2011年8月24日水曜日

第37回全国英語教育学会「がんばろう日本、がんばろう東北」山形研究大会

 2011年8月20日(土曜日),21日(日曜日)の日程で山形大学小白川キャンパスにて全国英語教育学会が開催された。開会式は東日本大震災で犠牲になった方への黙祷から始まった。山形大学は原子力発電所から100キロ程度しか離れていないが,放射能の影響はそれほど無いとのこと。僕は飛行機で午前中に山形入りして何の問題も無かったのだけど,19日(金曜日)は東京で大雨,午後3時頃には福島沖で進度5弱の地震がおきるなどトラブル続きで,山形入りに苦労した参加者の方もたくさんいた模様。地震のとき,実はワシントンホテル24階の展望ロビーにいたので,山形では震度3だったものの高層ビル特有の揺れに遭遇し非常に怖い思いをした。というか,地震の揺れを感じるのも久しぶりだった。それはともかく学会発表の覚え書き。

土岸真由美,大澤真也,岡田あずさ
「広島修道大学の英語教育におけるMoodle利用の実態」


 いきなり初日の午前中にあたってしまたんだけど,今回の学会参加の目的の1つ。広島修道大学で導入したMoodle利用の実態についてMoodleの統計機能を利用したデータを提示しながら説明した。主には1)ここ数年のMoodle導入の経緯,2)Moodleを利用したCan-doリスト調査,3)ユーザとしての教員・学生インタビューの分析,の3部構成。メインはインタビュー分析で,教員と学生がMoodleに対していただく意識をコーディングし分類した。今後はMoodleを利用して実施したアンケートの分析も行い,更なるeラーニングの普及につなげていく予定。

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聞きにきてくれた人が少なかったのは残念。全国英語教育学会しかもネームバリューの無い僕たちが「大学でのeラーニングシステム」について発表をするというのは,もしかすると場違いだったかもしれない。でも学会発表を1つの目標にすることで,インタビュー調査の分析を行うことができたので,今後はこの分析結果をもとに学内での普及促進につなげたい。


金志佳代子(兵庫県立大学),大年順子(岡山大学),久留友紀子(愛知医科大学),正木美智子(大阪国際大学),山西博之(関西外国語大学)
「EFL教室における書き直しツールとしてのライティング・ルーブリックの使用ー学生の認識調査と教員の評価結果をもとにー」

 日本の大学・短期大学における運用を目指して独自に開発したライティング・ルーブリック(評価ガイドライン)を,学生による「書き直しツール」として使用した効果を検証するもの。ルーブリックは内容・展開,構成,文法,語彙,綴り・句読点とそれぞれの下位項目から構成されいている(Kinshi et al. 2011. Revising a writing rubric for its improved use in the classroom. LET Kansai Chapter Collected Papers, 13, 113-124.)。一般的にはルーブリックは教師の評価ツールであるが,本発表では学生が書き直しを行うためのツールとしてとらえている。発表の目的は1)ライティング・ルーブリックを参照して書き直した際の認識結果を,質的・量的な側面から分析し,ライティング・ガイドラインとしての有用性を探る,2)ルーブリックを利用した学生のプレ・ポストエッセイの分析的評価,総合的評価を分析する,の2点。
 参加者は日本の3大学の大学生98名(C-Test平均はそれぞれ55.6,54.4,54.0)。手順としてルーブリックとモデルエッセイを提示した上で,英語ライティングの構造を説明。その後モデルエッセイとは異なるトピックについてプランニングさせた後,30分間のライティングを実施しプレ・エッセイを回収。1週間後フィードバックなしのエッセイを返却し,配布したルーブリックを参照しながら各自でエッセイを書き直すよう指導した。書き直し後,ルーブリックがどの程度役立ったかについて調査するため,4段階のリカーとスケールと自由記述からなるアンケート用紙を配布。指導開始から2週間後にプレエッセイ,ポストエッセイ,アンケート用紙を回収した。98名のうち,欠損値の無いことを前提に,英語熟達度のバランスを考え,20名をサンプリングした。エッセイは4名の日本人教員がルーブリックの項目ごと,そして総合的に見た質をそれぞれ10段階で評価した。
 結果,概ね学習者はルーブリックを役に立つものであると感じているが,文法や語彙については意見が分かれる結果となった。またポストエッセイにおいてはルーブリックの各項目,総合評価においてすべてが向上していた(t検定,効果量(r)も提示。効果量は.10以上が「小」,.30以上「中」,.50以上が「大」)。

