2008年12月8日月曜日

大学教育学会課題研究集会雑感その1

 2008年12月6日(土曜日),7日(日曜日)に岡山大学で行われた大学教育学会課題研究集会に参加した。こういった学会があるということさえ知らなかったのだけれど,現在の勤務先でしている仕事の関係から初参加となった。個人会員で950人,そして当日も350人が参加するなど盛況であった。
 今回の統一テーマは「学生の主体的な学びを広げるために」で,1日目に4時間にわたる開催校企画の特別シンポジウム,二日目は2会場に分かれて「学士課程教育の改革へのアプローチをどのように進めるか」,「『大学人』能力開発に向けてー国立大学の現在ー」,「FDのダイナミックスーFDモデル構築へむけた今後の課題」,「科学技術リテラシー教育と『学士力』の育成」のそれぞれのテーマでシンポジウムが行われた。以下自分が参加したシンポジウムの概要と感想。

開催校企画特別シンポジウム「学生の主体的な学びを広げるために」
 シンポジストとして岡山大学の学部生小林歩美さん,読売新聞社東京本社記者の松本美奈さん,京都市立堀川高校校長荒瀬克己先生,岡山大学教育開発センター教授の橋本勝さんが登壇し,それぞれ約20分程度で発表を行った後,京都大学高等教育研究開発推進センター教授の松下佳代先生がショートコメントと称してコメントをしていく形式。司会者は倉敷芸術科学大学の小山悦司先生,くらしき作陽大学の山野井敦徳先生であった。

小林歩美さん「学生は自主的な学びができている」
 授業以外に学生がどのように自主的に勉強しているかを,友人たちから聞いたエピソードをもとに紹介。発表がどうとか言うよりもしっかりしている学生さんだなあと思った。

松本美奈さん「学生の主体的な学びのために」
 「大学の実力 教育力向上への取り組み」という全国調査に携わっている人。その結果を交えながらの報告。学生の「負け犬意識」をいかに取り除くか,そのために発言をした人にクラス全員が拍手をしてあげるなどの試みをしている授業もある。学生を変える鍵は,教育に関わる人に夢があるか,夢を語れるかということ。大学だけではなく,初等,中等教育との連携も必要であると主張されていた。研究者ではないので非常に分かりやすい発表であった。ただこういった全国調査を首都で行っている人は地方大学での取り組みを客観的に評価してくれているのだろうかという疑問は残る。

荒瀬克己先生「内発を促す外発の模索」
 外部から見るように堀川高校は一流の学生ばかりが入ってくるのではないということ(偏差値50以下~70までの多様性)を提示した上で,探究科と呼ばれるコースを設置し主体的に学ぶ学生を育成する試み等を紹介された。大学に責任を押し付けるのではなく,高校として質を保証していくという考えには共鳴できた。高校教育における二兎(入試実績と本来の高等教育)を追いかけることなどについても話をされたが,とにかく話の面白い人,キーワード的な発言の多い人,聞いていて飽きない発表。

橋本勝先生「主体的な学びにおける自由度」
 teachingからlearningへの流れを実践し,教えることから撤退し,橋本メソッドを確立したと主張された。よく二項対立で「teachingあるいはlearning」,「知識の伝達あるいは学びの支援」,「強制あるいは自由」などと論じられるが,あれあるいはこれといった議論に陥らないことが必要であると言われていた。今回の課題研究集会の前後に実際の授業参観ができたのだけれど,残念ながら参加は断念。本が出版されるらしいです,近々。

松下佳代先生「主体的な学びの原点」
 それぞれの先生方の発表をまとめられた上で客観的な解説をされた。「主体的な学び」という時には「能動的学習」と「学生参画型授業」の2つのアプローチがあるということ。そして「主体的な学び」は「質の高い学び(deep learning)」を保証するのかという問題。その際には外から観察できる外的側面と精神的な活動である内的側面を区別しておく必要があるということ。学びを促すためには認知的,社会人知的コンフリクトが重要であることも指摘された。
 個人的には非常に参考になった。今まで自分が授業をしていてもやもやしていたことが文字化されてすっきり。

 この後休憩をはさみ橋本先生の授業を実際に受講している学生も交えて討論が行われたのだが,教員にとっては非常に分かりやすいテーマであったため盛り上がった。内容は盛り沢山すぎるので割愛するが,興味深かった言葉等を列挙しておく。

・自由といえども学ぶ側の自由であって教える側の自由ではない。自由を保障するためにはそれ
 なりの仕組みが必要。
・何を学ぶかをゆるやかに設定
・育てたように育つ
・高大接続テスト(仮称)を検討中
・学習習慣が身に付いていない=否定的に捉えるだけではなく肯定的にも捉えられる。
・評定ではなく評価に価値がある
・水は低きに流れるが学びは高きに向かう
・1浪当然,2浪悠然,3浪呆然,4浪唖然,現役偶然
・橋本先生の授業は面白いが,聴講する理由の1つは楽勝科目だから

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 「主体的な学び」=「質の高い学び」なのか,主体的な学びじゃなきゃだめなのか。教えることにおいては強制的に何かを学ばせる仕掛けも必要なのではないだろうか。自由に学ばせるだけでは,学生は学んだ気になっただけで学んでいない場合も多い。そういった意味においては「主体的な学び」にみせかけた教育を行うことにより,「学んだ実感」を体験させるという表現の方が個人的にはしっくりくるかもしれない。

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