2010年8月4日水曜日

外国語教育メディア学会50周年記念全国研究大会

201083日(火曜日)~85日(木曜日)の日程で,横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校にてLETの全国大会が開催された。他の学会出張などがあることもあり,今回は8月3日(火曜日)のみ参加。今回の目的は2つで,業者のブースを見て回ること,と脳科学者である茂木健一郎氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所)の講演を聴くということであった。午前中は幾つかの業者のブースを回り,資料をもらったり話をしたり,名刺交換をしたりする。LETはeラーニング系の業者が多く集うので,情報収集をするにはとても良いのだが,ブース巡りをすればするほど資料が膨大になっていくのでちょっと困る(笑)。広島修道大学では2011年度からマイナーチェンジの形で新カリキュラムを始動するので,その意味でとても良い情報収集ができた。

気になったのは,
eラーニング作成ソフトstarQuiz
ポートフォリオ機能を備えたacademic express2

 その後,昼食をはさんで午後は「横浜サイエンスフロンティア高校の授業実践」という企画に参加した。2009年に開校し,2010年度からサイエンスハイスクールに指定されたこと。また著名な科学者が定期的に講演をしたり,生徒が海外研修に行ったりと,非常に刺激的な教育実践をしているようだ。8月3日当日も,ある学生は東大での研修(?だったかな),またある学生はサイエンスハイスクールが集まってのプレゼンテーションの場に参加,など積極的に活動していた模様。こういった高校から優秀な科学者が生まれるのもそう遠くはないかもしれない。
 そして夕方から行われたのが2つの講演。1つは脳科学者,茂木健一郎氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所)による講演「オープンエンドな英語教育に向けて」,もう1つが峯松信明氏(東京大学)による講演「英語発音の物理現象を眺めていて気づくこと」,でその後二人による対談「脳科学者と音声工学者が考える言葉との出会いとその演出」であった。残念ながら新幹線の時間があったので,対談は聞けなかったのだけれど,一流の人たちによる講演はとても面白く刺激的なものであった。

茂木健一郎「オープンエンドな英語教育に向けて」
 はっきり言って有名な人の講演を聞きたいというちょっとしたミーハー心だったのだけれど,聴衆もどうやら同様な考えの人が多いらしく,携帯やらカメラで写真を撮っている人が多かった。
 中学生の頃から英語の読書を行い,またtwitterやブログでも英語でメッセージを発信することの多い氏らしく,要綱も英語で書かれていた。それに基づけば自然言語は本質的にopen-ended(開放性)のものであるということ。言語は創造的なものであり,普通の言語能力を持っている人であれば,たとえ知らない単語があったとしてもだいたいの意味を推測できる。しかし,それにもかかわらず学習指導要領では中学校では900語しか教えないとしており,この主張はおかしいということ。そして脳は行為者が他者と相互作用する状況を認識し,それに対して報酬を与えることによって,functionality(機能性?)が強化されることから,試験の成績や文法の正確さだけにとらわれている日本の英語教育はおかしいということ。また言語の習得には量が必要不可欠であり,脳の記憶はエピソード記憶の蓄積によって語彙を習得していく。このことから考えれば,日本の英語教育で教える語彙数は不足しているということ。であった。

のだが。。。

アメリカ出張帰りで意識がアメリカモードだったのか?いきなり用意してきてスライドとは全く別のことを話し始めた。「英語が得意・不得意ということよりも,日本人と英語圏の人々ではmindsetが違う。日本人みたいに肩書きを気にして名刺交換をしているような文化のままであれば,日本という国は没落してしまう。英語圏では肩書きよりもアイデアが大事。」から始まり,コンピュータがネットにつながっていることを知るや否や「何でもできるじゃん」と言い,やりたい放題の講演をし始めた。また会場に高校生がいることに気づくと,「肩書きばかり気にしているしょうもない大人なんか無視していいからな」といきなり教育者モード。文献の紹介やら,TEDの紹介やらUniversity of the People(なんと学費無料のオンライン大学!!)の話やら,いろんな情報をググりながら講演をしてく様子はある意味斬新というか興味深かった。おそらく横浜サイエンスフロンティア高校の生徒たちに,ネットの情報を上手に操るということを伝えたかったのだろうが,その手の話をするならそちらの専門家の方が良かったかな。脳科学関係の話としては2点。エピソード記憶の積み重ねから意味をマッピングしていく,ということ,そしてcontingency(偶発性)においてうまくいく/いかない経験がドーパミンを誘発するということ。
 講演のタイトルがオープンエンドであったのだけど,茂木氏の話がまさにオープエンドであった。用意してきたであろう莫大な数のスライドをほとんど使わず,そこのキーワードだけを拾って講演を進め,またきちんと内容がまとまるのはさすが。また英語を目的ではなく手段・道具として使っている人らしい講演であった気がする。講演の内容がどうとかいうよりも,非常に刺激的な講演であったし僕が今までこういった学会で聞いた講演の中では聴衆を一番引きつけたものであった。茂木氏も言われていたが,「ものづくり」をしていれば良い時代は終わったのだ。今はアイデアや内容が問われる時代。以前もBBCか何かの特集でこれからはハードではなくソフトの時代だという話があったが,まさにその通りだと思う。今や日本から目新しい物は生み出されない。英語にしてもそうだ。英語の習得自体を目標にしている時点で,英語コンプレックスからは一生抜け出すことができないし,それ以上の広がりも無い。そいういう意味で英語教育を学問として位置づけようとしている試みは評価に値するかもしれないが,広がりが無いのだ。一人の英語教育者として肝に銘じておかなければいけないことだと思う。でも外国語教育メディア学会において行われた講演という性質を考えると,うーん。。。


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