2013年9月4日水曜日

全国英語教育学会 第39回北海道研究大会

 2013年8月10・11日、北海道の北星学園大学で開催された全国英語教育学会(JASELE)の研究大会に参加しました。今回は(も?)残念ながら発表することはできなかったけど、様々なことを学びました。

 開会式のときに、理論と実践の融合や現場の教員が理解できることばで研究成果を語ることの重要性が指摘されていましたし、JASELEの今後の方針もあるのでしょうが、「理論と実践」のつながりについていろいろ意見や感想を持った人が多かったようです。ざっと見たところ、以下のようなブログで感想が綴られています(他に何かご存知のものがあればお知らせください)。

tyoshida's office
タカの英語教師日記〜Stage2〜
英語教育2.0〜my home, anfieldroad〜
○○な英語教員に、俺はなる!!!!
英語科教員奮闘記
白井恭弘ブログ


 以下、ごく簡単に備忘録(本当に備忘録なので許してください)。

【1日目】
今尾 康裕(大阪大学)
「英語学習者エッセイコーパスの書き言葉としての位置づけを探る試み」

【概要】
 ICLENICEICNALEなどの学習者コーパスを紹介し、それらの多くは学習者エッセイコーパスなので、まずはエッセイコーバスの特徴をつかむ必要があることを指摘。大局的な視点から書き言葉コーパスの中における相対的な位置づけを見てみようという試み。分析手法として、タグ付けしたコーパスの語彙文法項目などを利用した多変量解析を採用、今回はコレスポンデンス分析(頻度表をもとに行と列の変数の対応を視覚化する)の結果を提示された。Logical connectorsの分析で、主な結果の概要は、formalityで使う連結詞が異なる、エッセイライティングというタスクで差があるわけではない、学習者を特徴付ける差がある、習得レベルによって使用頻度に差がある、国籍によっても頻度に差がある、であった。

【感想】
 今Mac界で知らない人はもぐりと言われる研究者、今尾先生の発表でした。Mac用のコンコーダンサーCasualConcやRを簡単に使えてしまうMacRなどの開発者でもあります。プレゼンテーションの美しさもさすがでした。
 
【2日目】
浦野 研(北海学園大学)・水本 篤(関西大学)
「英語教育実践と研究の接点 - 研究の在り方と手法 -」

【概要】
当日のUstream中継
投影資料(水本先生)
togetterによるまとめ

 研究方法についての大まかな理解、ARELEの掲載論文の分析、そして今後どんな研究が求められるかを考えていくためのワークショップ。あまりにも盛りだくさんだったので、以下ワークショップ中に書き留めたことばを羅列しておきます。

p値を見るとか有意差を見るとかはnの大きさに依存するのでかなりあやしい。」
「効果量について。APA 6th editionによれば必須!」
「効果量を偏差値にたとえる。0.8だと偏差値が8違うようなイメージ。」
「サンプリングの影響もあり、p値は再現性がないが、しばらく使われ続けるだろう。」
「CIと効果量をみればいい。」
「有意水準・検定力・効果量・サンプルサイズのうちの3つがわかれば残り一つが決まる。」
p値ではなく信頼区間がベター。実質的な差を見るのは効果量。検定にこだわるなら検定力を確認。1回の研究で言えることはかなり少ない。」
「そもそも検定が必要なのか。有意差を出すためにやっちゃってるのでは?」
「提案:p値が大事なら検定力分析を、効果量、信頼区間の蓄積、測定を軽んじない、追試を重視、再現に必要な情報を必ず書く。」
「探索型の研究ばかりやっちゃダメ」

【感想】
 あまりのすごさに「すごすぎてpちゃん」というフレーズが頭の中をグルグル回りました。ワークショップとは言え、参加者が参加できる時間はほぼ皆無だったのだけど、聞いている側の頭をフル回転させてくれる素晴らしいワークショップでした。表面上はARELE掲載論文の分析という形態でしたが、「きちんと作法に則って研究しましょうね。」というシンプルなメッセージが伝わってきました。
 ちゃんとした研究を行うためには、究極まで突き詰めることももちろん重要ですが、統計的な知識を全く持たない人が知っておくべきミニマムがわかればとても嬉しいのですが...(私も苦手な方なので統計を勉強すればするほどどこまで行けばよいのかがわからなくなります)。

白井 恭弘(ピッツバーグ大学)
「日本の英語教育の将来ー小中高における英語教育実践と研究の接点を探るー」

【感想】
 シンプルかつ明解な講演でした。白井先生の著書を見ればわかると思いますので内容はあえてまとめませんが、やはり英語教育に携わる者として1度は白井先生の主張を自分の中で咀嚼してみる必要があるかと思います。

【全体を通しての雑感】
 JASELEの研究大会に参加して思うのは、実践と研究をいかに連携させるかということです。今回も参加者の多くがそのことについて考えていたようですね。私は鳴門教育大学大学院の修士課程で勉強をしましたが、当時は現職教員の派遣制度があり(規定上は大学院生の2/3以上が現職教員だった)、全国各地から派遣された英語教員と一緒に2年間の研究生活を送りました。そこでよく聞いたことばは「研究なんて実践には何の役にも立たないよ」というものでした。私の中で印象に残っている高校の先生は常にこのようなことばを口にされていましたが、2年間の派遣期間中にARELEに投稿し見事に論文が掲載され、2年間の研修期間を終えた後、颯爽と高校に戻って行きました。
 このことから感じるのはやはり「優れた実践者=優れた研究者」であるべきだということです。残念ながら優れた研究者の中には実践を蔑ろにしている(というか実践できない)人もいます。また小・中・高等学校の教員の中には、最初から実践者の視点だけで実践を捉えて「研究なんて...」という人もいることでしょう。ですが研究者の端くれとして言わせていただけるのであれば、「研究と実践の効果的な循環」がなければ英語教育の未来はないと考えています。そのためにも「大学の研究者>小・中・高等学校の教員」という訳のわからない妄想は忘れ、お互いが健全に議論し合うべきだと思います。

 余談ですが、私は教育現場ということばがあまり好きではありません。そのことばを使った途端に小・中・高等学校での英語教育と大学での英語教育が分断されてしまう気がするからです。大学で英語教育に携わる身としては、必死に英語教育をしているつもりですし、研究と教育をなんとか結びつけようともがいています。現場ということばを使うのであれば、大学での英語教育も入れて欲しいと思うし、そのことばを聞く度に何だか切ない気持ちになります。

【その他気になった情報】
検定力分析を行うためのソフトG*Power 3
Exploratory Software for Confidence Intervals
大名力先生のDictation作成サイト

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