2008年3月11日火曜日

成績評価の厳格化

「成績評価の厳格化とその支援システム」という名のもとに行われたシンポジウム。文科省の特色ある大学教育支援プログラムとして選定されており、その成果発表の一環として2008年3月10日同志社大学今出川校地で開催された。参加者は200名限定ということであったが、教室内には鹿児島や長野など遠方から教職員が多く集まり会場が満員になるほどの盛況であった。

まずは基調講演としてUCLAの名誉教授であるAlexander W. Astin氏が"How assessment can enhance teaching and learning among college students"というタイトルのもと講演を行なった。基本的な概念としてはIEOモデルというものを提示し、評価を行う際には、学習者が今までどのような学習をしてきて、またどのような家庭環境から来ているかなどのINPUT、どのような教員がどのような教材を用いてどのようなカリキュラムのもとで行ったかというENVIRONMENT、そしてその成果としてのOUTCOMEの3つを考慮に入れる必要があるとのことであった。INPUTとしては家庭環境(両親の出身校や収入にまで踏み込んだもの)も1つの要素として挙げられており、多様な民族からなるアメリカでは重要なことなのかもしれないが、日本においてここまで個人情報に踏み込んだものを入手することができるのか、あるいは入手する必要があるのか、という疑問が残る。この点に関しては「情報の取り扱い」ということで参加者の一人が質問していたが、個人的には日本という環境にはそぐわないと思う。Astin氏が指摘するように、評価をする際にはこの3者を考慮に入れなければならないということは単純なようではあるが、忘れがちなことである。実行可能性なども考えながら、出来る限り多くのデータを収集した上でOUTCOMEの評価をするべきであるということ、そして機関としてノウハウを作り上げ収集したデータを機関間で比較することが重要であること、など今後の大学教育における将来像が見える講演であった。

個人的には逐次通訳の方たちを初めて見たので、彼女たちがどのように逐次通訳をしているかにとても興味を持った。感想:やはり英語のエキスパートと一言に言っても教員と通訳じゃ要求される英語力が全然違う。

その後は桜美林大学から舘昭氏、上智大学から山本浩氏、同志社大学から圓月勝博氏が登壇し、約2時間のパネルディスカッションが行われた。主な論点はGPAの導入とその成果についてであったと思う。パネリストの方々自身も言っておられたように、GPAの導入=成績の厳格化という訳ではない。またGPAを導入したからと言って公正な成績評価が行える訳でもない。但しGPAを導入しその分布を公開することによって、教員の成績評価に対する意識が向上することは間違いがないようである。「説明責任(アカウンタビリティー)」なんてことが言われている現代においてはこのことは重要であろう。またGPA導入のメリットの1つとして、諸外国と評価基準を同一のものにすることによって、単位の互換や交換留学が容易になることも挙げられる。しかしながら、これもディスカッションの中で指摘されたようにアメリカでは既に評価がインフレしており、アメリカでのGPA>日本でのGPAという構図になってしまっている現状もあるらしい。この辺りも今後解決するべき問題であろう。

個人的に興味深かったのは、このような改革を行っている人たちのバックグラウンドとして教育の方が一人だけで、残りの二人は英文学であったことである。昔から英語は技能課目として、良くも悪くも批判されることが多かったが、そういった意味で語学課目を担当している教員の間で成績評価に対する危機意識が強いのだろう。

「大学全入」と言われる時代になり、大学の国際的競争力が求められる時代、こういった流れは避けられないのだろう。けれども成績の評価をより公正なものにし、成績の評価が正規分布するようになればそれだけで良いのだろうか。確かに「楽勝科目」と呼ばれるものが存在しており、こういった評価をする教員に危機感を抱かせることはできるだろう。けれども、それだけに留まらず成績評価の厳格化が、大学としての質の向上につながるであるとか、教育効果が上がるであるとか、その辺りの展望が見えにくいので、今後に期待したい。

そう言えば先日広島大学でも同様のシンポジウムが行われたが、国公立大学主催のシンポジウム、私立大学主催のシンポジウムというのは、カラーが全然違うので面白い。前者は研究者、後者は実業家と言ったところか。

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