2008年11月6日木曜日

全国英語教育学会in東京

8月9、10日に東京の昭和女子大学で行われた。例年発表者も含め300人(?)程の研究者や教員が参加するという英語教育の分野においては最も大きな学会の1つ。今回は開催地が東京であったことも影響したのか、例年よりも参加者数が多い印象を受けた。今回は1週間のうちに3つの学会に参加したのだけれど、各学会において独特の雰囲気があって面白い。全国英語教育学会は大学院生の頃から参加している学会であり、毎年のように顔を合わせるメンバーも複数いるので研究においては「我が故郷」という感じがする場所である。研究の文化としては大学院生などが研究発表を練習として行う場合が多いせいか、未熟な発表に対しては厳しい批判がされることも多い。

ここでは今回参加して聞いた発表の中で気になったものを備忘録として残しておく。

葉田野不二美「日本人大学生の自由英作文に出現する助動詞」
 語彙力があることは表現力があることであり、心情描写をする語の一つである助動詞を使いこなせることと語彙力があることの間には高い相関関係があるのではないかという前提のもとに行われた研究。リサーチ・クエスチョンとしては1)助動詞の使用頻度の変化および助動詞と学習者レベルとの関連、2)助動詞の認識的用法の使用はレベルと共に増加するか、3)確実性の度合いを表す助動詞使用の幅は広がるか、4)助動詞のエラーと学習者レベルは関係するか、であった。結果、語彙力のレベルがあがるに従って1)~3)に関しては使用の増加がみられたが、4)に関してはレベルが上がってもエラーの減少は見られなかった。

安藤貞雄の法助動詞の意味や用法の分類に倣い、投野(2007)の研究にも言及するなど、テキスト分析の中で特定の項目(今回は法助動詞)に焦点をあてた研究として非常にオーソドックスなもので好感が持てた。但し、法助動詞の使用=語彙力のサイズとして単純に捉えてしまってよいのだろうか。質問の時間に誰かも述べていたように、タスクのトピックなどによっても助動詞の種類や使用頻度は変化してくるのではないだろうか。とは言え個人的にはこのような研究を将来的に行いたいこともあり、非常に参考になるものであった。

馬場千秋「大学生英語学習者の英作文に見られる日本語翻訳の影響」
 英作文は英語→英語ではなく日本語を介して書く。そこで日本人大学英語学習者の書いた英作文のエラーのうち1)日本語翻訳の影響と考えられるエラー、2)日本語と英語の言語規則の違いによって起こっていると考えられるえらー、を抽出しその実態を明らかにすることもが目的。2001~2006年入学者1~4年生400名に対し前期は4コマ漫画、海外ドラマの一部の描写、後期は意見陳述などのタスクを与えた。1回目に書かせた課題に教師がフィードバックを与え学生はそれに修正、追加を行いコンピュータで完成版を提出する。辞書の使用は許可されているが、翻訳ソフトの使用は禁止されている。なお、今回の分析対象は1回目に提出されたもので、時制、相、文法についてタグ付けを行いWordsmithで分析を行った後、日本語の影響を受けていると考えられるエラーを抽出する。

1)日本語翻訳の影響と考えられるエラー

1)語順、2)主語省略、3)動詞省略、4)「僕はうなぎだ」式、5)「~している」、6)品詞などの間違い

2)日本語と英語の言語規則の違いによって起こっていると考えられるエラー

1)be+動詞、2)自動詞・他動詞、3)能動態・受動態

このような学習者が産出したテキストの分析に「日本語(母語)の影響」を取り入れたのはContrastive Rhetoric時代の懐古主義的なところがあり、逆に新しいのかもしれない。けれども、日本語の影響=エラーという図式が実際に成り立つのかどうかは推測の域を出ないのではないだろうか。例えば「~している」という日本語表現から進行形を間違って用いてしまうというのは確かに日本語の影響かもしれないが、その他のエラーに関しては日本語の影響だけであるとは言い難いのではないだろうか。

広瀬恵子「ライティング指導におけるピアフィードバック-学習者はどうフィードバックしあうか-」
ピアフィードバックの有効性と問題点についてLiu & Hansen (2002)を参考にまとめた上で学習者はピアの英作文にどのようにフィードバックし、またどの点に焦点を当てるかについて調査を行った。参加者はピアフィードバックを行ったことのない外国語学部非英語専攻生15名で授業中の前半45分を用いて英語でピアフィードバックを書面と口頭の両方で行う。順番としてはパートナーの英作文を読んでReader Response Sheetにコメントを記入し、その紙を交換した後口頭で行う。授業の後半においては英文パラグラフの構成について学ぶ。また作文とResponse sheetの両方に教師がフィードバックを行う。

Sheet
  1. 1.Underline the topic sentence (the sentence that states the dominant idea).
  2. 2.Explain what you like.
  3. 3.Describe where you are confused and wavy underline the words / phrases you do not understand.
  4. 4.Write what you would like further details about. Write any other comments if you have them.
シート147枚とフィードバックした英作文を2名の研究者が分析。インタラクションの分類はMendoca & Johnson (1994)の分類を基に修正したもの。

6 categories = questions, explanations, restatements, suggestions, grammar corrections, reactions,

7 aspects = content, vocabulary, sentence, grammar, paragraph, mechanics, overall


結果、学生は多様なフィードバックをしており、1番多かったのは内容に関するものであった。フィードバックにおいては個人差が見られたが、書面によるフィードバックは多様なインタラクションを生み出し、授業で学んだパラグラフ構成など英語知識を使いお互いに教えあう協同学習の場となりうる。

系統だった分かりやすい研究発表であった。但し研究において気をつけなければいけないのは、自分の主張を正当化するために先行研究における概念をあまりにも単純に使用してしまうことではないだろうか。例えばピアフィードバックにおいては社会文化的アプローチの概念がその根拠として用いられることが多いが、「最近接発達領域(ZPD)」という概念をあまりにも安易に使うと誤解を招きかねない。個人的には英語でフィードバックをさせるという考え方は賛成(他の研究では日本語でさせるものが多いから)。

Liu, J. & Hansen, J. 2002. Peer response in second language writing classrooms. The University of Michigan Press.

Mendoca, C.O., & Johnson, K. E. 1994. Peer review negotiations: Revision activities in ESL writing instruction. TESOL Quarterly, 28, 745-69.

Kondo, Yoshiko. Peer feedback through Bulletin Board System (BBS) in a college writing class.

2002年及び2005年に行った調査と今回のものの間に差があるかどうか、またBBSを用いたピアフィードバックのメリット・デメリットは何かについて調査したもの。参加者は32名で、4人×4つの実験群と同数の統制群に分け、意見文について英作文を行わせた。分析対象はBBSにおけるコメント、推敲による変化、そして質問紙である。BBSにおけるフィードバックのカテゴリーはStanley (1992)に基づきCONTENTにおいてpointing, advising, collaborating, announcing, eliciting, questioning, reacting,FORMにおいてgrammar, spelling, expression, AUTHOR’S RESPONSES, IRRELEVANT (DEVIATED) COMMENTSに分類された。

なぜ日本語のフィードバックなのか、フィードバックにおいて何か指示を与える必要はないのかなど。。。

Stanley, J. 1992. Coaching student writers to be effective peer evaluators. Journal of Second Language Writing, 1(3), 217-233.

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