2012年8月9日木曜日

第38回全国英語教育学会愛知研究大会

 2012年8月4,5日に愛知学院大学日進キャンパスにて、第38回全国英語教育学会が開催された。名古屋というと暑いというイメージがあるが,名古屋から地下鉄とバスを乗り継いで1時間弱,そして入り口から会場となる建物まで歩いて5分以上!発表をはしごする度に汗が滝のように流れて疲れ果ててしまった・・・。教育関連の学会は夏のまっただ中に行うのが恒例ではあるのだけれど,年々参加するのが厳しくなってきたなあ。来年は北海道らしいので期待しております(何を?)!関係ないけど初日にはオープンキャンパスも同時開催していて,何かと参考になりました。ということ聴いた発表の中でいくつかのものを備忘録(タイトルだけのものもあります)。

[1日目]
安達優也(千葉大学大学院生)
「大学英語学習者の自律学習とはー自己調整学習の観点から」

 自己調整学習(Self-Regulated Learning)の観点から,大学生英語学習者の自律学習を探ろうとしたもの。参加者は29名の英語教育専攻の大学生。Pintrich & De Groot (1990)の「自己効力感」「内発的価値」「テスト不安」「認知的方略使用」「自己調整」の5つのカテゴリーから校正される尺度を和訳し,5段階の尺度で回答させた。結果それぞれのカテゴリーは十分に信頼性(α計数)のあるものだと考えられる。次に認知的方略使用,自己効力感,内発的価値のカテゴリーの正規分布曲線領域においてスコアが有意に0から離れている学生,またはzスコアの値が他の学生よりも高い学生をそれぞれ3名抽出し,伊藤(2009)が作成した「自己動機付け方略」の項目を基にしながら,英語学習における認知邸・動機づけ的方略を半構造化インタビューの形式で聴取した。それらのデータを書き起こしKJ法の手法を用いて,認知的・動機付け的方略にかかわる部分に下線を引いて分類した。分類は以下の通り。

英語学習における自己調整学習方略
目標設定/計画作成/自己理解/進度確認/環境整備/想像/社会的比較/整理/社会的/メリハリ/報酬/反省/修正/注意焦点化/推測/関連付け/理解・想起/オーセンティック/リハーサル/反復・練習・リソース


そしてそれらを認知/動機づけ/行動/文脈に大別した(それぞれに更に予見,モニタリング,コントロール,省察がある)。

Pintrich, P. R. (2000). The role of goal orientation in self-regulated learning. In Boekaerts, M., Pintrich, P. R., & Zeidner, M. (eds.), Handbook of self regulation. CA.

伊藤崇道 (2009). 自己調整学習の成立過程.北大路書房.
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インタビューを行うまでの手続きが参考になりました。半構造化インタビューということで伊藤(2009)を基に行ったということだが,実際にインタビューでどのようなやり取りが行われたのが気になる。それが分類に影響していることも考えられるので。


磯田貴道(立命館大学)・田頭憲二(広島大学)・大和知史(神戸大学)
「語用論的能力と学習者の個人差要因:依頼表現のタイプと動機」

 語用論的能力と動機づけどの関係を明らかにする目的で行われた研究。談話完成課題により抽出された依頼表現を用いて,学習者の産出する依頼表現のタイプと動機づけとの関係を明らかにしようとするもの。
 中間言語語用論では,学習者の語用論的意識に影響を与えるものとして(1)言語環境,(2)習熟度,(3)目標言語環境への滞在期間,(4)動機づけの4つの要因が現在まで検討されている。これまでの調査によれば動機づけの高い学習者は語用論的意識が概して高く,習熟度に限らずこの傾向が見られることが報告されている。しかしこれらの調査では実際にどのような表現を産出するのか,また表現の種類と動機づけがどのように関連するかは検証されていない。
 調査協力者は日本人の大学1年生121名(欠損値のある10名を除外),以来表現についてはBardovi-Halig & Dornyei (1998)で使用された質問紙を援用し,談話完成課題を用いた表現により筆記形式で依頼表現の抽出を行った。場面は「学生が教授から本を借りる場面」「アンケートを依頼する場面」の2つ。これらの場面で使用できると思われる表現をできる限り多く書き出すよう指示した。表現はTrosborg (1995)を参考に依頼表現のhead actごと(間接的依頼,慣習的間接,直接的依頼およびその下位分類)に基づいて分類した。
 また動機づけについては,自己決定理論(内発的動機づけ,外発的動機づけ(同一視的調整,取り入れ的調整,外的調整,無動機)に基づいた質問紙(廣森, 2006)を使用した。因子ごとに尺度得点化し5変数を投入しクラスター分析を行った。結果,内発的動機づけの高いグループは,間接的な表現を用い,高くないグループはより直接的な表現を用いる傾向にある。が,内発的動機づけが高くても直接的な表現を用いるケースもある。そのため今後は習熟度や指導方法の再考について検討する必要がある。
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語用論には興味があるのでこの発表者たちの発表はいつも楽しみにしています。そう言えばJASELEでは語用論に関する研究発表は少ないですね・・・。「出来る限り」という指示であったとのことだが,学習者がその表現がその場面で適切だと思って書いたかどうかはわからない(のかな?)。発表者たちも述べているように今後,習熟度や指導方法等を考慮に入れた時にどのような結果が出るかに興味を持った。以前中学校の教科書をざっと調べたことがあったのだけど,語用論的なことを意識した構成にはなっていなかったので・・・。

