2013年3月4日月曜日

平成24年度 広島大学外国語教育研究センター教育実践研究報告会・外国語教育研究集会

 2013年3月1日、毎年恒例の広島大学外国語教育研究センター主催のイベントに参加してきました。午前中は外国語教育研究センター教員による実践報告、午後は「大学にける外国語教育の目標設定:CEFR-JとCAN-DOリストの理解と活用」と題して、今何かと話題のCAN-DOリストとCEFR-Jに関する講演。以下、いくつか覚え書き。

<教育実践研究報告会>
榎田一路
「広大スタンダード語彙リスト(2012年度版)の開発と冊子体の配布」
 「コミュニケーション基礎I, II」科目ではeラーニングにより前後期それぞれ3000語、通年で6000語の語彙を習得することを目指している。今回はその語彙リストの冊子をお披露目。標準と発展の2つのレベルから構成されるこの語彙リストはなんと外国語教育研究センター所属教員18名が分担して1年半(!)かけて用例を付けたそうである。ちなみにこの語彙をつぶやいてくれるTwitterアカウント(@HirodaiVocab)もあります。

SELWOOD, James
「スマートフォンの可能性:広島大学English News Weekly Podcast」
 広島大学外国語教育研究センターでは、毎週火曜日配信のPodcast番組を作成している。

Hiroshima University’s English Podcastのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @huepod 

これだけでもすごいのだけど、何と2012年度から新たにEnglish News Weeklyとして毎週金曜日に最新のニュースをPodcastとして配信しているそうだ。

English News Weeklyのサイト
iTunesの紹介ページ
Facebookページ
Twitterのアカウント @ENWpodcast 

すごいのはPodcastだけではなくて、PDFも公開しているということ。時事英語のような授業を担当している人にとっては大満足の内容です。

<外国語研究集会> 
投野由起夫(東京外国語大学)
「CEFR-J: CAN-DOベースの新しい英語到達指標ーその開発と活用」
 科研メンバーで開発したCEFR-Jについての講演。CEFR-Jの詳細やデータはCEFR-Jのサイトを参照のこと。まずはCEFRの背景および利用環境、

English Profile Project
Core Inventory 

などについて触れた上でCEFR-Jの開発の経緯および方法について説明された。その後、CEFR-Jの活用方法についてカリキュラム・シラバス開発、外国語教育・学習のツール、外国語能力の測定・評価のための基準、という3つの視点を提示し、整いつつあるCEFR-Jの利用環境について説明された。 

1つは中国,台湾、韓国の英語教科書コーパスを基に作成するCEFR-J Wordlistについて。現在English Profileが公開したThe English Vocabulary Profile (EVP)のリストとの照合作業を行っており、目標としては

 Pre-A1, A1 1000語
A1 1000語
A2 1000語
B1 2000語
B2 2000語 

の計7000語程度の語彙リストになる見込みだそうである(CEFR-J Wordlistの語彙レベル判定ツールも公開予定)。 

次にCAN-DOデータベースについて。これはCEFR-Jに足りない部分を補完する意味も含め、European Language Portfolioの2,800語の記述(descriptor)のうち647をデータベース化したもの。特徴としては、大人だけではなく子どもも理解できるようにDescriptors for childrenという欄を設けたところだろうか。 

3点目は『CEFR-Jガイドブック』(大修館書店)について。これは2013年4月に出版予定とのこと。

 最後にCEFR/CEFR-Jを用いる意義について、 

・小中高大の英語教育の連携:英語力到達度指標の共通理解の必要性
・4技能全体を視野に入れた指導
・「ことばを使って何ができるか」というCAN-DOリストを基礎とした言語活動の展開
・教室英語から実社会で使う英語への橋渡し
・世界共通の評価基準で自分の英語力を語れること

 とまとめられた。また課題として、 

・CAN-DOから具体的タスクを作成するステップの明確化
・ベンチマークとなるパフォーマンスの事例を集める必要性
・文法CAN-DOのような弊害をいかに封じるか
・文法・語彙の重要性を軽視することがないようにしたい
・「できること」に目を向け、「できない」リストにならないこと

 を挙げられた。

  長沼君主(東京外国語大学)
「自律性と自己効力を高めるためのCan-Doリストを用いた評価」
 CEFR-Jの名前が出てくる前からCan-Doリストを用いた実践および研究をされてきた長沼先生の講演。最初にCan-Doリストを用いた評価についてまとめ、CEFRやLinguaFolio(English Language Portfolioと同様の枠組みで、ACTFL熟達度ガイドラインに基づいて作成)を紹介された。

 そしてCan-Do評価とは「ポートフォリオ評価に基づき、自己効力を与える自律的学習促進のための評価」、「教室における見取りと内省を助け、同僚性と教師自律性を高めるための評価」であると主張された。また一般的な能力記述を目指した外部評価としてのCan-Doリストだけではなく、個々の状況やシラバスに応じたクラス内の内部指標としてのリストを作成することの重要性も指摘された。

  その後様々な話題を提供してくださったのだけれど、時間の制約もあり配布資料の内容をすべて網羅することができなかった。以下、印象に残った言葉をいくつか。 

清泉アカデミックCan-Do尺度
学習者の認知発達と動機づけを育む評価
「べき」感ではない「自律的動機づけ」を高める評価
「できる感」=「自己効力」を与える評価 

またヴィゴツキーの「足場掛け」の話も例として出され、自己評価をする時に他者の助けを借りてできるという段階があっても良いのではないかという主張が印象に残った。 

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午前に行われた実践研究報告会では、外国語教育研究センターのカリキュラム改善に向けた取組、またその検証についての話。そして語彙リストやPodcastなどのコンテンツの充実など、他大学にとっても参考になる話をたくさん聞くことができた。これは広大スタンダード語彙リストだけの話ではないのだけど、最近語彙リストが1つの流行になっており、多くの大学が独自の語彙リストを作成している。しかし単純に語彙リストを作るといっても莫大な作業時間が必要になるので、リストを作成する意義について考えてみる必要があるのではないかと感じた。 午後に行われたCEFR-Jの講演は、CEFR-Jの今後の展開の話だったので、CEFR-Jが良い意味での批判の対象になり、議論を重ねていければ良いと思う。こちらもまたリストの作成には莫大な作業時間が必要になるので、慎重な議論が必要だ。投野先生もおっしゃられていたが、投野先生と長沼先生という組み合わせで講演が行われるという機会はあまりないので、そういう意味でも非常に興味深く貴重な機会となった。

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