2009年12月1日火曜日

学会創立30周年記念 大学教育学会

 大学教育学会2009年度課題研究集会が11月28日(土曜日)、29日(日曜日)の日程で行われた。統一テーマとして設定されていたのは「学士課程における教養教育再考」。1日目の会場は御堂会館、2日目の会場は大阪市立大学杉本キャンパス学術情報総合センターであった。以下、覚え書き。

一日目
鷲田清一(大阪大学総長)
「教育への問いかけ」
 
 教育における倒錯を幾つか具体的に述べ、大学教育として身につけるべき能力は「分からないものに分からないまま対応する」タフな知性が必要と結論付けた。具体的には、大阪大学では大学院においても教養教育を始めたということである。具体例を多く交え、聴衆を意識した話し方でとても興味深かった。

シンポジウム
「学士課程における教養教育のあり方」
後藤邦夫(学術研究ネット)
「教養教育」の再定義とカリキュラムの設計、運営、評価
藤田英典(国際基督教大学) 「
グローカル化」時代の学士課程教育と教養教育
奥野武俊(大阪府立大学)
「学修成果」目標の策定とそれに基づく教養教育のあり方」

盛りだくさん過ぎて消化に時間がかかりそうなのだけれど、カリキュラムの構造として挙げられた2つ、  「統合型」:ヨーロッパの古典的大学。プログラム完結時の統合的評価。  「モデュール型」:アメリカ、日本の4年生大学。コースごとの達成を積み上げる。

 日本は両者が混在しているという問題の指摘が面白かった。その他、興味を持ったことは以下のとおり。

フンボルトの理念 教師は研究者、講義は知識の伝達だけではなく真理を探求する姿を見せる、知的な興味を持たせる、学生は一人の真理の探究者、自ら学習する。

島田博司「大学授業の生態誌」近年の学生についての本

二日目
シンポジウム
「学士課程教育」はどうあるべきなのか?

杉谷祐美子(青山学院大学)
「学士課程教育」というコンセプトはどのようにして生まれてきたのか~歴史から現状へ~
山田礼子(同志社大学)
「学士課程教育の現状と課題」
濱名篤(関西国際大学)
「学士課程教育」のこれからの行方~課題から解決(策)へ~

 1980年代半ば、米国における大学教育改革論の盛り上がりからundergraduate教育が導入され、現在の「学士課程教育」と言う言葉が生み出された。その歴史的背景から現在の課題およびその解決法までを概観したシンポジウム。知らないことが多かったので非常に興味深かった。また指定討論者として登壇された羽田貴史氏(東北大学)のコメントは刺激的かつユーモアに富んでいて面白かった。アメリカで採用されているようなCLA (Collegiate Learning Assessment)を用い、大学卒業時の能力を共通で測定すべきか、学外有識者を参画させ、評価をより客観的なものにするべきか、などの視点が取り上げられた。決してそうではないのだろうけれど、「アメリカの大学教育がベストだ」という前提があるような気がしてしまう。近年大学現場においてはいろいろな意味で締め付けが厳しくなってきているけれど、それが悪い意味ではなく良い意味であれば問題ないのだろうけれど。。。

シンポジウム
「大学人」能力開発―学生を視野に入れて考えるー

佐々木一也(立教大学)
これまでのまとめと展望
本郷優紀子(桜美林大学)
学生を視野に入れた職員企画の教職協働
秦敬治(愛媛大学)
学生目線からのFDとSD

教員研修(FD)と職員研修(SD)から「大学人」としてのスタッフ・ディベロップメントへという発想の転換。および学生を視野に入れることの重要性を指摘したシンポジウム。

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最近「学士課程教育」という言葉をよく聞くが、その背景などを聞くといろいろな思想が含まれているものだということが良く分かった。大学教育に携わっているという意味では関係者ではあるものの、こういった話は門外漢なので、難解な話だと思ったと同時に勉強になることも多かった。この学会での話が国の大学教育における政策決定にも影響力を及ぼすことが多いということであったが、だからこそこういった問題に様々な分野から様々な人が参加し慎重に議論をしていくべきだろう。毎回のように同じ人が話をするといったことになってしまうと、話の流れが議論の前に決定されてしまい、それが学会の総意として国の政策に反映されてしまうのではないかという危機感も感じた2日間だった。

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