいくので、毎回の授業がたのしみだった。
・英語は苦手だし、朝イチからあるし、木曜1限はすきじゃなかったけれど、先生の授業が楽しくて、木曜1限、今は大好きです。
・ベレボー=???

Moodle Moot Japan 2013

 2013年3月2日、3日、東京家政大学にてMoodle Moot 2013が開催された。今回は業務の都合もあり2日目から発表のために参加。発表資料等は数多くアップロードされているので、詳細は日本ムードル協会のサイトを参照のこと。ということで今回の備忘録は主に私たちの発表およびマニュアルの紹介に留めます。

  中西 大輔・大澤 真也・大西 昭夫(Version 2) 
「e問つく朗」Moodle 2.x対応版の開発  
 広島修道大学においてMoodleをeラーニングシステムとして利用することが決まった時に、一番悩んだのは小テストを作成するのが難しいということでした。特に穴埋め問題を作成することはeラーニング初心者にとって難関の1つです。そこで、教職員が簡単に小テストを作成できるためのもモジュールとして「e問つく朗1.9対応版」を開発し発表したのが、2012年のMoodle Mootでのこと。今回はいよいよ2.x版へ対応させての開発を行いました。 主な変更点は、 

・API経由ではなくMoodleに直接統合
・問題をcsvファイルで一括アップロード(穴埋めを除く)
 ・英語表記への対応 です。

使ってみるとその良さがわかると思うので、興味のある方は http://ver2.jp/moodle/emon/ にアクセスしてみてください。無料でダウンロードできます。ちなみに公開予定は2013年3月中旬以降です(1.9対応版はダウンロードできます)。

  次におまけとして紹介したのはMoodleマニュアル『Moodle事始めマニュアル: Ver 1.9および2.4対応』です。こちらは200ページ程度の分量ながら、PDFおよび電子書籍(フォーマットについては現在検討中)を無料で公開します。売りは(1)Moodleを触ったことがない人でもマニュアルのステップを踏んでいくことでとりあえず授業で利用できるようになる、(2)実際にMoodleを活用している英語教員の実践事例集が付いている、ということです。こちらはPDF版は2013年3月中旬以降、電子書籍版は2013年4月以降に配布を開始する予定です。出版しないマニュアルならではの面白い趣向やネタが満載です(笑)。

  入手可能時期や入手方法など興味をお持ちの方はぜひ以下のフォームからご登録ください(登録してくれる人数が多いほど嬉しいので)。

  『Moodle事始めマニュアル』入手について 

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 ということでMoodle Mootは回を重ねるごとに学会としての様相を帯びつつあるように思う。Moodleの開発者であるMartin Dougiamas氏の講演のタイトルはBack to the Classroomであり、Martin氏自身も開発をするだけではなく、教員が使いやすいものにすることと学習成果をきちんと測定することの重要性を認識しているようだ(その証拠として第1回のMoodle Research Conferenceが2012年9月にギリシャで開催されている)。
  そのことも意識してか、Moodle 2.xにおいては様々な機能が今後追加されていくようである。が、個人的な感想を言わせてもらえれば、シンプルな機能に特化した方が使いやすい場合もあると思うので、いたずらに機能や設定を増やすのではなく、教員のニーズに応じて使用する機能を制限するような設定が付いてくれると嬉しい。今本学ではMoodle 1.9を利用しているが、今の機能や設定だけでも初級者にとっては敷居が高いので。
  そしてMoodleを大学などの機関において、唯一かつ標準のeラーニングシステムとして導入している大学はまだそこまで多くないことにも注意が必要だ。つまり個人でインストールして楽しんでいる愛好家も多いのだ。そういう人たちが気軽に参加できるのがMoodle Mootの良い所である気はしたのだけど…。これはMoodle Moot 2012に参加した時にも思ったことです。

平成24年度 広島大学外国語教育研究センター教育実践研究報告会・外国語教育研究集会

 2013年3月1日、毎年恒例の広島大学外国語教育研究センター主催のイベントに参加してきました。午前中は外国語教育研究センター教員による実践報告、午後は「大学にける外国語教育の目標設定:CEFR-JとCAN-DOリストの理解と活用」と題して、今何かと話題のCAN-DOリストとCEFR-Jに関する講演。以下、いくつか覚え書き。

