2010年3月16日火曜日

カナダにおける学習支援の実態その1

 2010年3月13日(土曜日)~18日(木曜日)の日程でカナダのKwantlen Polytechnic Universityへ視察へ行った。今回の目的は本学の学習支援センター設立の際にお世話になったUNBC (University of Northern British Columbia)のLynさんに会いに行くこと。今までの経緯は、2006年度に本学からUNBCへ視察、2007、2008年度には本学にLynさんを招聘しワークショップを開催、そして2009年度は再び本学からの視察という流れだったのだけれど、今回は日程の都合でUNBCは取りやめ現在Lynさんが所属するKwantlen大学のみへの視察となった(University of British Columbiaにも行ったが)。以下、移動などを除いた三日間の視察のまとめ(写真についてはこちらから)。
 Kwantlen大学は近年collegeからuniversityに変わったということで、いろいろな試行錯誤を行っている。学生数は17,000人。Richmond, Surrey, Langley, Cloverdaleの4つのキャンパスを所有している。

<1日目>
 今日の予定はKwantlen大学の4つのキャンパスのうち、3つのキャンパスをめぐること。まず1つ目はRichmondキャンパス。アート系の学生が多く通うキャンパスで、ESL (English as a Second Language)に焦点をおいたサポートを行っている。待ち合わせの時間まで時間があったので、建物内を見て回ったが、非常にコンパクトに全ての施設が集まっている印象。Learning Centreは現在1つの部屋が割り当てられているが、今後図書館の中に移転する計画らしい。大学内の廊下に設置されていたハンドアウト、Study Skills(Success Skillsと呼んでいた)に関するテーマは以下の通り。

Getting the Most from your Reading
Tips of Effective Note-Taking
Tips on Managing Test Anxiety
The 4R Method of Note-Taking
An Introduction to Assertiveness
Tips on Managing Public Speaking Anxiety
Tips on How to Study Effectively
Tips on Time Management
An Introduction to Stress Management
Test-Taking Tips
Tips on Managing Procrastination
Tips on Multiple-Choice & Essay Questions

 これらはCounselling Servicesが提供しているようだが、これはLearning Centreと連携しているのだろうか?(ここについては今後スタッフに確認予定)。どちらにせよ具体的な試験対策から心理的なサポートまで幅広く行っているようだ。

 ここではスタッフのJoanさんから2010年に1月に導入したTUTORTRACというシステムについて説明してもらった。これは学生が勉強に関するサポートが必要な時に、全てオンラインで予約できるというもの。チューター側の予定も全て管理されているので、2週間の期間の間でどのチューターが面談可能かを知ることができ、即座に予約ができる。チューターも出来る限り面談の記録を残すことによって、学生に関する情報を共有している。学生はその他にもmoodleやM drive、resource centreなどのオンラインの情報源を利用している。(どうやら成績などの管理システムとは別のよう)。

<その他に聞いた質問の覚え書き>
Q:学習サポートをする人たちの育成について
A:様々な立場の人がいる。基本的にはマスターレベルの学位を有している人が多い。
Q:ワークショップの参加への促し方
A:特に本学と変わらない様子。ただし5名限定などグループを形成してワークショップを運営している。授業との単位上の連携は特にしていないが、ワークショップではより具体的な内容を扱うよう留意しているらしい。

Surreyキャンパス
 去年の秋(?)から図書館にLearning Centreを移転した。いわゆるLearning Commonsの形式。書籍やPCなど全てが1つの建物内でアクセス出来るためとても便利。ただ1つの裏話としては図書館の中にあることによって学習環境のアクセスは向上するが、以前のようにセンターが独立した形の時に見られた学生のコミュニティー意識はなくなってしまう、とのこと。具体的には今までは1人あるいは複数名のグループでの学習相談の事前予約が多かったのだが,現在はdrop-inと呼ぶいわゆる立ち寄りの形式が多くなったとのことである。このあたりについては現在原因を調査中し改善に務めているらしい。ここでは、たまたま雑談をしている時に話題になったAcademic Boost Campについての話を主に伺った(日程についてはこちらを参照)。これはいわゆる学業不振に陥っている学生を対象にしたもので、LASSI (Learning and Study Strategies Inventory)、CSSS(College Survival and Success Scale)、VARKなど数多くの評価を用いたり、様々なことについて学ぶというもの。各セメスターに1回行うらしい。現在の問題は学生側のコミットメント。例えば先日行ったイベントでは70人が登録したにもかかわらず、約半数しか現れなかったらしい。

<その他に聞いた質問の覚え書き>
Q:ピア学生の育成方法
A:CRLA (College Reading & Learning Association)に基づくトレーニングを実施しているとのこと。実際の本としてMacDonald, R. B. 2000. The Master Tutor: A Guidebook for more effective tutoring. The Cambridge Stratford Study Skills Institute.を紹介してもらった。

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一日目はとにかく忙しい日だった。キャンパスが4つあり、しかもその間に結構な距離(車で30分)があるので大学の教職員にとっても大変だろうなぁと思っていたら、やはりKwantlen大学の人達はそう思っているらしい。夜はDaveとLynさんと共にMad Greek Restaurantに行った。今までギリシャ料理のイメージってあんまり良くなかったけど、ここは美味しかったなぁ。

<2日目>
 2日目はSurreyキャンパスで腰を据えていろんな方からお話を伺った。まず一番目はThe Centre for Academic GrowthのスタッフであるAliceさん。このセンターはいわゆる大学教員(Faculty)への研修を提供する機関である。詳しくはホームページを見てもらえれば分かるけれど、数え切れない位多くの研修機会を提供している。また以前本学でも紹介してもらったISW (Instructional Skills Workshop)は4日間の集中プログラムで数多くの教員が受講している。このワークショップは世界中に広がっているらしい。これらは彼らの昇進や給料につながる訳ではない。話によればCNC (College of New Caledonia)などでは何と研修会の参加を給料に反映させているらしいが、あくまでも例外らしい。理想だけではなく、実際にこのワークショップを受けたという教員に数多く会った(教員のうち約7割は受講している)。日本でも新任教員を中心にこれらのトレーニングを受講することを義務化すれば良いと思う。FDに関しては教員向けの書籍として以下のものを推薦してもらった。

What the Best College Teachers Do?
Enhancing Adult Motivation to Learn
The Skillful Teacher
The Department Chair Primer

その他,日常的な実践としてTeaching Squares(4人組)を作り、お互いのクラスを観察し共有する、などとにかく“share”することが重要だと言われていた。面白いのはEngaged Learning Symposiumなるものを開催していること。このシンポジウムの特徴は、教育実践について教員側だけではなく学生側の発表もあること。日本でもこのような試みは行われていると思うけれど、まだまだ少数派。是非教員と学生が対等の立場で話し合うことのできる学会(あるいはシンポジウム)を日本でも開催できれば良いのではと感じた。高等教育機関の教育ついて考える組織としてISSOTL (International Society for the Scholarship of Teaching and Learning)も紹介していただいた。
 その後、moodleやmaharaの話を聞きたいと思っていたら、学習支援センターのスタッフの一人であるAlissaさんが詳しいということで、話をしてくれた。どうやらガジェットやテクノロジー大好きな人だったらしく、WordPressFLIP(日本でも買えるんだろうか?)の話もしてくれた。Macユーザーらしい、うん、良い人(勝手な思い込み)。カナダのオンライン大学Athabasca UniversityではMaharaのデモも見れるらしい(まだ見つけられてないけど)。
 そしてその後Wayneさんからビジネススクールで採用しているCases Approachについての説明を受けた。教員は題材のみを提供し,それに基づいて学生は調査を行い論理的な分析に基づいて発表をする事を求められる。教員の授業での役割は単にサポートするだけ。このような学生中心の授業は非常に面白いと感じた。そしてその後国際交流のSandraさんとも談笑。日本とのつながりもあるらしく,非常に楽しいお話ができた。

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二日目は一つのキャンパスに腰を据えて深い話ができた。特に大学教員間における教育への意識,そして教育力の向上を目指すためには,きちんとした組織作りが必要だとつくづく感じた。夜はSteaveston Seafood Houseに行った。道中「カナダとアメリカって似たような国?」という所僕の質問から火が着き、夕食の間はずーっと盛り上がっていた。というかカナダ食事がおいしゅうございます。

<3日目>
 視察最終日の午前中はUBC (University of British Columbia)のLearning Centreを視察した。その中のLearning Commonsは学生を主体に運営しているらしい。また日本で言うところの初年次教育の授業もある。この辺りについてはまだリサーチが済んでいないので,また後日まとめてみたい。
 午後はthe old spaghetti factoryで昼食をとり少し休憩。そして夕方から前日Wayneさんから話を聞いたCases Approachに基づいた授業を観察させていただいた。2つのグループがPowerPointを用いてプレゼンテーション。そして最後の短い時間を使って講師が説明というスタイル。文化差はあるとは言え,学生の参加度は素晴らしいものだった。

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夜はLynさんと遅めの夕食。さすがにみんな疲れていたので早めに就寝した。

まとめ
 機中泊2日,現地4泊という何とも忙しい視察ではあったが,非常に実りの多いものであった。何よりもこの視察は今回の成果というよりも数年間かけてLynさんと広島修道大学との関係を緊密にしてきた前センター長をはじめとした人たちの努力の結果である。先方も忙しい中,こちらが忙しくて参ってしまう位,多くの事を経験させていただいた。カナダと日本における学習支援に対する考え方は当然のことながら異なる。だから全てのことをそのまま日本に応用することはできないが,何よりも素晴らしいのはきちんとした組織を作り一貫したマニュアルなどに基づき運営しているということだと思う。
 できるだけ早いうちに3日目の視察についてもまとめたいが,UBCのように学生が自然と集まってくる大学とは異なり,今回視察をしたKwantlen Polytechnic UniversityはPolytechnicということばが入っていることから分かるように,いわゆる工芸学校(日本の辞書の訳に基づくと何だか変だけど)であるということが興味深い。本学と同じように多くの学生が仕事と学業との両立を模索している。また大学での授業が終わるとすぐに仕事に向かってしまうため,大学内におけるコミュニティー作りが重要だという認識があるようだ。この辺りはいわゆる一流大学における学習支援とは異なり,日本の大学とも近く参考になることが多いのではないだろうか。
 あまりにも内容が盛りだくさんで頭を整理するのに時間がかかること,また今回の視察内容に関して5月に報告をするよう求められているので,また後日いろいろと整理したい。

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