2009年8月12日水曜日

全国英語教育学会2009覚え書き

 2009年8月8日(土曜日)~8月9日(日曜日)に鳥取大学湖山キャンパスで開催された全国英語教育学会に参加した。大学院修士課程から現在に至るまでの自分の研究の礎になっている学会なので、知っている顔もあり参加するたびにホームに帰ってきた気がする。発表者も中、高から大学の教員、そして大学院の学生まで幅広く、同じ時間帯に20室近い教室で発表が行われるという、おそらく英語教育の分野では1、2を争う規模の学会であろう。長かった梅雨も終わり、汗ばむ夏の日差しの中で行われた研究大会、幾つかの感想を(関係ないけど、鳥取ほっこり(日本語か?)してて良い。けど都会と田舎の格差がここまであると日本の将来は危ういな)。

木村恵・杉森直樹 「E-learningによる継続的エッセイ・ライティングの効果検証」

 オンラインによるピアフィードバック活動を取り入れた新しいエッセイライティングのためのE-learningシステムを作る『「エッセイ・ライティング用e-learning教材+学習者間評価システム」の構築』プロジェクトの一環。
 対象は英語学科でE-learning: Short Essayの授業を受講した1年生50名(TOEIC750点以上)。春は対面式、秋学期は非対面式で週1回エッセイを提出した。ステップとしては、1)ETSのCriterionを用いてエッセイを提出、2)パートナーとのエッセイ交換、添削、評価、3)エッセイを受け取る、というもの。2)、3)については開発中で、今後はこの作文データを用い学習者コーパスを作成し、ICLEとの比較も視野に入れている。収集されたエッセイは951.総語数は約38万語、トピックは24、トピックあたりの語数は398.7語。平均スコアは4.8(4~5.5)。L2ライティング及びコーパス言語学にかかわる先行研究(Wolfe-Quintero, K., Inagaki, S., & Kim, H.-Y. (1998). Second Language Development in Writing: Measures of Fluency, Accuracy, and Complexity (Technical Report #17). University of Hawai'i: Second Language Teaching and Curriculum Center.、Brown, 2000など)を参考に以下の指標を採用した。

流暢さ:
総語数
統語的複雑さ:
平均文長、接続詞の正規化頻度、前置詞の正規化頻度、to不定詞の正規化頻度(CLAWSを用いる)
語彙的複雑さ:
語彙の豊富さ、語彙密度、語彙の洗練度(JACET8000を用いてLexical Frequency Profileを作成)
内容の複雑さ:
一般的・抽象的語彙の正規化頻度(USASを用いて付与された意味タグのうち、general and abstract termsと判定された語)、心的行動・状態・過程にかかわる語彙の正規化頻度(意味タグのうちpsychological actions, states and processesと判定された語)
談話構造の複雑さ:
談話標識(プログラムによって付与された接続詞タグとそのほか同標識を数え、その頻度を正規化)

 通年の授業を4つの期間に分け、それぞれの平均値を分散分析した。結果、総語数のみ有意差がみられた。またJACETのレベル2の語彙使用数に関しては微増がみられた。
 自分が現在興味を持っていることもあり、非常に有益な情報を得られた発表であった。発表者も述べていたが、内容の指標に関してどのような指標を用いるかについては今後も検討が必要であろう。気になったのはこの分析を行うことによって何を見たかったのかということ。もしも1年間の授業を通しての英語ライティング力の伸びを見たいということであれば、総語数しか有意差無いという結果には疑問が残る。

平井愛・堀智子・磯部ゆかり・泉惠美子・里井久輝・薮内智
「絵描写課題における統語構造の質的分析」
杉浦香織・門田修平・斉藤倫子・中西弘・中野陽子・森下美和
「日本人英語学習者の統語産出傾向―絵描写課題における量的分析から」
 
 第一印象。発表者が多い。。。若手が多い。。。羨ましい(このような研究環境があることが)。2番目の発表はマックのKeynoteを使っていた。かっちょいい。それはさておき。。。
 絵描写課題を用い文産出について調査した結果の報告。ターゲットとした構造は二重目的語構造、受動態、接続詞、心理動詞を含む文。対象となったのは450名の大学生。40名の大学生を対象に行ったプリテストの結果選ばれた絵30枚とフィラーの絵6枚。順序効果の出ないように3種類のパターンを作成し、問題パターンは6種類となった。幾つかの具体的な絵も提示されたが、被験者は絵を提示され下の余白に1文の英語を書くというタスク。今後行う予定の統語プライミングの基準データとなるもの(?恥ずかしながらプライミングの意味が良く分からない。辞書によると先行する事柄が後続する事柄に影響を与えること)
 様々なデータが提示されたのだけれど、学習者の統語構造の選好性を見るために絵を利用したが、これは発表者自身も認めていたように思ったほどターゲットとした統語構造が産出されないという結果が表れていた。そしてこれはフロアからも意見が出されていたが、選好性というよりも絵の選択に難があったのではないか、あるいはこのような実験で用いる統計的手法に問題があるのではないか。学習者はどこまで考えて統語構造を使い分けているのか。例えば受動態と能動態なんて単純に書き換え可能であるとか、どちらを好んで使う、とか言うのではなくきちんと状況に応じて使い分けすることが出来ているのだろうか。この辺りのポイントを今後の研究発表で聞いてみたいと思う。また結果の解釈をJEFLLコーパスに求めていたりしたけれど、タスクが異なるのだから、無理に先行研究に解釈を求めない方が良いのではないかと感じた。いずれにせよ、たくさんの批判的意見も出たけれど、それだけ分かりやすいそして興味深い発表だったのだろう。

