2009年8月12日水曜日

外国語教育メディア学会(LET)2009覚え書き

 外国語教育メディア学会(LET)の第49回大会が「外国語教育のパラダイム:認知、脳、社会文化の統合に向けて」というテーマで、神戸市の流通科学大学で行われた(8月4~6日)。大会期間中に停電(?)がおき、空調が効かないなどというトラブルもあったが、その分熱い研究発表が数多く行われた。以下、幾つかの発表のまとめ。

小栗成子・柳朋宏・伊藤嘉奈子
「使える英文法習得のために優先すべきことーEFLライティングにみられる誤用傾向からの再確認―」

 2004年度から行ってきたオンラインでの添削指導で得られたデータに句読法、冠詞、前置詞、語彙選択、時制、態、不要語、必要な語の欠落、分割、統合、表現など20種類のエラーをタグ付けした。その結果、語彙選択上の誤りなど、動詞に関する誤りが多いことがわかった。そこで、動詞を中心に分析した結果、(1)名詞との不適合、(2)be動詞・一般動詞の混乱、(3)日本語の影響を受けたもの、(4)アクションイメージの欠如、に分類できた。
 本研究では和文英訳の質問紙を用いた調査(高校生650名、中学生300名、大学生1450名)の結果が報告された。質問紙は穴埋め形式で以下のようなものである。

[和文]朝食は何を食べますか?ふつうごはんを食べます。
[英文]What do you have (eat) for breakfast? I usually have (eat) rice.

 自由英作文のデータではなく、質問紙を用いて短文レベルの英語を分析するという手法は大規模調査において有効であり参考になった。このような研究に共通することだが、エラーのタグ付けをする際に何を参考にしたのか、及びその信頼性はどの程度のものか、またエラーの分類を行う際にはどうしても研究者の主観が入り込んでしまうが、分類が重複すると思われる際にはどのように解決したのか、について詳しく知りたいと思った。

西本有逸・新城岩夫・佐藤雄大・水野邦太郎
シンポジウム「認知・脳・社会文化を統合する視座と実践」

 大会のテーマにもなっている3つの視点を統合する試み(認知や脳についてはあまり触れられていなかったけれど)。その中で,水野邦太郎先生が実践されるIRC (Interactive Reading Community) http://ilc.eknowhow.jp/ の紹介を社会部中的な枠組みで説明された。社会文化的アプローチを取り入れるとどうも議論が哲学的になったり抽象的になったりしてしまいがちなのだけれど,実際にこのような試みとして行なわれているのは注目に値すると思う。

 
青木千加子
「プランニング活動としてのCMC (Computer-Mediated Communication)がもたらす第二言語習得への可能性」
 
 プランニング時に用いるチャットと,後のスピーキングタスクにおける意味交渉の分析。非英語専攻の大学2年生14名を対象とした。チャットのログとICレコーダーを用いて録音したグループディスカッションログデータはCOLTを用いて分析した。うーん,いろいろ思った気がするけど記憶が無い。

Spada, N., & Frohlich, M. 1995. COLT Observation Scheme. National Center for English Language Teaching and Research.

竹井光子・岡田あずさ・大澤真也
「効果的なブレンディングを目指して:第二言語習得研究からの示唆」

 広島修道大学で2007年度から導入された「修道スタンダード」と呼ばれる科目群の中に位置する「e-learning英語」をどのように改善してきたかということに関する実践報告。2007、8年の反省から授業外におけるeラーニングと授業内における対面学習をどのようにブレンディングさせるかについて、2009年度から行った授業についての報告を行った。キーワードは第二言語習得におけるinput, attention, noticing, focus on meaning, focus on form, explicit grammar instruction, outputなど。発表においてはTOEIC Bridgeのスコアの伸びなどの提示しながら説明を行った。
 このような実践報告にはつきものであるが、スコアの伸びがどの要因に起因するものかは明らかではない。このあたりの評価法については今後検討していく必要があると思われる。けれどもこのような場で問題意識を共有し、今後のeラーニングの発展について考えていくことは非常に重要だと思われる。

宮添輝美・神田明延
「LMSを用いたEFLブレンド型授業設計: BBSディスカション、Blog、Wikiを用いて」
LMS(Learning Management System)、moodleに展開したブレンド型の英語ライティングの実践例についての報告。moodleを使った実践はやはり面白そうだ。

小山敏子 「電子辞書使用の方略指導」

 以前に行った実践で暗示的に方略指導を行った場合にはあまり効果がみられなかったので、今回は明示的な方略指導を行った。対象は人文学部2年生14名で読解力を養成するクラス。事前に実施したクローズテスト(45語)の結果から、習熟度は初中級レベルと考えられる。テキストのユニットごとにジャンプ機能を用いて英英辞典で調べて記述する自宅学習用のプリントを用意した。このプリントの活用を動機付けるため、ユニット終了後に行う復習テストには語彙の定義を選択肢から選ぶ問題も設け、学習者はテスト時にプリントを用いることができた。
 このタスクを8週間実施し、実施期間の最初と最後に英文読解問題を配布し、電子辞書を用いて解答させた。またこのときに各自がとった辞書検索行動をたずねる質問紙を配布した。質問紙の内容としては

「辞書を引く前に、調べたい単語の意味を推測した」
「目的の単語を見つけてから、発音記号をチェックして、実際に発音してみた」

など。結果、明示的な方略指導は十分に定着していないことが示唆された。

 継続的な調査に基づき、実践をされているということで非常に参考になる。けれども、調査研究という意味では幾つかの疑問も残った。

1)        明示的、暗示的指導という言葉を用いているが、言語習得で用いられる明示的・暗示的という言葉との齟齬があり、誤解が生じるのではないか。
2)        学習者は賢いので、プリントを行う際に「テストで点数を取れる」ための辞書検索方略を身につけたのではないか。テストにおける語彙を問う問題が選択肢であることから、電子辞書を活用しなかった可能性も考えられるのではないか。
3)        電子辞書を利用する最終的な目標は何なのだろうか。方略を効果的に用いて語彙の習得、あるいは英語力を向上させることだと考えると、指導前後における使用法略数の増減だけでは理解できない側面もあるのではないか。

===============================
 最近恒例になりつつある学会出張ウィークの第1弾。外国語教育メディア学会にはあまり知り合いがいないのだけれど,業者さんの展示という意味ではこの学会が一番だと思われます。

0 件のコメント: