2009年12月8日火曜日

第1回初年次教育セミナー

 2009年12月4日(金曜日)、広島修道大学にて学習支援センター主催の第1回初年次セミナーが開催されました。講師は帝塚山大学の岩井洋先生。以下、覚え書き(『』内は個人的な感想)。
 話は「初年次教育とは何か」、「リメディアル教育の失敗に学ぶ」、「アクティブ・ラーニングの手法」、「アクティブ・ラーニングのデザイン」、「シームレスなプログラム策定にむけて」という5つの柱から構成されていた。

初年次教育とは何か
 大学への円滑な移行と大学生活への適応を促進する教育プログラムの総体であり、個別のプログラムというよりも哲学としかけが必要だと強調された。初年次教育の必要性については大学のユニバーサル化(高等教育進学率が50%をこえたときにおこる質的変化)など言うまでもないが、現在では文部科学省の調査(2008)によれば全国の71%の大学が行っている取り組みである。その内容としてはスキル型とモチベーション型の2つに分かれる。具体的な実戦例としては入学前教育の実施(人間関係づくりに重点)、フレッシュマン・ウィークの実施(入学式から1週間)、スキル・モチベーション型の複合型プログラム、アクティブ・ラーニングの導入、eポートフォリオの導入(関西国際大学で開発されたものが市販予定)、などが挙げられる。『フレッシュマン・ウィークという概念は非常に面白いし、本学でもやるべきだと感じた』

リメディアル教育とは
 いわゆる補習教育(Developmental Education)。文部科学省の見解では正課外の授業であり、初年次教育とイコールではない。これが失敗した原因は野放しにeラーニングを導入しメンタリングをしなかったこと、そして高校の英語、国語のやりなおしというスキームから脱却できなかったこと、だと指摘された。『リメディアル系の学会に行くとeラーニング教材が多数展示されていたりするのだが、確かに人的なサポートについてはあまり触れられていない気もする』

アクティブ・ラーニングの導入
 優れた授業実践のためには以下の7つが必要。

1.学生と教員とのコンタクトを促す
2.学生間の互恵と協力を促す
3.能動的な学習を促す
4.すみやかにフィードバックする
5.時間の大切さを強調する
6.学生に対する高い期待を伝える
7.多様な才能と学習方法を尊重する
(Chickering, A.W. & Gamson, Z.F. 1987. Seven Principals for Good Practice in Undergraduate Education, AAHE Bulletin.)

 実践例としてキーワード・ビンゴ、新聞記事を使ったジグゾー学習(ひとつのテーマにかかわる課題を複数に分割し、各自が1課題を担当)、図解ワーク、思考のモードチェンジ(難解な語を言い替えさせる)、検索の達人(Wikipediaのみでは検索できないようなものを与える)などを提示された。『岩井先生が実際に授業で用いられている手法のようで、すぐにでも授業に応用可能な手法の宝庫だった。先生も言われていたが、初・中等教育で用いられているテクニックを応用するのも非常に有効である』

アクティブ・ラーニングのデザイン
 
デザインする時には全体と部分の関係を意識しなければならない。つまり科目の到達目標の設定から身に付けさせたい知識・技能の設定を行った上でワークをデザインしないといけない。単純なことではあるが、グループワークをいきなりやるとさぼる学生がいるので、個人ワークをやった上でグループワークを導入するという流れも重要である。具体的なデザイン法としては抽出、変換、連結、再構成、分解、などが考えられる。手法と素材は同一でもどちらかを変えれば全く新しい活動になるのである。『仕込みが8割という言葉には共感した。またワークシートには枠をつけた方が良い、など単純な提案も興味深かった』

シームレスなプログラム策定にむけて
 最後に時間が不足してしまったのだが、初年次から始まり2年次にある落ち込みの時期と3年次に入ってから就職活動がスタートする時期の間をどのようにブリッジするかが重要だということを指摘されてセミナーは終了した。

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 今まで複数の講演を聞いてきたけれど、今回のセミナーは3本の指に入る面白さであった。今までアクティブ・ラーニングと言うと、海外から輸入された手法をそのまま紹介しているような感じがして何か馴染めなかったのだが、今回は岩井先生ご自身が使われている手法をたくさん紹介して下さったので、非常に現実味あふれるお話だったと思う。アクティブ・ラーニング=授業の素材をどのように調理するか、ということなのかもしれない。このような新しい概念が入ってくると毛嫌いする大学教員の方が多いのだが(私も含む)、学生の満足度を向上させるために少しぐらいの努力は必要である。とは言いつつ個人的な理想は「90分間、板書もせずPowerPointなどの道具も使わず、喋りっぱなしの授業なのに、学生は誰も寝ない」である。でもこれができない内は小細工と言われようとアクティブ・ラーニングの導入などの努力は教員の義務だろう。セミナーの合間に「道具へのこだわりが重要」とおっしゃられていたが、裏写りしないペン、大型のポストイット、そして何よりセミナーで使われたPowerPointのスライドを見れば、いかに先生ご自身がこだわりを持っているかが理解できた。

 セミナーではないのだけれど、セミナー終了後、学習支援センタースタッフで先生を囲んで行った懇親会での話はこれまた刺激的で飲み過ぎてしまったことを追記しておこう。学会でもそうだが、真剣な話は実は夜に行われていたりする。

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