久留友紀子・正木美和子・金志佳代子・山西博之
「授業で使えるライティング・ルーブリックの開発―具体的な解釈例の提示の試み」

 JACET関西支部ライティング指導研究会第8次プロジェクトにより開発されたルーブリック(Nishijima, H., Hayashi, K., Masaki, M., Kinshi, K., & Kuru, Y. 2007. Developing a Writing Rubric for Classroom Use in Japanese Higher Education. JACET Journal, 45, 109-116.)を検証する試み。ルーブリックは分析的評価で内容・展開、構成、文法、語彙、綴り・句読点の5つの評価項目が4つのレベルにおいて規定されている。今までの研究結果に基づき、本研究では1)descriptorの困難な点、判断に食い違いが起こりやすい点を明らかにする、2)descriptorに変更を加え解決を図る、3)評価を行う際に必要となる具体的な解釈の例を作成する、を目的とした。大学生が書いた自由英作文をメンバー5人がそれぞれ分析した結果の報告。分析手法は一般化可能性理論の分散成分推定値を利用した。その結果を基に各項目における下位項目の特定、下位項目ごとにスタンダードを示す必要性、グループやコースの目的に合わせて相対的に評価できるようにレベルを設定する、などの改善が行われた。
非常に興味深い研究でした。しかし日本の英語学習者向けの評価基準という割にはあまり独自性が感じられなかったのが残念。

長橋雅俊
「日本人英語学習者におけるライティング・プロセスの研究―作文行為の量的観測と作文結果の関係―」

 SasakiやHiroseらはビデオ録画やプロトコルを利用し、書き手の行為を観察してきた。本研究はビデオ録画及びプロトコルを用いてサンプル数を高めた量的分析の可能性を探るもの。リサーチクエスチョンは1)草稿(planning)、推敲(drafting)、修正(revising)の過程においてどのような違いが見られるか、2)書き手の熟達度によって、作文過程にどのような違いが見られるか、3)個々の作文の運用は、プロセスにおけるどのような行為の違いが関係するか、の3点。参加者は大学生45名、大学院生11名(多様な専攻)の計56名。熟達度テストとして英検準2~準1級の語彙・熟語、文法、英検準2および2級の構文整序、TOEFL Practiceの文法性判断から計20問(信頼性 Cronbach’s α=.81)、TWEにならったタスクをCriterionで6段階で採点した。手法としては参加者の手元の様子をビデオ撮影した。そこでえられたデータを以下のように変量化し、クラスター分析に投入した。

Planning (1)下書き時間(秒)、(2)L2下書き文字数、(3)L1下書き文字数
Drafting(4)実質的なDrafting時間、(5)drafting開始後6分間の文字産出量
Monitoring & Revising(6)終了6分前の文字産出量、(7)消しゴム/訂正線で削除された文字数

RQ1:
Cluster 1:下書きの量は最少、総語数において最も流暢、実質的なDrafting時間最長
2:1に次いで流暢、違いはポーズの頻度・長さ
    3:Planningがやや長く、下書き量が最も多い
   4:Planning最長、総語数・削除量が最少→推敲せず下書きから清書へ転記したものが大部分。
   5:Planning時間が短く、下書きの量が1に次いで最少、ポーズが多い→実質的なdrafting時間が短い。

RQ2,3:
 流暢な書き手は、産出する言語量だけでなく、削除の量も多い。流暢さの面で、見熟達者は削除量も少ない。

RQ3:
 下書き時間は長いほど良いとはいえない。メモにとどめ適量で推敲にうつるべきl。

その他:
序盤と終盤の言語産出量に統計的な有意差なし、熟達者に特徴的とされる見直し行為が量的に確認されなかった。理由として考えられるのは、1)見直し、校正を慣行とする書き手が少数だった、2)より短時間で行われていた、3)推敲の途中で繰り返されていた、など・
 近年この発表者の研究を聞くことが何度かあったのだけれど、深い統計の知識を持った緻密な研究を行う方だと思う。ライティングのプロセスを量的に分析しようとという試みは面白いけれど、単純な量ではなく、質的な要素をカテゴリーしたうえで量的分析を行うなどしないと面白い結果がでないのかもしれない(言ってることが的外れかも)。プロトコルも取っているらしいので、今後の研究発表にも期待したい。

山西博之
「日本人英語学習者のライティングにおける方略使用、熟達度、複雑さの関係」

 ライティングのプロセス、プロダクト、熟達度の関連を探る研究。具体的には、それぞれ作文方略、統語的な複雑さ、英語運用能力テストGTECのライティングパートの点数の関連。対象者は国立大学の1年生179名。GTEC for STUDNETSの平均スコアは485(800点満点)。
 とても緻密な研究だと思いますが、結果は当然といえば当然の結果(発表者本人も言っていたけれど)。

石川智仁.2005.「EFLライティングにおける構造的複雑さの発達指標と熟達度の関係の検証:タスクに基づくアプローチ」.JACET Bulletin, 41, 51-60.
水本篤・竹内理.2008.「研究論文における効果量の報告のためにー基礎的概念と注意点―」.Studies in English Language Teaching, 31, 57-66.
Yamanishi, H. 2009a. Developing a questionnaire to assess Japanese high school students’ writing strategies for expository compositions: A pilot study. Studies in English Language Teaching, 32, 33-42.
Yamanishi, H. 2009b. Japanese EFL learners’ use of writing strategies: A questionnaire survey. 『JACEAT関西支部ライティング指導研究会紀要』8, 53-64.

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すごく綿密な研究が数多く行われているのだけれど、数字や統計手法を扱った研究が盛り沢山。時折英語教育研究の発表を聞きに来ているのか、数学の勉強をしているのか分からなくなることもある。それはさておき、たくさんの刺激を受けました。

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