廣森友人. (2006). 外国語学習者の動機づけを高める理論と実践. 多賀出版.

松宮新吾(関西外国語大学)
「The Criterion Online Writing Evaluation Serviceの活用による大学生のライティング・ストラテジーの活性化に関する調査研究(ライティングに関する大学生の意識調査と分析)」

[2日目]
久山慎也(広島県立安古市高等学校)
「日本人初級英語学習者におけるfast writerとslow writerの特徴ー作文得点・言語熟達度・方略使用の観点からの分析ー」
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ここ数年いつも楽しみに聴かせていただいています。高校で実際に指導をしておられる方が自らの実践を分析できるというのはすばらしいことですね。

斉田智里(横浜国立大学)
「英検Can-doリストのDIF分析の試み」
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僕の理解を超えてしまっているのだけど,こういう手法があるのだという勉強になりました。

浦野研(北海学園大学)
Measuring Japanese learners’ implicit and explicit knowledge of adverb placement in English.

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専門外の方でもわかるし楽しく聴けます!とにかくシンプルに発表することにこだわっておられるのが素晴らしいですね。

酒井英樹(信州大学)
「英語教育研究における単一事例実験計画の可能性」

第二言語習得研究や第二言語指導の効果を検証する研究においては長期的な視点で学習者の言語発達を見ることが重要であるとされるが、多くの研究では事前・事後(さらに遅延事後)を伴う実験群・統制群(もしくは対照)群を対象にする計画である。Mellow et al. (1996)は単一事例実験計画(single-case experimental designs)を発達過程に情報を提供する可能性があるものとしてその活用を勧めている。

単一事例実験計画は、単一事例を対象とすること、長期にまたがる複数の観察時点を有すること、実験条件の操作を行うこと(実験を志向すること)という特徴を持つ。基本的にはABA(基線・処遇・条件の撤去)という手順で計画され、基線でのパフォーマンスが処遇期におけるものと比較でき(統制群の役割)、撤去期に処遇期のパフォーマンスが消去することを確認することで処遇の内的妥当性を高めることができる。田中(1987)によればこの計画は準実験としての特徴を持つとされている。

この計画は対象クラスが1つ(少人数、個別指導など)、継続的な指導ができる(複数のデータ収集が可能)、従属変数が数量化でき反復測定ができる、独立変数(教育的介入)が明確かつ個別である場合に用いるのが適切であると考えられる。

教育機関においてはできるだけ多くの観察点を設け、語彙テストや動機づけの質問紙評定や作文など数量化が可能なものを実施し、独立変数(教育的介入)が明確かつ個別であることが重要である。

この計画の限界としては、本計画を用いても継時的な研究にならない場合もあること、準実験計画であり他の実験計画にとって代わるものではないこと、内的妥当性を高めるために撤去期を設けることが望ましいが、条件によっては可塑性の問題から難しい場合もあり、そのような場合には多重事例計画を考慮すると良い。
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中・高等学校や大学など実践に重きを置きながらデータを収集できるという意味で,このような手法が今後普及しても良いのではないだろうか。実践をしているのに「とにかくデータを収集する」とか「統制群と実験群の比較」という手法に以前から違和感を感じているので,参考になる部分が多くありました。

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参加する度にあまりの人の多さと発表の多さに圧倒される学会です。この学会では研究手法の説明に重きを置いた発表が多い気がするけど,正直な話「○○という手法を用いて」という話が発表時間の半分以上も続くと辟易としてくる(研究手法の精緻化や改善に主眼を置いた研究は除く)。逆にあまりにもいい加減な研究手法を用いてしたり顔で発表している場合もどうかと思うし(自己反省の意味合いもあり)。もう少し合理的に研究手法を整理して,内容で勝負する発表が増えてくると面白い気がします。量的にしろ質的にしろ研究手法を確立していくことは重要だと思うので,研究手法については最低限説明するだけで済むようになると良いですね。

しかし今回はポスター発表やワークショップ,ランチョンセミナーなどあまりにも盛りだくさんで移動に疲れました。CEFR-Jのシンポジウムも参加しましたが,こちらは東京で参加したシンポジウムと話が重複する部分が多かった気がします。

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