2009年9月6日日曜日

第48回JACET全国大会覚え書き

JACET全国大会が2009年9月4~6日に北海学園大学にて開催された。札幌すすきのから地下鉄で一駅、しかも駅とキャンパスが直結しているという何ともうらやましい大学。都市の中心部にある大学はうらやましいと思う反面、学生は勉強しないだろうなぁ。。。それはともかく覚え書き。

Mark Warschauer, Teaching for Global Literacy
 この分野においては超有名人のWarschauer氏がカリフォルニア大学アーバイン校からの遠隔中継で講演された。日立のテクノロジーすごい。ここまでストレス無く映像および音声が送れるのはすごい。おそらく日立の威信をかけていたのではないだろうか。けれどもいつも思うのはこういったテクノロジーはまだまだ発展途上だということ。学会発表でパワーポイントを使うのでさえ未だ100%問題が起きないとは誰も保障できない。今回もスタッフが数多く張り付いてトラブルを未然に防ぐべく待機していた。もしかすると直接講師に来てもらったほうが安かったりして。
 それはともかく非常に話の上手な人でした。日本人が聴衆ということで日本のことについても多く触れられていた。話をあまりにも簡潔に要約するとICTを用いることによって英語学習が促進されるということ。
Simple English Wikipediaなんてあるの知らなかった。

Shin’ichi INOI(猪井新一・茨城大学). A discourse analysis of JEFLLs’ English narrative texts in terms of referential distance.
JEFLLと英語母語話者の指示詞およびその距離の関連を探る研究(Wash and core six cooking apples. Put them into a fire proof dish. Halliday & Hasan, 1976より)。Givonのtopic continuity scaleによれば、more continuous / accessible topicsからmore discontinuous / inaccessible topicsの順にzero anaphora, unstressed/bound pronouns, stressed/independent pronouns, full NP’sがある。英語母語話者は距離によって使い分けることが出来ているのに、日本人英語学習者はできていないということが明らかになった。
こういう研究は個人的に好みです。
Chiho KOBAYASHI(小林千穂・天理大学). Comparing electronic and printed dictionaries in word retention.
 過去の先行研究をもとに、電子辞書と紙媒体の辞書を使った場合の語の記憶保持(word retention)の差異について調査したもの。Word retentionについてはVocabulary Knowledge Scale (VKS) (Paribakht & Wesche, 1993; 1997)を採用した。被験者は大学生37名。英語専攻でTOEFL平均348.75。そして上位(413.89)、下位(279.41)グループに分けた。リーディングのテキストはGrade Level 8程度の週間STの記事2つ。13語のターゲットワードが選択された。また自由記述式の読解テストおよび2つのタイプ(多肢選択、自由記述)の語彙テストを作成した。1週目にターゲットワードと幾つかのダミーを提示。4週目に30分ずつ2種類のテキストをそれぞれ2つのグループが紙、電子辞書を用いて、わからない単語に印をつけ読解テストを受けた。そして5週目に2種類の語彙テストを受けた。結果、EDの方が辞書をよく引く、電子辞書と紙媒体の辞書には語の記憶保持に違いが無かったこと、EDの方が読解テストにおいてスコアが良かったこと、EDは語の意味理解を手助けしたかもしれないが、記憶保持には役立たなかった、などの結果が得られた。これらの理由としてはテキストが難しかったこと、floor effectなどが考えられる。その他、下位グループにおいてのみ電子辞書のほうが、紙よりもテキストをよく理解したこと、上位グループにおいては知らない単語が少なかったため、コンテクストから推測できたと考えられる。
 単語の記憶を成績評価の一部に加えたのか、あるいは実験の目的のみであると伝えたのか。テキストが難しすぎたのではないか、などの点が気になった。
Paribakkht, T.S., & Wesche, M. (1993). The relationship between reading comprehension and second language development in a comprehension-based ESL programme. TESL Canada Journal, 11(1), 9-27.
Paribakkht, T.S., & Wesche, M. (1997). Vocabulary enhancement activities and reading for meaning in second language vocabulary acquisition. In J. Coady & T. Huckin (eds), Second language vocabulary acquisition: A rational for pedagogy (pp. 174-200). Cambridge University Press.
Anthony, Green (University of Bedfordshire). The Common European Framework in the Language Curriculum: Practices and Issues.
 ヨーロッパで採用されているCEFR (Common European Framework of Reference)についての概要説明。内容については実物を見ればわかるので省略するが、従来の4技能という考えではなく5技能という概念を導入していることは興味深い。具体的にはスピーキングをspoken interactionとspoken productionに分けているらしい。きれいなイギリス英語を久々に聞けて何だか嬉しかった(違うか)。
小山由紀江(名古屋工業大学)「Moodleを用いた英語授業の活性化」
 社会構造主義の教育理念のもとに開発されているMoodleソフトウェアの紹介。名古屋工業大学では2007年より教務システムと連動し全コース(2008年度1735コース)をMoodleにのせた。またICカードとシングルサインオンによる認証によって教員や学生は学内外からアクセスできる。が現状としては利用している教員は全教員の1/4に過ぎないらしい。こうした大学全体の現状とともに英語の授業にMoodleを取り入れた実践について報告された。何よりもこのように大学をあげてMoodleを利用する環境を整えていることが素晴らしいし羨ましい。
大澤真也・岡田あずさ「広島修道大学における「e-learning英語」科目改善の試み」
 今回はこれがメイン。2007年度から本学で導入した「e-learning英語」科目改善の試みを経年で紹介した。教室内でeラーニングを行うという形態からどのようにブレンディッドな形態に持っていくのか。元来リサーチやデータ収集目的で始めた実践ではないので、一言で言うと「泥臭い」もので、綺麗な(データの提示および綿密な検証)実践報告ではなかったと思う。その分、現状を話せる範囲でありのままに話したことによって共感してもらえた部分があるのか、フロアからは複数の質問が出て非常に有難かった。主には1)eラーニング部分の成績評価方法、2)成績評価におけるTOEICスコアの割合、3)eラーニングを完全自習型にすることの問題点、4)英語ピア制度に関すること、などの質問が出た。発表としては様々な問題点を率直にフロアと共有できたという意味で○。実践報告としては△。もしもこれが研究発表だったら×。フロアの反応は良かったように思うが、共感してもらえたのか、それとも笑われただけだったりして。。。
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 JACETの全国大会に出たのは初めてだったのだけれど、大学英語教員が一堂に会して行われる学会であり非常に面白かった。今回は市民フォーラム「変わる大学英語」ということで特別企画が行われたのだけれど(とは言え市民はいなかったような)、全国各地の大学が英語教育改革に真摯に取り組んでいることは特筆されるべきであろう。その証拠に多くのポスターセッションが行われ、聴衆も多く盛況であった。
 今年度からの特徴としては発表言語をなるべく英語にするということであったらしい。今後国際学会にしたいという思惑があるとのことであったが、その甲斐があってか他の学会に比べると各国から研究者・教育者が集まっていたと思う。けれども自戒の念を込めて言えば、日本人の英語力はたとえ教員であったとしても高いとは言えない。特にこういった発表能力には慣れが必要であり、残念ながら英語で発表することによって内容がわかりにくくなってしまっているものもあったのではないだろうか。個人的にはやはり母語で発表した方が議論が深まるので好きなのだけれど、海外にメッセージを発信していくためにはやはり英語での発表能力は必要かなぁ。

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