<教育実践研究報告会>
榎田一路
「広大スタンダード語彙リスト(2012年度版)の開発と冊子体の配布」
 「コミュニケーション基礎I, II」科目ではeラーニングにより前後期それぞれ3000語、通年で6000語の語彙を習得することを目指している。今回はその語彙リストの冊子をお披露目。標準と発展の2つのレベルから構成されるこの語彙リストはなんと外国語教育研究センター所属教員18名が分担して1年半(!)かけて用例を付けたそうである。ちなみにこの語彙をつぶやいてくれるTwitterアカウント(@HirodaiVocab)もあります。

SELWOOD, James
「スマートフォンの可能性:広島大学English News Weekly Podcast」
 広島大学外国語教育研究センターでは、毎週火曜日配信のPodcast番組を作成している。

Hiroshima University’s English Podcastのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @huepod 

これだけでもすごいのだけど、何と2012年度から新たにEnglish News Weeklyとして毎週金曜日に最新のニュースをPodcastとして配信しているそうだ。

English News Weeklyのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @ENWpodcast 

すごいのはPodcastだけではなくて、PDFも公開しているということ。時事英語のような授業を担当している人にとっては大満足の内容です。

<外国語研究集会> 
投野由起夫(東京外国語大学)
「CEFR-J: CAN-DOベースの新しい英語到達指標ーその開発と活用」
 科研メンバーで開発したCEFR-Jについての講演。CEFR-Jの詳細やデータはCEFR-Jのサイトを参照のこと。まずはCEFRの背景および利用環境、

English Profile Project
Core Inventory 

などについて触れた上でCEFR-Jの開発の経緯および方法について説明された。その後、CEFR-Jの活用方法についてカリキュラム・シラバス開発、外国語教育・学習のツール、外国語能力の測定・評価のための基準、という3つの視点を提示し、整いつつあるCEFR-Jの利用環境について説明された。 

1つは中国,台湾、韓国の英語教科書コーパスを基に作成するCEFR-J Wordlistについて。現在English Profileが公開したThe English Vocabulary Profile (EVP)のリストとの照合作業を行っており、目標としては

 Pre-A1, A1 1000語
A1 1000語
A2 1000語
B1 2000語
B2 2000語 

の計7000語程度の語彙リストになる見込みだそうである(CEFR-J Wordlistの語彙レベル判定ツールも公開予定)。 

次にCAN-DOデータベースについて。これはCEFR-Jに足りない部分を補完する意味も含め、European Language Portfolioの2,800語の記述(descriptor)のうち647をデータベース化したもの。特徴としては、大人だけではなく子どもも理解できるようにDescriptors for childrenという欄を設けたところだろうか。 

3点目は『CEFR-Jガイドブック』(大修館書店)について。これは2013年4月に出版予定とのこと。

 最後にCEFR/CEFR-Jを用いる意義について、 

・小中高大の英語教育の連携:英語力到達度指標の共通理解の必要性
・4技能全体を視野に入れた指導
・「ことばを使って何ができるか」というCAN-DOリストを基礎とした言語活動の展開
・教室英語から実社会で使う英語への橋渡し
・世界共通の評価基準で自分の英語力を語れること

 とまとめられた。また課題として、 

・CAN-DOから具体的タスクを作成するステップの明確化
・ベンチマークとなるパフォーマンスの事例を集める必要性
・文法CAN-DOのような弊害をいかに封じるか
・文法・語彙の重要性を軽視することがないようにしたい
・「できること」に目を向け、「できない」リストにならないこと

 を挙げられた。

  長沼君主(東京外国語大学)
「自律性と自己効力を高めるためのCan-Doリストを用いた評価」
 CEFR-Jの名前が出てくる前からCan-Doリストを用いた実践および研究をされてきた長沼先生の講演。最初にCan-Doリストを用いた評価についてまとめ、CEFRやLinguaFolio(English Language Portfolioと同様の枠組みで、ACTFL熟達度ガイドラインに基づいて作成)を紹介された。

