2010年9月27日月曜日

第36回全国英語教育学会

 2010年8月7、8日に関西大学千里山キャンパスで行われた第36回全国英語教育学会に参加した。以下、いくつかの発表の覚書。備忘録を書くまでにだいぶ時間が空いたので,主に研究手法の羅列に留めておく。

久保田章(筑波大学大学院).中学生の文レベル・談話レベルの英作文の複雑さと英語熟達度.

 学習者の熟達度と英作文の複雑さの関係,タスクの違いと英作文の違いの関係,の2つを研究課題として設定し調査を行った。対象者は中学生450名で,英語熟達度テスト(語彙・文法・読解・作文,全52問,四者択一式,45分)により,上位,中位,下位グループに分類。またライティング・テストとして文レベルのもの3つと談話レベルのもの3つ各15分を課した(辞書は私用せず,日本語の使用は認める)。英作文の文法的複雑さについてはWolfe-Quintero et al. (1998),望月他(2009)に基づき,Clause per T-unit,Dependent Clauses per Clause,Denpendent Caluses per T-unit,Clauses per Sentencesの4つの客観的指標を用いた。結果,談話レベルのタスクの方が複雑な文章を書く傾向にあること,一部を除いて多くのタスクと熟達度テストの間にかなり強い桑乾河見られた。また従属節よりも節を単位とする指標の方が相関は高かった。また節を単位とする指標はどのタスクにおいても実力差が現われるが,従属節の使用については談話レベルのタスクの方が,実力差が現われやすい。

久山慎也(広島県立安古市高等学校).論理的表現力を高めるための作文指導が高校生の作文方略に与える影響について.

 高校英語Iの授業無いで論理的表現力育成のための自由英作文指導を高校1年生78名を対象に計20回行った。1回の指導は10分程度で,論理トレーニング(6回),早書き指導(5回),誤文訂正活動(8回)等を行った。文法テスト,自由英作文特典,および作文の総語数の3特性を用いクラスター分析を行い,4つのクラスターに分類し,それぞれにおける作文方略を質問紙(4件法)で調査した。

実践の詳細はここで2010年10月に公開予定だそうなので,期待しています。

高田智子(明海大学)・緑川日出子(昭和女子大学).日本の学習環境におけるELP応用の可能性を探る.

 時間内で理解するのは難しかった。興味がある分野なのだけど。

馬場千秋(帝京科学大学).大学生初級・中級英語学習者の英作文に見られる差異―質と量はどのように違うか.

 ライティングに関して継続して研究をされている馬場先生の発表。今回の研究の目的は大学初級学習者と中級学習者の英作文の量的な違いおよび文法上のエラーの傾向の違いを明らかにすること。大学1,2年生60名を模擬問題集による換算の結果470以上・以下に分ける。授業中に15分,テーマを与え自由英作文を書かせた(If you were a billionair, what would you do?”などのテーマ)。辞書の使用は可。その後初級者,中級者の英作文を50ずつ無作為に抽出し,総語数,T-unit数,error-free T-unit数,1T-unitあたりの平均語数,全T-unitにおけるerror-free T-unit数の割合を産出し,違いを分析した。また文法上のエラーを分析するためにタグ付けコンコーダンサーにより分析した。

量的相違:

総語数:中級は初級の3倍,T-unit数:中級は初級の3倍,error-free T-unit数:中級は初級の3倍,1T-unitあたりの平均語数:差はなし,1T-unitあたりの平均語数:差はなし,全T-unitにおけるerror-free T-unit数の割合:中級60%以上に対し,初級は50%未満。

などなどの結果。

柏木哲也.(北九州市立大学).英語熟達度は日本人英語を改善できるのか:Argumentative Writingにおける過剰・過少使用傾向と母語の影響.

Hinkel (2002)の使用した語彙・文法特性を基本に28の大分類,71の小分類に分け,L2熟達度との順位相関を出す(マン・ホイットマンのU検定)。225名のArgumentativeのエッセイをコーパス化,TOEICのスコアとの相関を計算,またWordsmithのキーワードリストを使い過剰使用語,過少使用語にみられる共通傾向を分析,またLOCNESSを用いて比較分析した。調査項目としては語彙・テクストの複雑さをみるためにT-Unit,標準化されたTTR,平均語長,文長,語数。

根岸雅史(東京外国語大学)・村野井仁(東北学院大学)・投野由紀夫(東京外国語大学)・高田智子(明海大学).CEFRを英語教育評価の枠組みとして考える.

 今回,学会に参加した目的の1つは本学でも実施しているCan-doアンケートに関する情報を得るため。この課題研究フォーラムではそういう意味でCEFRに関する情報を得る事ができた。以下,幾つか覚えていることを箇条書きにしておく。

・CEFR-Jというプロジェクトが進行している。もう既にほぼ完成している?

・現在Cambridgeで進められているEnglish Profile CorpusというプロジェクトにおいてCambridge Learner Corpus(CLC)を増強しているがCEFRのAレベルにおけるデータが足りないという現状がある。日本のJEFLL Corpus,NICT JLE Corpus(アジアに関してはCEEAUSも?)などはAレベルのデータが含まれている貴重な資源と考えられる。

以下は幾つか印象に残ったもの。

井上聡(神戸大学大学院生).日本人英語学習者の知覚動詞運用:学習コーパスに基づく研究.

長沼君主(東京外国語大学)・永末温子(福岡県立香住丘高等学校).Can-Do評価―学習タスクの導入による能力および自己効力の変化の検証.

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だめだ,やっぱり時間が空くと備忘録にもならないものしか書けない。それはともかく,全国英語教育学会の発表数には毎年のことながら圧倒される。予稿集なんてもう電話帳並み。この学会に参加するメリットは英語教育研究におけるいろいろなジャンルをほぼ全て網羅出来ること,英語教育研究における研究手法についての知識を得る事が出来ることかな。今年の新たな試みとして行われたランチョンセミナーは良い企画だと思う(会場がいっぱいすぎて立ち見がでるほどだったけど)。なぜこんなに発表数が多いかというと,英語教育研究に関する学会においては最も限定されていないものであること(小学校やメディアやら,冠が付いていない),そして発表することによって学会誌へ投稿する権利が与えられるという所にあるのではないだろうか。それにしても発表数が多過ぎる!発表もしない自分が言えることではないけれど,レベルが低い発表もある。特別講演を待っている間,後ろに座っていた学会経験者と初心者の会話:

初心者:この予稿集すごいですねー。

経験者:これにきちんと目を通しとかなきゃダメだよ。ハズレの発表とかあるから。

今や日本を代表する権威のある学会なのだから,発表も審査性にするとかしないのかなぁ。そうすると聴く側も移動に疲れるとかあまりの発表の酷さにがっかりする,なんてことが無くなると思うのだけど。。。(その前にちゃんと発表しろ,自分)

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