2009年3月26日木曜日

広島市立大学の英語教育改革-「訓練科目」としての「CALL英語集中」と「指導科目」としての「英語応用演習」- 

2009年3月25日に本学において第3回初年次教育セミナー が行われた。

 講師は広島市立大学の青木信之、渡辺智恵両先生。講演題目は「広島市立大学の英語教育改革-「訓練科目」としての「CALL英語集中」と「指導科目」としての「英語応用演習」-」であった。広島市立大学では2003年に文部科学省のGPの補助金を獲得し、オンライン英語システムおよびカリキュラムの開発に力を注いできた。GPを獲得した時点でも本学にお招きし講演をしていただいたのだが、今回はいわゆるそのフォローアップという形。

 まずは青木先生が指摘する大学英語教育における3つの根幹的問題として,1)学習時間の絶対的不足、2)集中的な学習の不足、3)実践的に英語を使う機会の不足の3点を挙げた。

 それを元にコンピュータを用いた学習を導入し(400名もの履修者のクラスを一人の教員が担当)、その余力で少人数教育を実現した。具体的には2年間のカリキュラムで、

1年次:
TOEIC 前期:CALL英語集中・英語応用演習I,TOEIC、後期:II、TOEIC
2年次
III, IV

という形で2つの授業科目をペアにして実施し,前期末,後期末のTOEICの受験で点数の伸びを測定する。

 外国語学習はスポーツ・楽器の習得とほぼ同じと考える。訓練をコンピュータで行い集中的かつ大量の学習を行わせると同時に、指導科目において実践的に英語を使用させる。少人数クラスである「英語応用演習」では、15名程度でスピーキングとライティングをALL in ENGLISHで行う。そしてCALL英語集中は完全自習、初、中、上級に分け、能力別のクラス編成。2週間ごとに消化期限を設け駆け込みの学習を防止する。評価は消化率とTOEICの伸び率で行う。

伸び得点はTOEIC伸び(事後スコア-事前スコア)÷伸び余地(990-事前スコア)×100の計算式。

 約1時間の講演後、30分間の質疑応答を行ったが、熱のこもった講演にふさわしく、時間が不足するほど多くの熱のこもった質疑応答が行われた。

個人的な感想:
 e ラーニングを利用するメリットはその余力で少人数教育を実現できる所である。そういう意味でこのような「訓練科目」と「指導科目」の両輪を用いて英語教育を推進しようという考えは間違っていないし、今後の主流になるのではないかと思われる。最近eラーニング関連の研修会などに参加させていただいて思うのは、「eラーニングはあくまでもツールであり、適切な目的で適切な場面で用いなければいけない」ということ。eラーニングだから何でもできるのではなくて、eラーニングだからできることとできないことがあるのである。このような流れは非常に健全なものだと思う。その一方でいくつかの疑問も残った。今回の講演ではオフレコでTOEICの点数の伸び率なども見せていただが、どうも上級者にはeラーニングの効果が見られるが、下位者にはあまり見られないということである。それに関していくつかの説明もされていた(例えばeラーニングを行う際の集中力の欠如など)が、何よりもやはり下位者には昔ながらの手取り足取りの指導のほうが好ましいのではないかと感じる。自分ひとりできちんと勉強できれば学力の差なんか生まれないわけで、今後は全学統一のプログラムということを謳うよりも、レベルに応じたプログラムを考えていく必要があるのではないだろうか。それと今回の講演ではTOEICの伸び=訓練科目の成果と結び付けられているような印象を受けたが、2つの授業科目を実施しているのだから、指導科目における相乗効果もあるだろう。そう考えたときに指導科目ではスピーキングとライティングしか行わないのではなく、その他の技能も教えるとより効果が高まるのではないだろうか。

 何はともあれeラーニングを用いた先進的な取り組みから学ぶことが数多くある。今後は1)カリキュラムの中でのeラーニングの位置づけ、2)eラーニングで用いるコンテンツの開発、などを考えていく必要があるように思う。

0 件のコメント: