2010年3月3日水曜日

第19回広島外国語教育研究センター外国語教育研究集会

 2010年3月2日(火曜日)、広島大学にて第19回広島外国語教育研究センター外国語教育研究集会が開催された。広島大学を卒業して早10年以上。記憶は薄れつつあるけれど、久々にいわゆる国立総合大学の雰囲気を感じることができて楽しかった。やっぱり大規模の大学というのは休み期間中であっても活気があって刺激的(対する我が地方私立大学は休みに入ると文字通り閑散とする)。そんなことはともかく覚え書き。

山森光陽(国立教育政策研究所)
「学習支援としての教育評価とポートフォリオ評価の位置づけ」

 ポートフォリオ評価についての概論。以下,その要旨。

学習支援としての教育評価を考えると,

*学習者にとっての評価
学習者自身の個人差に適合的な教育を受けるため、学習者が教育目標を達成するための手がかりとして、後続する学習活動に取り組むため、の評価

*教師にとっての評価
学習者にとって適合的な学習指導を計画し実施するため、指導方法の改善、後続する学習指導をより効果的なものにするため、外部への説明責任を果たすため、の評価

である。評価には、診断的評価、総括的評価などがあるが、形成的評価とは、

「すべての学習者が目標を達成できるようにするために、指導実施途中の学習者の学習状況を把握し、教師の指導方法や学習者自身の学習の進め方を改善するために実施する評価」

である。以上のことを考えると、継時的に学習者の能力の変化をたどることができる、指導と評価の一体化を図る、学習者が「何ができるか」を提示する機会を提供する、学習者に振り返りを促し、自己評価するスキルの育成に寄与する、教師と学習者が学習者の進歩を共有する機会を与えうる、のはポートフォリオ評価である。ポートフォリオ評価に至るまでの流れとして,以下の2つの流れがある。

*教育評価
Lado=discrete point testing,言語要素を個別にテストする必要性
Carroll=コミュニケーションを統括的にとらえる必要性
CEFR=全体的な尺度の必要性

*外国語教育評価
Thorndike=分量的に存在するものは測定できる
Wiggins=学習者が現実場面における問題解決能力持ちうるかを評価する

これらの流れから代替評価(現実場面における問題解決に必要な能力をその場面に即した形で直接的に査定した結果をもとに評価)、パフォーマンスアセスメントが必要と言える。

英語科目においては残念ながら4技能の呪縛から逃れられていない。パフォーマンスアセスメントの成否は、潜在的な能力の様相を記述できるかどうかが重要。ポートフォリオ評価はパフォーマンス評価の発展系であり、継時的複数(一時点単一)のもの。目的的、計画的に学習者に関する資料を蓄積し、あらかじめ定められたルーブリックに基づいて評価を行わなければならない。

ポートフォリオ評価を実施するには目的、何を入れるか、評価における学習者の役割、評価方法と基準を決める、などが必要。実施における壁としては、時間の確保、信頼性・妥当性の確保、などがある。

まとめ
・評価は学習者が首尾よく学習活動を進めるために過くべからざるものである。
・形成的評価の充実が学習支援につながり、そのための方法の1つとしてのポートフォリオ評価
・部分ではなく、全体、単一能力ではなく問題解決能力を評価しようとする動きによるパフォーマンス評価の考え方の重視
・パフォーマンス評価の発展系としてのポートフォリオ評価

Measurement and assessment in education(参考書籍)。
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最近巷に蔓延っているポートフォリオという概念を1から丁寧に説明していただいたという点では非常に有益であった。PowerPointのスライドやたとえ話など,聴衆を楽しませようという心遣いは有り難いのだけど,とっても身内な内容が多く部外者には「???」というものもあった。こういった概論的な話につきまといがちな問題としては,「ではその理論に基づいて具体的にはどうすれば良いの?」ということが見えにくい所。特に外国語教育においてポートフォリを評価をどのように実施すれば良いかについては疑問が残った。というところで次の話に続くのだろうけれど。。。

樗木勇作(愛知淑徳大学)
「全学英語教育におけるマスカスタマイゼイションー愛知淑徳大学の試みー」

 漢字が難しいのだけど「おてき」先生による愛知淑徳大学における試み。大学の内情なども包み隠さず話して下さって面白かった。話を聞いている限りはこれらの試みについて中心になってやっていらっしゃるようで,本学でも導入しようとしているポートフォリオの参考になった。愛知淑徳大学では英語科目においてeラーニングを活用している(10科目中6科目)。そしてASU English.comと称して,ASU Writing(電子掲示板),TOEFL Writing (Criterionを利用したもの)英語学習相談、電子カルテの活用をしている。また到達度を測定するために,TOEIC IP(年5回)、TOEFIL ITP(年2回)を実施している。

 電子ポートフォリオは電子カルテとBlackboardの2つから構成され,電子カルテはFileMakerを利用して作成している。その内容は,TOEICスコア、TOEIC Abilities Measured、英語授業履修履歴、英語学習相談履歴、ASU English.com履歴、基礎からのやり直し英語カルテ(大学院生のサポート4週間)、ALC NetAcadey 2学外アクセス履歴、履修登録案内画面、など。

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広島修道大学でも導入しようとしているeポートフォリオ。その実例としていろいろと紹介していただいたので参考になった。但し,1つ目の講演におけるポートフォリオという概念と2つ目の講演におけるポートフォリオという概念は少し乖離している気もする。ポートフォリオという言葉を用いるのであれば,やはり学生側からの働きかけがもう少し加わらなければいけないのではないだろうか。


全体の感想(研究集会とは関係ないけど)
 年に1回センターとしてこのような研究会を開催し紀要も刊行するというのは素晴らしいことだと思う。地方の私立大学ではどうもそのような勢いがないので,見習わなければいけないなぁ。広島大学で導入している到達目標型教育プログラム(Hiprospects)や現在建築中の学生プラザ棟には興味を引かれた。一度時間がある時に調べなければ。


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