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ルーブリックがどのような経緯で開発されたのかを知らないので,今後文献を読んでおこうと思う。自律学習の重要性が指摘されることの多い最近,このようにルーブリックを自律学習のツールとして利用するという発想は非常に興味深かった。気になったのはルーブリックの下位項目における記述がとても抽象的なものであるということ。たとえば,「構成」の下位項目として「文章の流れはスムーズである」というものがあるが,どういう書き直しを行えばスムーズになるかということを学習者は認識できるのだろうか?その意味では自律学習のツールとして利用するのであれば,より具体的な例を交えた解説があっても良いのではないかと思った。また実際にルーブリックを見てどのような書き直しをしたかについての質的な分析があると更に示唆に富んだものになるかもしれない。


沢谷祐輔(北海道小樽高等支援学校),横山吉樹(北海道教育大学札幌校)
「ピアレビューにおける学習者の作文能力とピアコメント、修正との関係性」

 
稲垣宏行(愛知県立岡崎西高等学校),山下淳子(名古屋大学)
「第二言語ライティングにおけるメタ言語的フィードバックの役割」

研究課題はメタ言語的フィードバックが宣言的知識・手続的知識を促進させるか,もしそうであれば目標言語項目(テンス・アスペクト,冠詞)によって差があるか,というもの。これらの項目はFerris and Roberts (2001)ほかにおいてフィードバックで習得が可能とされているもの。日本人大学生42名を対象に欠損値を除いた実験群14名,統制群16名を最終的な分析の対象とした。英語力はOxford Quick Placement Testを利用し測定した。
 宣言的知識を調べるものとしてエラーテスト(誤りに下線を引いて訂正し,理由を書く),手続的知識を調べるものとして英検準1級用の4コマ漫画を題材とし,Target-like useの計算式を利用してスコアを算出した(分母:n obligatory contexts + n suppliance in nonobligatory contexts, 分子:n correct suppliance in contexts)。手順として,事前テストを行い,6回のライティングに対するフィードバック処置を実施し,その後に事後テスト,3週間後に遅延テストを実施した。統制群には無いように対するgoodなどのコメントのみを与えた。遅延テスト終了後に両群の8名に対し,半構造化インタビューを行った。結果,エラーテストのテンス・アスペクトはgroupとtimeの主効果が有意,冠詞はgroupとtimeの交互作用が有意,ライティングタスクのテンス・アスペクトはgroupとtimeの交互作用が有意,冠詞はいずれの主効果,交互作用も有意ではなかった。インタビューの結果とあわせて,スコアの推移の方に共通するビリーフは上位安定型(文法への高い意識),ゆらぎ型(内容重視・文法軽視),向上型(L2習得への肯定的態度)の3種類があると考えた。
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まだ発表内容を消化しきれていません。

中村香恵子(北海道工業大学),長谷川聡(北海道医療大学),志村昭?(旭川実業高等学校)
「小学校教師の言語教師認知研究ーモデル化と質問紙の作成ー」


高橋幸(京都大学),金丸敏幸(京都大学),田地野彰(京都大学)
「アカデミックライティングのルーブリック開発に向けた能力記述文の分析」

 アカデミックライティングの技能を図る評価ガイドライン(ルーブリック)の開発に向けて,既存の能力記述文を収集し分析した。分析データは国内外のEAP関連コースを実施している大学のホームページやシラバス,報告書等について調査し,ライティングに関する能力記述文を抽出した(英国10,米国50,カナダ10,オーストラリア10,ニュージーランド5,日本20の計105校)。またCEFR, ACTFL Proficiency guidelinesのライティングに関するもの,TOEFL,GRE,IELTSのライティングセクションの評価項目から能力記述文を抽出した。それらを処理した後,TinyTesxt Minerで分析した。
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今後,実際の開発につながる前の前段階なのだろうけど,興味深かった。京都大学はアカデミックなものに限定している所がポイント。