 そしてCan-Do評価とは「ポートフォリオ評価に基づき、自己効力を与える自律的学習促進のための評価」、「教室における見取りと内省を助け、同僚性と教師自律性を高めるための評価」であると主張された。また一般的な能力記述を目指した外部評価としてのCan-Doリストだけではなく、個々の状況やシラバスに応じたクラス内の内部指標としてのリストを作成することの重要性も指摘された。

  その後様々な話題を提供してくださったのだけれど、時間の制約もあり配布資料の内容をすべて網羅することができなかった。以下、印象に残った言葉をいくつか。 

清泉アカデミックCan-Do尺度
学習者の認知発達と動機づけを育む評価
「べき」感ではない「自律的動機づけ」を高める評価
「できる感」=「自己効力」を与える評価 

またヴィゴツキーの「足場掛け」の話も例として出され、自己評価をする時に他者の助けを借りてできるという段階があっても良いのではないかという主張が印象に残った。 

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午前に行われた実践研究報告会では、外国語教育研究センターのカリキュラム改善に向けた取組、またその検証についての話。そして語彙リストやPodcastなどのコンテンツの充実など、他大学にとっても参考になる話をたくさん聞くことができた。これは広大スタンダード語彙リストだけの話ではないのだけど、最近語彙リストが1つの流行になっており、多くの大学が独自の語彙リストを作成している。しかし単純に語彙リストを作るといっても莫大な作業時間が必要になるので、リストを作成する意義について考えてみる必要があるのではないかと感じた。 午後に行われたCEFR-Jの講演は、CEFR-Jの今後の展開の話だったので、CEFR-Jが良い意味での批判の対象になり、議論を重ねていければ良いと思う。こちらもまたリストの作成には莫大な作業時間が必要になるので、慎重な議論が必要だ。投野先生もおっしゃられていたが、投野先生と長沼先生という組み合わせで講演が行われるという機会はあまりないので、そういう意味でも非常に興味深く貴重な機会となった。

2013年1月16日水曜日

私の英語学習歴

 以前英語教育2.0というブログで「私の英語学習歴」企画があったのですが乗り遅れてしまいました。ただいつかはまとめてみたいと思っていたので,時期外れではありますが,自分の英語学習歴についてまとめてみようと思います。

  小学生時代
 英語を勉強した訳ではないのですが,なぜか「モクモク村のケンちゃん」のことは覚えています(最近アプリにもなったようです!)。内容は覚えていませんが,いくつかのフレーズを子ども心に暗記したようで,”What’s your name?”と”How are you?”は言えるようになりました。小学校低学年の遠足のときだったと思うのですが,たまたま観光に来たと思われる外国人がタクシーから降りてきました。そこで興味半分で暗記していた2つの表現を利用し,見事に相手から答えが返ってきたので友だちに自慢した覚えがあります。ですが,表現は覚えていたものの自分が聞かれたときの返し方は覚えていなかったので,外国人に同伴していた日本人に「自分のこともちゃんと答えなきゃ。」と言われました。

  中学生時代
 中学校1年生のときの英語教員はおじいちゃん先生でした。「おい,お前らこれ覚えとけ。」と動詞の活用表を渡され,それさえ覚えていたらテストでは高得点を取れたものです。惰性で英語を勉強していたのですが,高校受験を意識し始めた中学校3年生の頃,いきなり英語の点数が伸び悩むようになりました。そこで友だちも通っていた近所の学習塾に行き始めました。そこの英語担当教員は極端なぐらいシンプルに英語を教える人(現在某学習塾のトップ!)で,今でも覚えているのは「不定詞,動名詞,両方取る動詞はそれぞれ3つずつ覚えておけ!」と言うような人でした。ですが英語の知識が体系化されておらず困っていた私にとっては,彼の指導が本当に役立ちました。

  高校時代
 高校時代に出会ったのは若い英語の先生で,当時にしては珍しく授業をほとんどすべて英語で行う先生でした(現在も広島県内の高校で活躍されています)。彼の授業はとても刺激的で,英語に対する興味が高まりました。その他にも受験対策としていわゆる単語集や即戦ゼミ,通信講座なども受講しましたし,ラジオ番組の「百万人の英語」を聞くために早起きしたり(でも寝ぼけていたのでほぼ睡眠学習),大手予備校の集中講座のようなものも受けました。センター試験では幸い高得点を取ることができましたが,明示的な英語知識はほとんどなく,感覚的なものでした。

  大学時代
 「英語=英語英文学科」という安易な考えで,大学の英語英文学科に進学しました。最初の頃のオリエンテーションで先輩に「大澤君は何で英語英文学科に来たの?」と聞かれ「英語が話せるようになりたかったからです。」と意気揚々と答えました。すると即座に「そんなの無理よ。」と一笑に付されたのを覚えています。学部時代の授業は文学作品を丁寧に訳読していくというスタイルの授業がほとんどでした。不真面目な大学生活を送っていて2年生になった頃,女子学生の多くが夏期休暇期間中に語学留学をするということを知りました。そこでその流れに乗り,イギリスに1ヶ月間語学留学することにしました(イギリスを選んだのは文学はやはりイギリスだろうというプレッシャーがあったから)。この1ヶ月は楽しいことばかりでした。ヨーロッパやアジアの国の人たちと多く知り合うことができたし,後に大学院進学を決意したときにお世話になった高校の先生にも出会うことができました。1ヶ月はあっという間に過ぎ去り,「いつか今度は1年以上英語圏で勉強してみたい!」という思いを強く持つようになりました。当時は学部生が留学をするというのは珍しかったので,某教官に「イギリスに1年間留学したいんですけど。」と聞いたら「学部生ではちょっとね…。」と渋い顔をされたものです。

 そう言えばこの頃某Y○C○Aにも通っていました。思いつきだったので入れるクラスが少なく最初に入ったのが同時通訳コース(すぐに飽きた),次にTOEFL試験対策コース(試験対策ばかりで面白くなくなった)を受講しましたが,長続きはしませんでした。

  大学も2年次になってくると専門的な授業が増えてきます。その中で興味を持ったのが,文体論の視点から文学作品を読んでいく授業でした。そこで文体論を専門とする先生のゼミナールを希望し,卒業論文ではディケンズの『大いなる遺産』を文体論的な視点から分析しました。当時は喫煙に対する意識も低かったので,ゼミ教室では先生は灰皿を目の前に置きタバコを吸いながら授業をしていたものです。何とも言えずその姿が格好良かった(関係ない話ですが)。4年生になり周りの学生が就職活動を始め続々と就職先を決めていく中で,私だけは迷っていました。当時の志望は中・高等学校の教員だったのですが,教員になるにはあまりにも英語力が足りない。そこでいきなり大学院に進学することを決意しました。それも専攻をかえて英語教育に!当時はアメリカ文学史やイギリス文学史を勉強すると共に,A.J.トムソン, A.V.マーティネット著『実例英文法』という文法書も読み込みました。