石川慎一郎(神戸大学)
「Writing, Rewriting, Proof Writingー量的言語指標に見る可変性と不可変性」

 学習者コーパスを利用した学習者ライティングの言語特性の分析は行われているものの,専門家による英文校閲を行わせた場合,フィードバックを与えて学習者にリライトを行わせた場合に元のエッセイがどう修正されるかについての実証研究は十分ではない。そこで本研究ではそれら2種類のエッセイを比較した。利用したデータはInternational Corpus Network of Asian Learners of English (ICNALE)を利用して分析した。
モデル英作文を利用して修正したもの,コーパスの傾向を提示して修正したもの,英文校閲者の修正に基づいて修正したものを比較した結果,この順番に母語話者への近接度が高かった(語彙の観点において)。
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石川先生らしい発表で,ライティング研究の専門家ではあまり考えつかないような新しいタイプの研究であった。コーパスデータを提示して指導する試みは面白いのだけれど,あくまでもテーマが限定されていること(アルバイトについて),そして語彙の点からの分析しか行われていないこと,については賛否両論があるだろう。

鈴木渉(宮城教育大学)
「筆記ランゲージング活動は第二言語学習を促進するか?」

ランゲージング(the act of using language to mediate cognition - to bring thinking into existence, Swain, 2010)について。

Swain, M. (2010). “Talking-it through”: Languaging as a source of learning. In R. Batstone (ed.), Sociocognitivce perspectives on language use and language learning (pp. 112-130). OUP.
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勉強不足で知りませんでした。勉強しておきます。

根岸雅史(東京外国語大学),村野井仁(東北学院大学),高田智子(明海大学),投野由紀夫(東京外国語大学)
「CEFRの日本の英語教育への適用:検証と今後の課題」


「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」にもCan-doの重要性が指摘されている。

現在はCEFR-Jの検証段階。たとえば,実際に作成したレベルを教員が判断できるかどうかを検証するために並べ替えてもらったり,中学生に記述文が理解できるかどうかをやってもらった結果などについてのまとめ。今後の予定としては2012年3月にバージョン1の作成,2012年3月9-10日に公開シンポジウムを開催,ARTE Journal,そして『CEFR-Jガイドブック』を大修館書店から出版予定であることなどが報告された。

その他:
CEFRで作成中のEnglish Vocabulary Profile
British Council - EAQUALS Core Inventory for General English
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基本的にシンブルな方が嬉しいので,このような日本版CEFRを作るという試みは大歓迎だ。その一方でまだ情報不足ではあるけれど,Common Asian Framework of References for Languages(CAFR)なんてものを作ろうとしている動きもあるとか。まあいろんな人たちがいろんな想いで基準を作成するのは良いのだけれど,問題はきちんとそれぞれのリストをマッピングすること。じゃないと作っただけで終わってしまいそうな気がする。CEFR-Jがどんなものになるにしろ,それを軸にして互換性を高めたものにして欲しい。みんなで利用してみんなで批判して,みんなで改善して,そのような動きが出てくれば,日本の英語教育も少しは良い方向にいくんじゃないだろうか。

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ということで全国英語教育学会への参加が終わった。毎年いろんな発表を聞きいろんな刺激を受ける場所。そして1年に1回様々な知人・友人に出会いお互いに旧交を温めつつ情報交換をする場所。今回はtwitterで絡んだことがある人に話しかけてみたり,あるいは見かけたみたり,という新しい交流もあった。今後もライティングだけではなく,様々なことを研究させていただきます。今回発表したテーマは大学におけるeラーニングシステムの活用というテーマだったので,あまり受けは良くなかった模様。おそらくLETとかMoodle Mootの方が受けは良かったかもしれません。オーディエンスを意識した発表を考えるというのも重要ですね。オーディエンスが少な過ぎると落ち込むので(笑)。

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