  大学院修士課程時代
 進学したのは大学院大学とよばれる大学で,同級生には現職の中・高等学校の教員がたくさんいました(彼らとの出会いはとても貴重で今でも交流があります)。同級生に現職の先生がいることで,「教育現場」に関する問題意識を持つことにとても役立ちましたし,英語力をはじめとして様々な面で劣っていたので,授業でおいていかれないように必死で2年間勉強しました。TOEICは今ほど利用されている試験ではありませんでしたが,大学院入学直後に受験したTOEICのスコアは730程度(同時期に受験した英検準1級は合格)。英語教員を目指す学生としては大して英語のできる学生ではありませんでした。そこから必死に英語教育関連の文献を毎日のように読み進めました(自分のノルマとして毎日20-30ページの論文を1本読むということを課していました)。そこで感じたのは「英語教育関連の文献ってなんて簡単な英語で書いてあるんだろう!」ということでした。大学時代は毎ページのように辞書を引いて真っ黒になるぐらい単語の意味を書き込まないと読めない本ばかりでしたが,論文で使われている英語はとても簡単だということを知りました。そして2年間勉強した訳ですが,学部時代に抱いた「留学をしたい。」という思いが消えることはありませんでした。そこで修士2年目の時にイギリスの大学院修士課程に進学することを決め,TOEFLの試験も受験し何とか基準をクリア(具体的なスコアは忘れましたが確かPBTで550以上?)したので留学できることになりました。ですが,周りが就職を決めていく中でまたしても私一人だけが何もしていないのを不憫に思ったのか,ある先生が「博士課程に進学しないか?」と誘ってくれました。当時は博士課程に進学することなど夢にも思わなかったのですが,修士課程修了(3月)後,イギリス大学院進学(9月)まで間が空いてしまうよりは学生という身分があった方が良いだろうという軽い気持ちで博士課程進学を決意しました。

  イギリス留学時代
 イギリスの修士課程は1年間で前期は授業,後期は論文執筆という流れでした。「イギリス=少人数教育」という勝手なイメージを持っていたのですが,同じ専攻に3-40名程度在籍する大所帯でした。この1年間はインプットからアウトプットの期間でした。日本の大学院修士時代までは読むことがほとんどだったのですが,ここでは論文を読んだ上でエッセイを提出することを求められます。毎日のように英語を読み毎日のように英語を書き,楽しいことがありつつも本当に大変な毎日でしたが,何とか無事に修了することができました。ここでわかったのは大学院レベルの留学ともなると英語力よりも知識が重要だということです。既に知っている分野の授業はほとんど苦労しませんでしたが,全く知らない分野の授業は非常に苦労しました。日本で修士課程を修了していた分,変な自信を持っていたのですが,英語を読むにしても書くにしても力不足で,その自信は見事に打ち砕かれたのを覚えています。

 大学院博士課程時代
 そして日本に帰ってきて博士課程の学生を続けました。これまでと同様,論文を読む毎日でしたが,それに加えて当時の指導教官から言われた「英検1級,TOEIC900以上」(なぜこの目標を提示されたかはわからない)を目標に実用的な英語の勉強も開始しました。と言っても試験のために勉強するのは嫌だったので,雑誌TIMEを継続して読みわからない単語を文と一緒にノートに書き写す,文法書を1冊読み込むといった作業を行いました。その結果,博士課程が終わる頃には両方ともクリアすることができました。このような英語試験の実績がすべてではありませんが,ようやく自分の英語力に少し自信が持てたのを覚えています。

  その後
  そしていろいろありながら現在に至ります。思い返してみるといわゆる試験勉強と呼ばれる学習方法が嫌いで,英文法や語彙などを機械的に暗記するのも苦手でした。そのかわりできるだけたくさんの本や論文を読み,インプットを多量に得ることを心がけました。そのためか,自信を持って明示的に自分の英語の知識(文法や語彙)を説明することはできず,中学校,高校,大学と苦労しましたが,それでもそれなりの英語力(それなりというのがポイントで大した英語力ではなかった)を保っていたように思います。英語の文法などについて明示的に説明できるようになったのは実は大学で教えるようになってからです。大学で教えるという立場になり,説明をするために様々な文法書や英語学の本を読んだことによって,ようやく今までのインプットが明示的な知識として定着した気がします。  

 このように,「英語学習」を意識的にやったことはないので,お勧めできる英語学習法や本などはないのですが,やはり多量にインプットを得ることはとても重要だと思います。また文法用語をいちいち暗記する必要はないと思いますが,いわゆるコロケーションや基本的な文法のパターンを明示的な知識として持っておくことは重要です(高校のときに機械的に繰り返し勉強した『即戦ゼミ』は当時は大嫌いでしたが今は自動化された知識として活きています)。ここまでに至る英語学習は何だかジグソーパズルのようで,英語力というパズルを完成させるために足りないピースを探していく過程でした。今もまだ英語学習は継続中ですし,足りないピースを探す活動は続くと思います。